第48話 レティ、悪役令嬢になる



「 それはワタクシですわ 」



甲高い声が食堂に鳴り響いた



「 アルベルト皇太子殿下と、オペラをご一緒したのはワタクシ 」


「 殿下はワタクシの手を取り、優しくエスコートして下さいましたわ 」


「 本当に夢の様な時間でしたわ 」




あの時、アルベルトの横にいた黄色い令嬢は、前に食堂でレティにやり込められた令嬢だった。


あの時、やり込められた腹いせをしたかったのだろう。

いきなりレティに絡みだしたのだ。



これは厄介な事になった。

相手が男なら、締め上げれば済むだけの話なんだが、女性だとそうはいかない………


弱ったなとラウル達と話していた。



お前、何でこんな女と………

皇后命令だったんだよ、

………とヒソヒソしていたら………





「 オーホホホ、お黙りなさい 」



いきなりレティが腰に手を当て、手には扇子を広げて仁王立ちになった。



彼女が持ってる扇子は、金に紫の刺繍に赤の羽がついたド派手なものだった。

後から聞くと、輸入雑貨屋で買ったから、どうしても使ってみたかったらしい。



「 オーホホホ、貴女ごときが何を偉そうにほざいてございますのよ 」

………台詞が何やら怪しい。




そうなのだ、彼女こそが

我が国、筆頭貴族である、ウォリウォール公爵家の令嬢なのである。

皇族に次ぐ、最高位貴族令嬢の頂点である。

この台詞はレティが言ってこその台詞だ。




そう言えば

アルベルトが入学した頃は

上級生のお姉さま方がアルベルトを巡り、しょっちゅう繰り広げられてた光景だった。



あの時は心底うざかったが、レティがやると可愛い。




「 オーホホホ、」

パチンと扇を閉じ


「 では、失礼しますわ 」

………あっ、いきなり終わった。




ブっ…………

アルベルトは吹き出し、腹を抱えて笑いだした。



ラウル達が、可愛い可愛いと頭を撫で回していた。



もう1回やれとラウルが言うと

「 オーホホホ、そこへおなりなさい 」

「 オーホホホ、ワタクシの前にひれ伏しなさい 」

台詞が違う方向へ………



レティは悪役令嬢が気に入った。



同じクラスの生徒からもリクエストが上がったのか、レティはそちらに向かい、扇をパチンと閉じて

「 オーホホホ、5時限目の用意は出来て? 」

………と、授業を心配する、良い悪役令嬢になっていた。



その時、庶民棟から

「 あの扇は、うちの店でリティエラ様が買われたものよ 」

そうスーザンが叫ぶと(←流石商売人の娘)


レティは彼女の方に扇子を差し

「 オーホホホ、素敵な店でしたわ、皆様お買い物に行ってあげて下さいませ 」


………と、もう『オーホホホ』を言いたいだけとなっていた。




勿論、

あの噂の令嬢が皇太子妃候補かも知れない………

………の、噂は立ち消えた。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る