第93話 過去と未来と現在と
次の日、
私は学園長室に呼び出され、皇宮病院に行くように言われた。
学園長と何故かモーリス先生もいて、君は医療行為も出来るのかと………天才だと称賛された。
そりゃあ、呼び出されるわよね…………
勿論、我が国でも、医師でも無い者の医療行為は禁止されていた。
どんな罪になるのかなぁ………
お父様に迷惑を掛けるなんて………
放課後、学園で起こった事故なので、学園長と何故かモーリス先生も一緒に私と皇宮病院に向かった。
皇宮病院
2度目の人生で私が働いていた病院だ。
懐かしい…………
薬草の匂い、張り詰めた空気、その全てが懐かしかった。
私達は病院長の応接間に通された。
驚いた事に、殿下が応接室の一人掛け椅子に、偉そうに座っていた。
皆で、殿下と病院長に挨拶をした。
病院長は庶民病院に行くと言う私を
将来的に、皇后陛下と皇太子妃殿下の主治医になって貰いたいからと、最後まで引き留めたその人であった。
どんな断罪を受けるのかと
シュンとしていると殿下がクスクスと笑っていた。
「 君のその医療行為は何処で習得したものなのかな? 手当て後を見た医師達が、素晴らしいと絶賛していたのだが………」
病院長が訪ねてきた。
ここです。とも言えず……
「 昔、領地にいた頃に………怪我をした犬を………医学書を見ながら治療して………」
もう、しどろもどろで答える………
「 彼女は天才なんだから、天才はどんな時でも天才の力を発揮するんだよね 」
モーリス先生が私の天才度を連呼する。
モーリス先生……私を庇って下さってる………スキ
「 彼女は500点満点で600点を取る天才なんだよ 」
いや、それはあんたが余計な点を付けたからでしょうが………
そうして話は、断罪される所か
私が学園を卒業して、試験を受けて、女医になる様にと勧められた。
今、女医がいなくて、将来的に皇后陛下と皇太子妃殿下の主治医になって貰いたいとまで言われた。
あんた………
2度の人生に渡って同じ事を言われるなんて………
あの王女の主治医になれってサ………
チラリと殿下の方を見た………
殿下は何故か嬉しそうにニヤニヤしていた。
もの凄く、イラっとした。
するとモーリス先生が
「 駄目ですぞ、ウォリウォール君は物理学の道に進むんだからね 」
ああ、あの10人の爺ちゃん達と旅をするのも悪く無いかも………
それでも、
治療をした時の達成感が、医師としての私を目覚めさせた事は明らかだ。
でも、今、私が今やりたい事とやらなければならない事は1つだ。
5年後に起こる、流行り病の為の特効薬である新薬の発明だ。
「 医院長、今、私は虎の穴で薬師として研究をしてるのです 」
「 君は虎の穴に在籍してるのか? そんなに若くして……」
医院長は驚いた。
私も驚いた。
『虎の穴』呼びがすっかり浸透してる………
「 そう、私が推薦したんだよ 」
………と、モーリス先生が胸を張った。
「 なる程、薬師としての研究員ならば、我が病院と精通してる事になるね、歓迎するよ、何時でも皇宮病院に来てくれたまえ 」
そして後々には、皇后陛下と皇太子妃殿下の主治医に………と、今度は殿下を見ながら、進言をしてくれとばかりに勧誘してきた。
「 自分で自分の治療は出来ないでしょ………」
………と肘掛けに手を置いて、頬を触りながら、私をみてニヤリとした。
?????
一同は首を傾げたが
私は殿下をぶん殴りたくなった………
「 君の為に病院内を案内するよ 」
病院長はどうしても、私を諦めない様だ。
もう、十二分に知ってるけど、懐かしいから案内して貰う事にした。
学園長とモーリス先生は応接室に待機し、殿下が一緒に来てくれた。
「 今日は、皇太子殿下がお越しだ、皆、ご挨拶を 」
「 構わない、そのまま続けて 」
……と、殿下は手を上げ、制した。
ここは薬を管理してる部屋だ。
壁一面が薬棚で、白衣を着た薬師達が忙しく働いていた。
薬師には女性もいて…………
やはり、殿下を見て顔を赤らめていた。
テーブルの上には分銅と秤が何台もあり、調剤が出来る様になっていた。
次は、治療室が何部屋もあるエリアだ。
でも、皇宮病院は貴族の病院で、貴族は往診が基本なので、庶民病院よりは閑散として、静かだった。
更に奥は医師達の執務室。
懐かしい顔をした医師達が、並んで殿下を待っていた。
殿下と何やら話している。
皆、少し若い……
あっ………ユーリ先輩………
ユーリ・ラ・レクサス
私の5年先輩の医師で、私はずっと彼と行動を共にしていた。
懐かしさにユーリ先輩を見つめていると………
ユーリ先輩が私に向かって歩いて来た。
「 昨日の患者を私に紹介したのは君? 」
「 はい、レクサス先生は有能なお医者様ですから 」
ユーリ先輩が怪訝な顔で見つめてくる。
あっ!!! しまった………
今は4年前、ユーリ先輩は、今は19歳、まだ医師になりたての新米医師だわ。
もう、過去なのか、現在なのか、未来なのか、今が何なのかが分からなくなった。
どうしょう………
「やあ、リティエラ嬢、その後体調はどうかね? 」
公爵家の主治医のタッカー先生が声を掛けてくれた。
助かった………
「 タッカー先生、有り難うございました、もうすっかり元気になりましたわ 」
ユーリ先輩は頭を軽く下げ、立ち去った。
お若いわ………
ユーリ先輩は私が庶民病院に行く時にも
私が心配だと、一緒に来てくれた厳しくも優しい先輩医師だった。
往診の時に、酔っ払いに絡まれて、弱いのに私を庇って殴られていたユーリ先輩。
食事も取れ無い程に忙しくて、夜遅く帰って来て、台所からこっそり食べ物を取って来てくれたユーリ先輩。
私が流行り病にかかった時に
「 医者が死んだら誰が病人を助けるのか? 」
………と、泣いてくれたユーリ先輩………
独り孤独な隔離部屋で、ユーリ先輩だけが私の世話をし続けてくれた………
お礼も言えずに死んじゃったね…………
「 レティ……… 」
殿下が私の手を握った。
あっ………あれ?
愛しい愛しい殿下が私を見つめている………
これは現実? それとも夢?
何だかよく分からなくなっていた………
気が付くと、私の目から涙が溢れていた。
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