第85話 これが良い
クリスマスパーティーが終わり、学園は明日から冬期休暇に入る。
今日は午前中しか授業は無く、食堂は閉まっている。
こんな時、どうやってアルベルト皇子に会う事が出来るのか………
私は綺麗にラッピングされた袋を抱えていた。
3年生のクラスに行くには勇気がいる………
休み時間になる度に袋を抱えて、3年のある棟の回りをウロウロしていた。
こんな事になるのなら、お兄様から渡して貰えば良かった。
3時間めが終わった。
もう行くしかない!
殿下のクラスの3年A組の後ろのドアからこっそり覗く。
いた………輝くブロンドの髪は直ぐに分かる。
殿下は机の端に軽く座る様にもたれかかり、横に座っている兄と話していた。
エドガーは兄の前の席から椅子に股がってこっち向きに座っていた。
クラスではこんな感じなんだ。
やっぱりカッコいい………
しばし見とれる。
「 お兄様? 皇子様? それとも俺? 」
見上げるとレオナルドがニヤニヤしながら私の横に立っていた。
「あの……皇子様で………」
「 なんだ~俺じゃないの? 皇子様~っ、お姫様がお呼びだぞ~ 」
止めろ、レオナルド!そんな大きな声で……
殿下がおもむろにこちらを向く。
兄やエドもこっちを見た。
他の生徒達もこっちを見た。
殿下は私の姿を見ると、足早に近付いて来た。
「 本当だ、お姫様がいる、皇子様に会いに来てくれたの? 」
殿下も止めてくれ!こんな大勢の前で…………
皆の視線が突き刺さる。
私は殿下の腕を取り、ひとけの無い階段の踊場まで引っ張って行った。
殿下にプレゼントの袋を押し付ける。
殿下は一瞬固まったが、破顔して袋から白いマフラーを取り出した。
そして………また固まった。
「 レティ、首に掛けてくれる? 」
私にマフラーを手渡すと、殿下は腰を曲げ、前屈みになった。
サラリとしたブロンドの髪が、私の顔に近付いて来た。
ドキドキドキドキ
背伸びをしてマフラーを、殿下の首にそっと掛けた。
殿下が前屈みになっても、まだ私は背伸びしなければならなかった。
「 嬉しいよ、有り難う 」
皇子様の輝く笑顔の下に、薄汚れた白いマフラーに金の豚の刺繍がある。
豚よ、豚………やっぱり豚、どう見ても豚。
何でマフラーの刺繍を豚にしたのかと、皆が思うに違いない。
駄目だ…………
皇子様に豚は似合わない!
「 殿下、やっぱり返して! 」
刺繍は失敗したし、手垢で薄汚れているし………
また作り直します!!
そう言って殿下の首に掛けてあるマフラーを取ろうと握る。
殿下はマフラーを握ってる私を抱き締めて
「 これが良い 」
………と、私の耳元で囁くように言った。
ヒェェェェ………
「 おい、アル、いくら嬉しくても飛ばし過ぎだ 」
と、ラウルが呆れて言った。
階段の上を見ると皆が見下ろしていた。
エドガーとレオナルドがニヤニヤしていた。
ヒェェェェ………
真っ赤になって
私は殿下を突き飛ばし、階段を掛け降りて行った。
帰りの馬車で
「 ………で、あのマフラーなんで豚なんだ? 」
兄が聞く。
やっぱり誰が見ても豚なのね………シクシク
明日から冬期休暇に入る………
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