第132話 雨の日に



小雨の中、お兄様が待ってる馬車まで全力疾走したら、目の前で馬車が走り出した。



えっ!?


「 悪い、レティ、腹が痛くて、ピーが出る……… 」



立ち尽くす私に、更なる悲劇が………

いきなり雨が、滝の様に降って来たのだ。


全身びしょ濡れになって、今の状況が飲み込めずに立ち尽くしていたら、傘を差しかけられた。


あっ……

「 殿下……… 」

「 ラウルは酷いね 」

「 お腹が痛くて、………漏れそうなんだって 」

殿下は、口を押さえて笑ってる………



「 送るよ、おいで……… 」

「 でも、私、びしょ濡れだから、馬車が汚れちゃう……… 」

「 構わないよ、風邪引くよ、おいで 」

殿下は、私に傘を差しかけたまま歩きだした。

殿下を見ると、右肩が雨で濡れていた。


「 殿下が濡れちゃいます、私はもうびしょ濡れだから濡れても平気です 」

………と言って、傘を持つ殿下の手を押した。


「 レティ、怒るよ 」

………と、私の方を向くと、慌てて顔を反らして……

殿下の耳が少し赤くなっていた。



殿下の馬車に乗り込むと、

殿下が、私の方を見ないようにして、タオルを差し出している。


「 有り難うござ………えっっ………」


白いブラウスが、雨で透けて、肌と下着があらわになっていた………


うわ~……どうしょう………

恥ずかしい………

頬が熱くなり、ドキドキが止まらない


殿下は馬車の窓に肘を置き、窓の外を見ていた。

私は、髪をタオルで拭き、肌が見えない様にタオルを首から掛けた。



沈黙が流れ、カラカラと馬車の音だけが響いていた。



馬車が静かに公爵邸に着いた。

「 じゃあね、風邪引かない様にね 」

「 有り難うございます 」




「 お兄様、お腹は治ったのですか? 薬を渡しましょうか? 」

「 おう!悪かった、でも、アルが後ろに見えたからアルに送って貰えると思ったんだ 」


ラウルは渡した薬を飲みながら言った。

「 お前……顔が赤いぞ、さては、アルになんかされたな? 」

「 まさか! お兄様のせいで、びしょ濡れになったんだから 」


「 その薬は下剤よ!ふん!(本当は嘘) 」

「 嘘だろ! 」


私はニヤリとしながら、お風呂に入りに行った。




湯船に浸かりながら………

殿下を想う………



殿下は優しい………

私にだけじゃなく、きっと皆にお優しいのだわ……



殿下が皇子様じゃ無かったら良かったのに……

エドやレオなら良かったのに………


それなら直ぐに大好きって言えるのに……

王女と踊らないで、私だけと踊ってと言えるのに……


何で、4度も同じ場面を見なければならないのだろう?

殿下と王女の踊ってる所なんて見たくないのに………

殿下が恋に落ちる瞬間なんて見たくないのに………



ああ………

駄目駄目……

頑張れ、リティエラ!



私のデビュタントは……

今回は、お兄様か……エドかレオのどれかと踊るつもりなんだから!


「 レティ? 長湯をしてるとのぼせちゃいますよ 」

あっ、お母様が心配してるわ……


「 はぁい、もう出まーす 」



ふう……

殿下にタオルを返さなくっちゃね………






********





ラウルの腹痛に感謝すべきか……

心臓が止まりそうだ……



雨に濡れたレティの美しさにハッとした。

雨で張り付いたブラウス越しのレティの肌に、ドギマギした。



俺が抱き締めてるレティの身体は、あんなに綺麗なんだ……

これからは意識してしまうではないか……


アルベルトは、まだ耳が赤かった……



はぁ………



レティはもう湯船に浸かって、温まってるのかな……

ラウルに文句を言ってるんだろうね。

目を吊り上げて、頬っぺを膨らませて……




「 皇子様お帰りなさいませ 」

皇太子宮に着くと、沢山の侍女やメイドが出迎える………


部屋に入ると

侍女達が、着替えの用意をして待っていた。


「 皇子様、少し雨に濡れましたか?、湯浴みをなさいます? 」


「 いい、少し濡れただけだ 」

制服を脱ぎながら言う。


「 かしこまりました、では、温かいお茶を用意します 」

「 ああ、そうしてくれ 」


侍女達が部屋から出ていき、静かになる部屋………



レティ………

俺はやっぱり、君がここに来てほしいよ。


さっき別れたばかりなのに

もう、こんなにも恋しい………



レティ………






二人の想いはどこまでも交わらないのであった……










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