第63話 しつこい片想い





建国祭の翌日は休日だった



私はマーサとカイと一緒に牧場に来ていた。



父に自分の馬が欲しいとおねだりしたら

あっさりと了承されて

領地から帰って来た夏の終わり頃に、仔馬を買ったのだ。



チョコレート色の可愛い仔馬で一目惚れだった。

名を『ショコラ』と名付けた。


来年の春頃には調教され私の手元に来る予定なので、たまにショコラに会いに来ているのだった。





ガヤガヤと騒がしい方向を見たら

殿下がいた………




何故ここに?




よく見たら王女もいた………


「 ああ、早速デートをしていたのね 」

小さく呟いた。




そして皇子様と王女様に敬意を表すカーテシーをした。




すると、懐かしい声が聞こえた。

声の方を見ると………



グレ……イ…………




私の3度目の人生での騎士団での上司である

グレイ・ラ・ドゥルクがいた………




私は驚きのあまりに両手を口に当てた。




ああ…………覚えているわ、覚えていますとも………

懐かしい声、懐かしい顔………




騎士養成学校に入ったばかりの頃、基礎訓練に付いていけない私に特別メニューを考えてくれた人



何時も剣の稽古をつけてくれた人



女の癖にと言われて暴力を振るわれそうになった時に、私を庇い、相手を半殺しにし、懲罰処分になった人



私に、アーチャーになれと進言してくれた人



弓の練習のし過ぎで、手のひらが裂けて血だらけになった時に包帯を巻いてくれた人



王宮騎士団に入団した時には

あれ程の剣の達人だったのに、弓兵に変更して私を部下にしてくれた人


「 お前の弓矢の訓練を見てたら、俺もやってみたくなったのさ 」 ………と、おどけて笑っていた人



そして…………

魔獣討伐の時に

まだ新米の私に最前線に立つ命令が下った時

「 ご免、弓なんかさせるんじゃ無かった 」………と泣きそうな顔で言ってくれた人




そして戦場で………

一緒に駆け回り、矢を射続けましたね…………




走馬灯の様に流れてくる彼との記憶…………




フフフ………今のグレイ班長は5年前だから23歳ね。




まだ、お若いわ。




この記憶は過去なのに、未来で起こる事なのか

もう、よく分からなかった…………







振り返ると

殿下が帰る所だった…………




白馬に騎乗する姿は、何よりも、誰よりも格好いい。

真紅のマントを翻して…………


殿下の後を騎士団が駆けていく…………






レティのアルベルトへの想いは

3度の人生を経ても少しも変わる事は無かった………




「 我ながら………このしつこさには呆れるわ 」

レティは小さく呟いた。



何年片想いをしてるんだろうね。

4度目の人生は違う人を好きになりたかったのにな。



レティは、アルベルトと王女がダンスをする姿を見た時に

はっきりと自分の気持ちに気付いたのだった。



うっ………

嫉妬で自分の気持ちに気付くなんてベタ過ぎる………





自分の頬を両手でパチンと叩く…………

私に出来る事をやらなきゃね。



弓矢を強くしても、それを射る弓兵が必要だわ。

アーチャーはなんとしてでも増やしたい。

どうやったら増えるんだろう?




少し肌寒くなった夕暮れの中、レティも帰宅の途についた。




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