第97話 白の魔女の緑の小瓶




私は魔女。

秘密の部屋で、ひっそりと、惚れ薬を作る為に、大釜で48日間鍋をかき混ぜ続けるのである。


「 オーホホホ 」


「リティエラ嬢、悪役令嬢は置いといて下さい、今から説明しますよ 」


「 あい……………雰囲気出てたのに…… 」

何事にも、形から入りたい私のテンションは高かった。




私は、初めて薬草作りに挑戦するので、虎の穴の薬学研究室で、先輩薬師さん達から指導を受けていたのだ。


2度目の人生では医師だったので、出来上がった薬草の知識と処方はバッチリだが、薬草作りは経験が無いのであった。


ここでは新薬の研究をするだけだが、先ずは薬草を作れる様にならないと、話にならないのである。




白のローブを着た7人の薬師達が私の周りに丸く集まる。

薬学研究室の薬師達は私を入れて8人である。



「 薬草の基本中の基本、痛み止めの薬草を煎じて貰います 」


これと、これと、これ………配分は………この、本を見ながら、石臼で潰して下さいと言われた。


石臼は上下に石があり、取っ手を回す事で擂り潰す事が出来る石臼だ。


ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……………

ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……………

ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……………



「 リティエラ嬢! 少しで良いんです! 少しで………病院じゃないんだから、こんなに潰してどうするんですか!!」


「 はい………つい………」

私は耳を下げてシュンとなった。

面白くて夢中になっちゃったわ…………



「 僕の可愛い白の魔女さん、お早う 」

殿下がクックッと笑っている。


「 殿下、お早うございます、あれ? いつの間に? 」

「 さっきから居たよ、臼に夢中だったね 」

殿下はまだ笑っている。



白のローブの薬師達が殿下に気付いて挨拶をした。


殿下は

「 私の大切な人だから、お手柔らかに頼むよ 」

………と、言い、魔法の部屋に行くと言って部屋を後にした。



大切な人って…………

皆から流れる微妙な空気。

殿下って………

何気に恥ずかしい言葉をペロッと言うよね。




次は、薬草の分量を量り

鍋でかき混ぜながら煮る、煮る、煮る………

おお、これぞ魔女。

一心不乱にかき混ぜる。



白のローブのフードを被り、木ベラでかき混ぜる。

私はもうすっかり魔女だ。

辺りは薬草の匂いが蔓延する。

混ぜ混ぜ混ぜ混ぜ……………



「 もう、立派な魔女さんだね 」

殿下が昼食を食べようと誘いに来た。


時間はあっと言う間に過ぎていた。


「 丁度、完成したわ………… 」

火を消し、後は冷ますだけとなった。



殿下は、前回と同様に魔力の制御をルーピン所長に習ってたらしい。

「 腹減った~ 」と、カフェで今回も二人分を注文した。

魔力を使うと、お腹が空くらしい。


二人で食べてると、赤のローブの物理学者の爺達10人が、わらわらとやって来た。



「 おお、殿下も妃様も仲睦まじく………」

「 いやいや、仲睦まじ過ぎても子種は……… 」

「 ワシの手管を殿下に……… 」


「 だから、止めなさい 」

殿下が食事中だろ?っと爺達を睨む。



「 妃様、ちょっと痩せましたかな? 」


「 だろ? もっと食べないと…… 」

殿下は、自分のお皿の上にある肉をフォークで突き刺し、私の口に持ってきた。

「 ほれ、あ~んして 」


なっ………爺達の前で…………


「 あ~んは? 」

…………パク…………

私は真っ赤になる…………



「 殿下!ここで発情してはなりませぬぞ 」


爺達は大興奮だった。



殿下は詰め寄る爺達に

「 だから、してないから 」

………と怪訝そうに言うと、残りをパクパクとたいらげ

午後からは公務に戻るからと言って

私の頬に手をやり

「 後から迎えに来る 」

………と、足早に立ち去った。



「 これで、我が国は安泰だ 」

………と、爺達は何時までも大興奮だった。





そんな大興奮の爺達を後にし、私は薬学研究の部屋に戻った。

もう、相手をしてらんないわ。


鍋が冷めたら、ドロドロの液を濾して小瓶に入れる。


わあ~

出来た。

これ…………効くのかな?

殿下に渡そうと痛み止めの薬の小瓶を二つ作った。



「 リティエラ嬢、上手く出来ましたね 」


私を指導してくれたのは、ミレーさん。

錬金術師のシエルさんと同期で30歳。

ミレーさんは結婚している。

奥さんは皇宮病院で薬師をしていて、赤ちゃんが産まれたので、今は退職したらしい。



夕方近くに殿下が迎えに来てくれた。


「 じゃ~ん 」

私は緑の小瓶を取り出し、殿下に見せた。


「 私が初めて作った薬ですの………」

「 おっ、成功したんだ 」

殿下が優しく笑った。


「はい、殿下にプレゼント、でも、飲んでは駄目よ、死んじゃうかも知れないからね 」

「 飲んだら死んじゃうの? 」

「 そう、怪しい魔女が作った薬だから 」

「 白の魔女さんは、怪しい魔女さんなんだ 」

そうよ~干したイモリが入ってるかもよ~

二人でクスクス笑う。



殿下がそっと手を繋いで来た。



最近は

殿下と手を繋いで歩くのが当たり前になっていた。


ドキドキする………

私はやはり殿下が好きなんだ。



私は

そんな小さな幸せが怖かった…………







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