第131話 レティの可能性
強制的に生徒会メンバーに入れられた為に、学園行事に追われ、その上、料理クラブに、語学クラブに騎士クラブ………
大変そうだったが、好きな物には労力を惜しまないレティの毎日は充実していた。
そして、春からレティは本格的に薬の研究を始めた。
家の庭にも、薬草を植えて、小さな小屋を建てて貰い、臼や鍋を買い、家でも研究出来る様にした。
立ち込める薬草の匂いに、家族からは苦情が来たが、慣れてしまえば慣れるもので、レティの作る手荒れ用の軟膏や傷薬は、使用人達が喜んでくれていた。
********
虎の穴へ行った時に、薬草園の奥に建っているガラス張りの建物への見学をお願いした。
薬学研究所の皆で案内してくれた。
薬学研究所のメンバーは8名でレティは9番目のメンバーとなった。
ゾロゾロと9名の白のローブの薬師達が、皇宮の薬草園を歩いて行く………
この薬草は、腹痛止めになります。
この薬草とあちらの薬草を擦り合わせて………
色々と説明を受けながら、ガラス張りの建物に到着した。
厳重に管理された、ドアを開けると、凄く強い薬草の匂いがした。
本でしか見た事の無い薬草達のオンパレードで、興奮を隠せないレティであった。
「 リティエラ嬢は勉強熱心だから、直ぐに難しい調合も出来る様になりますよ 」
おう!頑張るぜ!
幾つかの、貴重な薬草を虎の穴の薬草学研究室に持って帰って、勉強をする事になった。
「 僕の白の魔女さんは、何時でも元気だ…… 」
研究室の窓から見えるレティは、他の薬師達とワチャワチャやっていた。
あんなに目をキラキラさせて………
可愛いなあ………
「 お可愛らしいですね、リティエラ嬢は……」
ルーピン所長が、アルベルトの横に来て、目を細めながらレティを見ていた。
「 俺のだからね 」
「 殿下は、リティエラ嬢を縛り付けるおつもりですか? 」
「 どう言う意味だ? 」
「彼女の可能性は計り知れないのでは? ………失礼しました……殿下、軍事式典での魔力の練習を……… 」
ルーピンはそう言うと魔法の部屋に行った。
可能性か………
レティの帰る時間に合わせて、アルベルトは迎えに行った。
「 レティ、帰るよ 」
「 はい 」
レティがニコニコとやって来た。
アルベルトが手を伸ばすと、レティが手を繋いで来た。
可愛い………
「 あれ? 随分ご機嫌さんだね? 」
「 今日はね、あのガラス張りの建物に皆で行ったの 」
あんな所の何が嬉しいのか………
「 本に載っていた珍しい薬草があって………」
レティは嬉しそうに薬草について話し始めた。
「 次はね、毒薬と毒消しをつくるの……… 」
うっとりとしてるレティ………
「 随分物騒な物を作るんだね? 」
「 あらゆる物を調合できて、初めて新薬に辿り着く事が出来るのよ………」
「 何の新薬? 」
「 それは……… 」
あっ、しまった……
4年後の流行り病の新薬だなんて言えないわよね………
「 新薬を作るのが、虎の穴の薬師の使命だわ……」
「 君は………薬師になりたいの? 」
いえ………
新薬を作りたいだけ……とは言えないし………
う~ん………
生き残りたいだけ……とも言えないし………
色んなものに手を出し過ぎているからか、なりたいものを聞かれても困るわね………
「 自分の可能性に挑戦するって事よ 」
ああ……
やはりレティの未来には皇太子妃は無いのだろう。
アルベルトは、レティの亜麻色の髪を一房手に取り、口付けをした………
「 ………薬草臭いね……… 」
「 ……… 」
レティは、ムッとして、スタスタと行ってしまった………
アルベルトは慌ててレティの手を取り、掌にキスをした。
「 手も、薬草臭い………」
じゃあ、もう手を繋がない!
レティはプンプン怒り、アルベルトはクックッと笑っている。
「 ごめん、ごめん……でもね、レティと手を繋がないと僕は死んじゃう病気なんだ 」
「 何の病気かしら? 」
「 だからね、白の魔女さんは治してくれなきゃ…… 」
………と、言いながら、アルベルトはレティと手を繋いだ。
「 あっ、生き返った 」
アルベルトが嬉しそうに、レティを見下ろし、レティはアルベルトを見上げ、二人でクスクスと笑い合う。
二人の甘い甘い時間が過ぎていく……
********
アルベルトは
皇太子宮の自分の広い部屋で考えていた。
この独りの部屋に、レティが来る事を待ち望んでいる。
しかし………
ルーピンの言っていた事を思い巡らす………
前からアルベルトが懸念していた事でもあった。
レティは天才だ。
レティを好きだと追いかけ回し、縛り付けようとしてる俺は、ただの独占欲の固まりでしかない………
アルベルトはレティが16歳になると、正式に婚姻を申し込み、婚約をしようと思っていた。
急がねばならない程に、水面下では皇太子妃選びが進行して行っているのであった。
レティに出会う前は
皇族である以上は、政略結婚も仕方ないと諦めていた……
だけど、今はレティしかいらない。
しかし……
俺は………
少しでもレティの事を考えた事があるのか………
アルベルトは夜の皇都を
痛む胸で見下ろしていた………
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