第113話 閑話─どんな未来も
私が初めて薬を作った時に
ゴリゴリゴリゴリと臼で擂り潰し、作りすぎた薬草を、薬学研究室のミレーさんが、後日きちんと痛み止め薬にしてくれた。
私が作った痛み止めは、一応成功はしたが、処方薬として世に出すのは止めて欲しいとお願いした。
私は、2度目の人生では医師であった。
医師である以上は、こんな素人の初めて作った薬を、患者さんに服用させる訳にはいかなかった。
これは、私の医師としての矜持だ。
その日は
完成された痛み止めを
皇宮病院の薬室に届ける様にと、お使いを頼まれた。
皇宮病院はかつて、医師として勉強し働いた場所だった。
そう言えば………
あまりにもの忙しさで、病院の外を歩くなんて事は無かったかも………
………と、1人で薬箱を抱えて歩く。
流石に皇宮だわ………
虎の穴の建物の設備の立派さにも驚いたが、
虎の穴から病院までの道は、広大な土地に色んな薬草や薬木が植えられていた。
奥に建っている硝子張りの巨大な建物の中にも、あらゆる薬草が栽培されているのだろう。
これは、絶対に見学させて貰いたい。
そして、そびえ立つ巨大な皇城。
殿下はここに住んでいるんだわ…………
我が家から見える皇城とは、また違った印象だった。
歩いていると、警備の人達が次々に挨拶をしてくれる。
虎の穴の研究員としての白のローブを着ていなければ、私は、職務質問されているんだろうな………と首をすくめた。
病院の入り口で、首から掛けている名札の証明書を見せて、薬室に行き、薬箱を薬師さんに渡した。
薬箱には鍵が掛けられていた。
双方で鍵を持ってる様だ。
隣にある病院に寄りたかったが
医院長にあったら、医師になれとしつこいので、このまま帰ろうとしたら………
ユーリ先輩にバッタリ会った。
「 君は………ウォリウォール嬢だったね 」
「 ご機嫌よう、リティエラとお呼び下さい 」
「 じゃあ、リティエラ嬢、僕はユーリ・ラ・レクサス、ユーリと呼んでくれたまえ 」
「 聞いたよ、君は天才なんだってね 」
いやいや、貴方から教わっただけですから………
「 どうして、医師にならないの? 」
「 他にやりたい事がありまして………」
「 そうなんだ………残念だね、でも、学園を卒業したら考えてよ 」
それまでに、僕は医師として成長するから、医師の試験に合格したら僕が教えるよ………と、ユーリ先輩からもスカウトされた。
おう……後ろ髪を引かれるじゃないか………
その時
「 おーい、ユーリ!」と誰かが呼んだ。
「 じゃあ、またおいでよ 」
………と、白衣を翻して駆けて行った………
本当は………
医師として働きたい……と言う思いもある。
ノア君を治療し終えた時の達成感は、私の医師としての記憶をくすぐる………
でも、仕方無いじゃない
医師になりたくない理由があるのだから……
皇太子妃の主治医になりたくない、と言うだけの陳腐な理由なんて誰にも言えないわ。
だって………
皇太子妃の主治医になったら当然殿下とも会うことになるし………
二人の世継ぎである赤ちゃんも………
あ~やだやだ………
そんな未来は真っ平ごめんだ。
私が憐れで仕方ない………
帰り道
薬草畑と道を挟んで反対には池があった。
遠くには水鳥達がのんびりと浮かんでいた。
私は、池の川面に石を投げた。
最近、鍛えてるせいか、遠くまで飛ばせた。
石切投げをしたら5段飛びまでいけた。
あう~1人で遊んでしまった……
早く帰らなくっちゃ、今日は新しい薬草を煎じるんだったわ…………
そう言えば
私は領地では何時も1人で遊んでいた。
何でも1人で決めていた。
そんな、子だった。
今でも、お父様もお母様も、私の意見を尊重し何も言わずにいてくれる………
本当に有難い。
虎の穴の方に向かって歩いていると
建物の方から人影が見えた。
殿下だ………
護衛騎士達の姿も見える。
警備の人達が、驚いて敬礼しているわ………
私を迎えに来たのね………
背の高いその人は、ブロンドの髪をキラキラさせて………
私に向かって歩いて来る。
「 僕の可愛い白の魔女さんは、お使いに行ってきたの? 」
破顔して悪戯っぽく笑う。
殿下の私への愛情表現はストレートだ。
この優しい人の愛しい笑顔が
もう直ぐ私以外の女性に向けられるのは、抗えない未来なのだ。
殿下と手を繋ぎ虎の穴に向かう………
殿下は薬箱も持ってくれた。
今では、殿下と手を繋ぐ事が当たり前になっている………
3度の人生では考えられない事が起きている。
未来はもしかしたら変わるのかも知れない。
どんな未来でも、受け止めてみせる!
レティは16歳
アルベルトは18歳になる………
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