第129話 シャルウィダンス?
ウォリウォール家では
近付いたレティのデビュタントの準備に花が咲いていた。
デビュタントでは、貴族の若い女性が、社交界にデビューする大事な晴れ舞台となる。
シルフィード帝国では、男女共に16歳で成人となる。
16歳となった新成人は、1年に4回ある皇室主催の行事の後に行われる舞踏会の前に、皇帝陛下、皇后陛下、皇太子殿下に挨拶に行き、成人の仲間入りをしたお祝いのお言葉を頂戴するのである。
レティは誕生日が6月なので、7月に行われる軍事式典の後にある舞踏会で、デビュタントを迎えるのである。
「 殿下はきっと、レティのお誕生日に、殿下の瞳の色のアイスブルーのネックレスを贈って下さるから……ドレスの色はそれに合わせた物にしなきゃ駄目よ 」
いやいや、お母様………
それは……ちょっと危ない考えかと………
母は、私がドレスのデザインをするのを知っているので、色々と希望を述べて来るのである。
侍女長のハイネは
どの位大きな宝石ですかね?
………と、図々しい妄想を巡らせているのだった。
「 あら? レティ、少し背が伸びたかしら? 」
「 お兄様、ちょっと並んで下さる? 」
ソファーに座って本を読んでいたラウルを立たせる。
ラウルとレティで背比べをすると、レティはラウルの肩位の身長であった。
「 殿下はラウルよりも背が高いから………レティは殿下の胸の辺り位かしら? 」
母はダンスの事を言っていたのだ。
「 お母様、ワタクシまだ、誰からもダンスのお誘いを受けてませんわ 」
「 あら、まあまあまあ……こんなお綺麗なお嬢様がなんて事でしょう………」
侍女長のハイネが、頬を押さえながら言う。
「 きっと殿下がお誘いをしてると思って、どの殿方もご遠慮なさってるのよ 」
母は、何処までも殿下推しだった。
********
デビュタントのファーストダンスは、男性ならば誰でもお相手をしたい名誉あるものなので、クラスメイトのマリアンヌやユリベラも、もう既にダンスのパートナーが決まっているらしい。
「 リティエラ様は、皇子様とファーストダンスを踊られるなんて………素敵ですわ 」
マリアンヌとユリベラ達が、うっとりと妄想をしていた。
勝手に期待されても困るんだけどなぁ。
どの人生でも、この時の晩餐会では、皇太子殿下は王女様と踊っただけ………
二人はこの時に恋に落ちちゃうのよ。
それは決まってる事なの………
私はふぅっと溜め息を一つ付いた………
あれ?
私のデビュタントは誰と踊ったのかしら?
うーん………
いくら考えても思い出せない……
お兄様……でも無いし………
エドもレオも違う………
うーん………
誰と踊ったんだろう?
そもそも踊ったのかしら?
皇太子殿下と王女様の楽しく踊る姿にショックを受けて、立ち去った説が有効かも………
うーん………と頭を抱える。
「 レティ? 頭を抱えて何を唸ってるのかな? 」
殿下が、クスクス笑いながら、生徒会室に入ってきた。
「 私のデビュタントのファーストダンスは誰と踊ったのかなって………」
あっ!しまった………
過去形になってしまったわ………
「 レティ………僕と踊るんじゃ無いの? 」
驚いた様に言う殿下と、暫しみつめあう………
いや、睨み合うが正しい………
いやいやいや………
貴方は王女様としか踊らなかったでしょ?
「 私は誰とも約束しないわ ……最初に一緒に踊りましょうと言ってくれた人と踊るわ……… 」
ね?、殿下、良い考えでしょ?
約束なんかしてたら、私と無理して踊らなきゃ駄目でしょ?
殿下は王女様としか踊りたく無くなってしまうんだから………
私に感謝しなさいよね。
アルベルトは、鼻唄を歌いながら本を読むレティを呆然として見ていた………
クリスマスの時に告白してから、ずっと手を繋いで来たのも………
二人でデートに行ったのも………
レティがデートに誘ってくれたのも
想いが通じあってるからだからと思っていたのに………
違うのか?
レティのデビュタントでファーストダンスを踊るのは、当然自分だと思っていた………
俺を慕っていると言ったのは……
やはり寝惚けていただけだったのか?
いや、そんな事は無い。
レティも絶対に俺を好きだと言う確信がある。
やはり………
皇太子妃が嫌なのか………
天才レティの未来への可能性は計り知れないのである。
医師になりたいのかも知れない。
騎士になりたいのかも知れない。
異国へ行きたいのかも知れない。
アルベルトは
自分が皇太子である事を恨んだ。
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