第112話 閑話─マフラーの謎



レティは

アルベルトがマフラーをしているのを見ると、思い詰めた様に、目をキッと真ん丸くしてスタスタとやって来る。


アルベルトに屈む様に手でちょいちょいと合図して、屈んだアルベルトに背伸びをして、マフラーを巻き直す。

そして、これでよし!と言って、立ち去って行くのである。



アルベルトは理由はさっぱり分からなかったが、このレティの行動が嬉しくて、毎日がご機嫌だった。



アルベルトの首に手を回し、ピンクバイオレットの大きくまあるい瞳で見上げて来るレティに、毎回チューしたくなるが、余計な事をして止められたら嫌だったので、レティにされるがままになっていた。



至福の時だった…………



なので、レティに会える料理クラブの帰りは、何時にも増して楽しみだった。




「 殿下、ただいまです 」

「 お帰り、レティ 」



料理クラブの調理室から出て来たレティが、アルベルトの座っているベンチにスタスタとやって来て、何時もそうする様に、無言でマフラーを巻き直してくれた。



アルベルトはベンチに座ったままで、レティに身を任せている。

尻尾がブルンブルンと振られて嬉しさを隠しきれない。



ふと、アルベルトは金色の豚の刺繍が隠れている事に気付いた。

「 レティ、可愛い豚が隠れちゃってるよ 」

「 隠してるのよ 」


「 何で?! レティが豚の刺繍をしたんじゃ無いの? 」

「 …………豚じゃ無いわ 」


「 それは、ライオン 」

レティは、良し出来た。と、呟いて、スタスタと並木道を歩いて行く。



ライオン?………金色のライオン………

アルベルトは暫し考えて、動かなくなった。



そして 「 金の…… 」と呟くと、レティを追い掛け、後ろからギュウギュウ抱き締めた。



「 キャアッ!」

「 有り難う、レティ 」



聖杯と聖剣と金のライオンは皇室の紋章である。



「 レティ、大好きだよ 」

アルベルトはレティをバックハグしたまま、レティの頭に頬擦りをした。



「 キャア、殿下、皆が見てるのに、止めてよ!」


周りからは、キャアキャアとピンクの声が聞こえて来る。

レティは真っ赤になって、アルベルトの腕の中でもがく。



アルベルトは手を緩めながら聞いた。

「 ………で?………何で隠すんだ? 」

「 豚は皇子様には似合わないわ 」



成る程、謎が解けた。



「 僕は、豚でも構わないのに 」

「 駄目よ、失敗、私、刺繍が苦手なのに、何で刺繍をしちゃったのかしら…… 」



二人は手を繋ぎ歩き出す。


「 スーパーレティにも苦手があるんだね 」

「 何それ? 」

二人は笑いながら、すっかり葉の落ちた並木道を歩く。



アルベルトは、豚よ、有り難う!と豚に感謝した。


この幸せの豚のマフラーを

春も夏も巻く事が出来ないものかと、考えるアルベルトであった。


いや、豚では無いんだけどね………







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