第98話 殿下の底知れぬ可能性




雪が降った。

雪が積もれば、馬車が通れないので学園は休みになる。


「 雪だーっ、雪が積もってるーっ 」


部屋の窓を開けようとしたら、凍って開かなかった。

それ程、昨夜は凍えた夜だった。


領地では時折雪が積もったが

皇都では何十年ぶりかのドカ雪が降ったのだった。



私は、厚手のブラウスの上に小作人用のサロペットズボンを履き、コートを羽織り、手袋をはめ、庭に飛び出した。


実は、庭に薬草を植えたので、畑仕事の為に小作人用のサロペットズボンを購入していたのである。


ドレスなんかじゃ、雪と遊べないわ。



早速、雪だるま作りに取りかかった。

大きな玉と小さな玉を作り、どうやって小さな玉を上に乗せようかと思案している時に

「 レティ、朝食を食べろ 」

………と、口をモグモグしながら兄がやって来た。

つまみ食いをしたのであろう。


兄と二人で小さな玉を大きな玉の上に乗せ、目、鼻、口を付けた。


それから家に入り、家族で朝食を取った。

今日は父もお休みだった。



兄が、雪合戦をやろうと言い出し、ラウルチームとレティチームの2つに別れ、公爵家総出の雪合戦が始まった。



勿論、父母と執事のトーマスと侍女頭のハイネは、暖かい居間からお茶を飲みながら見ていた。

トーマスとハイネは夫婦で、私の侍女のマーサと兄の侍従のカイルの両親である。



庭中を皆で駆け回る。

最初は2チーム対抗だったが、次第に、私に容赦ないラウルに反発し、ラウルVS公爵家の戦いになっていた。



「 お前ら卑怯だぞ 」


「 オーホホホ、息の根を止めてあそばしますわ 」


「 お、やってるね 」

「 俺らも入れてくれ 」

……と、エドガーとレオナルドがコートを脱ぎながら、兄側に加勢をした。



こんな面白い日に、ラウルが何もしない筈が無いと、二人で歩いてやって来たのだった。



高位貴族は何時でも皇宮に駆け付けれる様にと

また、皇宮を守る為にと

皇宮の周りに邸宅を構えていたので、エドガーの邸宅も、レオナルドの邸宅も比較的近くにあった。



二人が入った事で形勢は逆転した。

レティ側は人数が圧倒的に多いが、その殆んどが女性だった。


レティは3人からの容赦無い攻撃を受け、雪の中に突っ伏した。


「 うっ……3人がかりで卑怯な…… 」


「 僕のレティに酷いなあ…… 」

私を抱き起こしてくれたのは殿下だった。



突然のアルベルトの登場に戦いがストップした。


「 アル、どうやって来たんだ? 」

ラウルが言う。

「 ライナに乗ってね 」

ライナとはアルベルトの愛馬の白馬の名前だ。


雪道を整備させてるから、帰りは馬車で帰れるよとエドガーとレオナルドに言う。


アルベルトも、こんな日はラウルが何か面白い事を企んでいるとしてやって来たと言った。

………いや、本当はレティに会いに来たんだろうと、兄達は思った。



「 レティ、勇ましい格好だね 」

雪だらけになった私の雪を払いながら、私のサロペットズボン姿をみて殿下が目を細めた。



殿下もコートを脱いだ。

豚のマフラーが気になったので

殿下に屈むように指で合図をし、屈んだ殿下のマフラーを綺麗に結び直して、豚を見えなくした。


よし、皇子様に豚は似合わない。

これは、お洒落番長としての私の矜持。



「 また、イチャイチャやってるよ 」

「 おーい、始めるぞ! 」



アルレテペア VS 悪ガキ3人の、皇太子殿下主催の雪合戦が開始された。



「 レティは雪玉を作って 」

おう!と言うと、私と公爵家の者全員で、雪玉をせっせと作った。


3人対、殿下1人で勝てるのかと思いきや



「 おい、アル、お前の雪玉、何か痛いぞ! 」

3人が逃げながら叫ぶ。


「 まさか、魔力を込めてるんじゃないだろうな、うわっ、痛てえぞ!! 」


「 さあな 」

殿下はニヤリと悪い顔をした。



これ、絶対に魔力を使ってると思った。

「 殿下、制御出来る様になったんですか? 」

「 ちょっとはな、だから実験だ 」

………と、エドガー目掛けて投げる。


「 痛てーっ」……と、エドガーが尻を押さえた。



魔力の入った雪玉は百発百中で命中していた。



これ、ガーゴイルを倒すのに行けるんじゃ無い?

私のテンションが上がった。



「 次はお兄様にぶつけて 」

………と言うと、殿下はラウル目掛けて投げた。

「 うわーっ、痛てえー、レティ、兄になんて事を………」


「 次はレオナルド! 」

殿下はレオナルドに向かって投げる。


「 痛てーっ、アル止めろ!」

「 降参だーっ 」

………と、あっけなく勝負がついた。



「 殿下、凄いわ 」

………キャーっと、殿下に抱きついた。



戦いが終わり暖かい居間に入ると、侍女頭のハイネが皆にフワフワのタオルを渡してくれた。

母が、熱いお茶とお菓子を用意してくれていた。



3人は身体がビリビリすると言っていた。


これ、絶対にガーゴイル討伐にいける!

私は、殿下の底知れぬ可能性に胸が高鳴った。





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