第51話 白の魔女の最敬礼





ここは虎の穴の中にあるカフェ。



殿下がお昼を一緒に食べようと、図書館まで迎えに来てくれたのだった。

魔法を使うとお腹が空くらしく、殿下は2人分の食事を平らげていた。



「 開花の瞬間を見てましたよ、魔法って凄いですね 」

「 あっ、見ていたんだ、でも、大したこと無かったね 」


「 どんな感覚なんですか? 」

「 身体中のエネルギーが指先に集まる感じかな………僕の魔力の属性は雷なんだそうだ 」

そう言うと、殿下は自分の両手を見た。


「 まだ加減とかがよく分からなかったけど、ルーピンに雷を落としまくってやった!君を狙うなんてとんでもない奴だ 」

殿下が凄く悪そうな顔をした。




えっ、最後の言葉は何??? 狙うって???




殿下の魔力は雷………

どの人生でも、殿下が魔力を操れるなんて聞いた事がなかったけれど………



………これが今回の特別な事ならば………



あの憎きガーゴイルどもに雷を落としまくる事が出来たなら………


やはり、この5年間を鍛えに鍛えて貰って、魔王レベルになって貰うしかない!!

魔王殿下1人で魔獣と戦えるかもしれない………




そんな事を考えてたら………



「 でも、僕は剣術の方が面白いかな、グレイと手合わせしてる方が楽しいよ 」




私はドキリとした。

グレイ……………



グレイ・ラ・ドゥルグ

私のかつての上司だ。

彼はエドガーの従兄弟で父親は騎士団の団長である。



3度目の人生で騎士の道を選んだ私は

19歳の時の騎士養成所で27歳のグレイと出会った。



腕力も体力も男性には敵わなかった事もあって、戦闘するには接近戦よりも遠距離からの戦闘の方が良いと、アーチャーになる様に進めてくれたのはグレイだった。



グレイが養成所に時折来ていたのは

レティの父である宰相ルーカスが娘を心配して、何かと目を掛けてくれる様に、騎士団団長であるグレイの父親に頼んでいた事は…………もはや誰も知るよしもない。




そして皇宮騎士団に入団し、グレイ班長の部下になった。

グレイは剣士であるにも関わらず、弓兵に転向してレティを部下に迎えてくれたのだった。




そして


…………戦闘中…………



皇太子殿下の前に、不意に横から現れたガーゴイルに、咄嗟に弓を射る事が出来なかった。


私は、直接矢を手に持ち、ガーゴイルの目を目掛けて突き刺し、暴れたガーゴイルに馬ごと投げ倒され頭を打ち絶命したのだ。



グレイ班長が何か叫んでいたように思う……



はあ、壮絶過ぎる………

ガーゴイル臭かったし………



3回目の人生が終わったのは今から5ヶ月前の事だから、1回目や2回目の人生より遥かにリアルに覚えているのだ。





「 レティ? 」

殿下が訝しげにレティを見ている………




ハッとして現実に戻る…………




殿下をじっと見つめる。





──何?レティ、そんな熱い潤んだ目で見つめて…………


──もしかして………告白?

──こんな所で?

──皆が見てるのに?

──いや、駄目だよ、やっぱり告白は男からするもんだよ………

──ドキドキドキドキドキドキドキドキ………





そうよ…………

私はこのお方をお守りする為に命がけで戦ったのだわ…………

『魔王になって1人で戦え!』

………なんて思っちゃいけないのよ…………




5年後に………

また、グレイ班長の部下になれるかな…………




そして

白の魔女は

片膝を付き、左胸に手を当て頭を垂れ…………

皇太子殿下に騎士としての最敬礼をし



「 では、失礼いたします 」………と去っていった。



白の魔女はこの時、騎士だった………





───全ては皇太子殿下を守る為に───





「 へっ?!何? 何? 何が起こったの? 」



アルベルトは期待が外れ去り

このヘンテコな白の魔女に驚愕していた…………






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