第92話 禁じ手





3度目の人生の時に

グレイ班長が考えた特別メニューを思い出しながら書いた紙を、騎士クラブの休憩時間に殿下とエドガーに見せる事にした。



これは、グレイ班長の所有権のものである。

今から4年後に、騎士養成学校に入った私の為に考えてくれた特別メニューなのだから。



それを………

4年前の今に出して良いものか…………


いや、これは3度目の人生の時の物だから、4度目の人生の今は関係無い事なのかも知れない。



色々と悩んだが

4度目の人生を生きる今の私は、騎士道だけを邁進するわけにはいかないのだ。


だから、効率よく身体を鍛えられるこの特別メニューが必要だった。




「 へえ、レティ、これは誰に聞いたんだ?」

エドガーが感心したように言った。


殿下は訝しげにしている。


「 本に書いてあったのを参考にしたのよ 」

やっぱり不味かったかな………



エドガーは新人達だけでなく、部活全体の体力アップの為にこのメニューを取り入れた。


因みに、エドガーは3年生だが騎士クラブの部長だった。

エドガーは騎士クラブ1の腕前なので、実力主義の剣術の世界では、年下だろうが何だろうが関係は無いのである。




早速、皆で訓練に取りかかる。


この特別メニューを全部終わると、息も絶え絶えになるが、身体全身に心地好い疲労感が残った。



「 レティ、大丈夫? 」

殿下が、座り込んでぜえぜえ言っている私の横に、片膝をついて顔を覗き込む。


「 はあはあ………は、い 」

周りを見ると、皆が座り込んだり、寝転んだりして ぜえぜえやっていた。


何時も鍛えている殿下やエドガーは、どうって事の無いメニューなんだろうけどね………


騎士クラブには週に2日しか来れないけれども、この特別メニューなら家でも出きる。

騎士クラブは基本は毎日あるが、参加は自由であった。





あの特別訓練のメニューには、グレイが関係してると直感した。

アルベルトは、この焦燥感をどうしたら良いのか分からなかった。


レティが、自分の事を好きだと確信したばかりだと言うのに………

座り込んでいるレティを見つめながら、アルベルトは小さな胸の痛みを感じていた。





その時、物置小屋から何かが崩れる様な大きな音と、誰かの叫び声が聞こえた。

運び出されたのはノア君だった。


右足のふくらはぎがパックリ裂け、血が吹き出していた。

「 救護室に運んで! 」

私は直ぐに駆け寄り指示を出した。



「 ノア君、頭は打ってない? 」

「 頭は……大丈夫だと思う 」

救護室のベッドに寝かされた彼は苦痛で顔を歪めていた。


太ももを硬く縛って止血をし、傷に消毒薬を塗り、麻痺薬を塗った。


我が国の医療は、この消毒薬と麻痺薬の開発があった為に、格段に進歩していた。


これも、虎の穴の薬草学研究室の、白のローブの薬師達の努力の賜物である事は言うまでもない。



私の手にも消毒薬を塗り、薬箱から針と糸を取った。


「 しっかり彼を押さえてて 」

彼を連れてきた学生達に指示を出す。


「 ノア君、今から縫います、麻痺薬を塗ったから、我慢出きる痛みだから頑張ってね!」


「 分かった 」


「 縫合します 」

私は手際よく、7針程縫った。


ノア君は痛みに顔を歪めながらも、唇を噛んで耐えてくれていた。


「 終わりました 」

もう一度消毒薬を塗り、ガーゼの上から包帯を巻いた。


「 ノア君、もう大丈夫、傷は綺麗に治りますよ 」


彼を皇宮病院に連れて行く様に指示した。


「 病院で化膿止めと痛み止めと、後は、熱が出るかも知れないので熱冷ましの薬を貰って下さい 」



「あっ、念の為に、レクサス先生に頭を見て貰って下さいね」

そう言って、抱えられていく彼を見送った。



思い出した。

私は2度目の人生の時の医師の経験を生かし、3度目の人生の騎士クラブでは救護班にも属していたのだ。



身体が勝手に動いてたわ………と苦笑いをする。

そして………

先輩医師であるレクサス先生の名が出てきた事にも驚いていた。




すると誰かに抱き締められた。

殿下だった。

「 レティ、これ以上好きになるのが怖いよ……… 」

殿下はギュウギュウ抱き締めて来る。



「 いや、今のは俺も惚れた……… 」

………とエドガーが言った。



殿下とエドガーは救護室に入り一部始終を見ていたのである。




しまった………

殿下の腕の中で、私はどんどん青ざめていった………






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