第27話 そこにいるだけで………



寝ていたのか起きていたのか

朝なのか夜なのかも分からなかったが

私はベッドからムクリと起き上がり、歯を磨き、顔を洗い、ドレスに着替えて外に出た。



「 お嬢様 」

爺やが後ろから付いてきてそっと囁いた。


「 今は夜なの? 」

「 まだ、夜が明けていませんが朝でごさいます 」

「 そう 」



私の様子がおかしいのだろう………

爺やがこんな時間にも関わらず、そこに居てくれた事が申し訳無かった。



「 ちょっと散歩に行ってくるわね 」

「 はい、私は付いて行きますが離れてますので………ゆっくりとお散歩をして来て下さい 」



爺やが屋敷の裏城戸を開けて私はまだ薄暗い小道を歩く。

屋敷に沿って川が流れている。

小さい頃から兄とよく遊んだ川だった。



川沿いを歩く………



川面でピチャンと何かが跳ねた。

魚だ!!!



「 爺や!魚がいるわ!釣りの用意をお願い 」



爺やは嬉しそうな顔をして直ぐに用意をしてくれた。



爺やは敷物も敷いてくれた。

座って釣糸を足らす………………



…………



…………





「 釣れた? 」

「 釣れない、でもあの魚は絶対に逃さない 」



「 ……………!? 」



ゆっくりと後ろを振り返ると



アルベルト殿下がいた。



この状況が受け入れられなくて

暫くじっと見つめる…………



そこに朝日がユルリと差して来た。

キラキラ光る皇子様………

ああ…………なんて眩しいの………



…………拝むべきか?

咄嗟にそんな事を思った。




「 釣れたらご馳走してね 」

………と言いながら私の横に座り、顔を覗き込んできた。

視線が合う。



近い…………

私を一体どうしたいんだ?


目をそらし釣竿を見る。





さわさわさわ…………

ゆっくりと時間が流れ行く




そうね。

殿下がいたわね。

どの人生にもアルベルト皇太子殿下がいた。



それにしても

この人生では

何故こんなにも私と関わっているんだろう?

3度の人生の事を思うと

どの人生も、殿下と親しくなると言う事は無かったのだ。




「 殿下は何故ここに? 」

「 公務で近くまで来たから次いでに寄った……だけ」

「…………………」


「 ………レティがここに来てると聞いて………… 」

アルベルトはちょっとバツが悪そうに空を見上げた。




ウフフ………きっと殿下は私に会いに来たのね………



殿下が愛しくて愛しくて胸がキュンとした。



殿下がそこにいるだけで

まるで憑き物が落ちた様に心が晴れていった。



やはり神

皇子様と言う生き物は神なんだわ。

私は思わず殿下に向かって胸の前で両手を組んだ。



「 何?何なの? 」

「 いえ………神にお祈りを……… 」



「 僕は オウジサマ だけど カミサマ じゃ無いぞ! 」

殿下は眉を潜め、憤慨した様に呟いた。



殿下が自分の事をオウジサマと言った!

皇子様が自分の事をオウジサマと言った!


アザーす♪♪♪



私はブッと吹いて、笑った。

笑うなんて何日ぶりだろうか…………



殿下も笑った。

2人で笑った。





「 あっ!レティ引いてる!引いてる 」

「!!」

「殿下!タモですくって!早く!早く」

「タモってこれ?! うわっ!」


…………ジャポン


「 殿下の下手くそーっ! 」

「 逃げられちゃったじゃない! 」


「 ご………ご免 」


大きな魚だったのにとプンプン怒るレティに

嬉しそうに蕩けそうな目で笑うアルベルト殿下だった。




2人でワーワーキャイキャイしていると。






「 レティ! 」

突然ラウルが現れた。



「 お兄様 」



「 どうした?心配したぞ!お袋も来てるぞ! 」



「 お母様 」

私は掛け寄って母に抱き付いた。



「 心配掛けてご免なさい 」

母は何も言わずに私を抱きしめ、背中をトントンした。

子供の頃にされた様に…………

涙が溢れた。





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