第28話 リアルな夢



「 殿下?! 」

「 何故ここに? 」

「 アル、何時来たんだよ? 」


皆が皇太子殿下がいる事に驚いた。

そりゃあ当然だ。



「 まあ、とにかく家にお入り下さいませ 」

……と母が爺やの名を呼び、殿下を家の中にお通しした。



「邪魔をする」



「 こんなに朝早くから、それも突然に申し訳ありません 」

………と、一通りの挨拶をし終えた後にクラウドが説明をしていた。



直ぐに朝食が用意された。

皇太子殿下が突然に訪問し、 これだけの大人数の食事が直ぐに出てくると言う………

我がウォリウォール家の執事と料理人や、メイド達を誉めてあげたい。



因みに

私が「爺や」と呼んでる人は領地の館の執事のセバスチャンである。


このセバスチャンの息子が、皇都にある館の執事長トーマスで、侍女長のハイネとは夫婦だ。

そして今回の旅に付いてきてくれた私の侍女マーサと護衛のカイルは姉弟である。


代々、このファミリーによって我がウォリウォール家は支えられて来たのである。

もはや我々にとっては家族同然で

特に爺やは私が領地にいたこともあって、本当の祖父みたいであった。




私は、お腹一杯食べれた事に驚いた。

マーサは喜び、爺やなんかは涙ぐんでいた。


心配かけたわね…………




食事の後に居間のソファーに座り

皆でお茶を飲みながら歓談をしていた。


ぼんやり見てると

殿下と兄がひそひそと話し込んで

母と爺やとクラウドも何やら話をしていた。



お腹も満たされ

ずっと眠れなかった事もあり

凄い眠気に襲われた私はウトウトとし始めた。



「マーサ、レティを部屋へ連れて行って」

母が侍女を呼んだ。



「 さあ、お嬢様 」

マーサに手を取られた。



「 ……デンキャ、クラウドシャマ………シツレイシマス…… 」

ふにゃふにゃと言いながら居間を後にした。




「 ゆっくりお休み 」

殿下が目を細めながら優しく言った。




自室に着くとベッドに倒れ込んだ。

そして気絶するように意識を失った。



夜通し馬で駆けて来た殿下達御一行様も

それぞれ客室に案内され、しばし仮眠を取って

その後

昼前には馬に乗り視察に出掛けたらしい。




母と兄御一行様も

まだ夜明け前から宿を後にし

私の元へ一刻も早く行こうと駆け付けたのだった。





そんな事も知らずに

私は

何と、次の日の夕方まで爆睡していた。






私は夢をみていた

長い長い夢




私は船に乗っていた。

船の甲板にいる。

私は誰かに何かを言われながら何かを渡され、それを持って逃げている。

誰かが私の腕を掴む………


その時に、アルベルト皇太子殿下が騎士団を引き連れ、何かを叫びながら船上に駆け上がって来るのが見えた。


その時、私は海に突き落とされ死んだのだった。





そこで目が覚めた。

汗びっしょりで震えていた。



これは………

私の1度目の人生の終末。


………だと思う………



その後、2度に渡って濃密な人生を歩んだものだから

何気に記憶があいまいだった。



でも、今回ははっきりした記憶だった。

これはたんなる夢ではない。



1度目の人生は卒業してから、お洒落を極めて

お洒落番長となり店を経営した。

この時、自分のブランドの店を他国に出す事を夢見て、外国船に乗ったのだった。


外国語が話せなかった事もあり

あの時、誰かが何を言っていたのかが分からなかったのだ。



あの人は私に何を言っていたのだろうか?

私に何を手渡したのだろうか…………?



それが分かれば何かが変わる?



もう一度、その時が来るのだろうか?

やはり………その時の為に、語学をマスターしなきゃだめよね。



1人、薄暗い部屋のベッドの上で頭を抱えた。







「 あっお嬢様!お起きになられましたか?直ぐに灯りをお持ちしますね 」


「 今は何時? 」

「 お嬢様は昨日から眠り続けていて、今は夕方です 」

……と言うと、マーサがバタバタと階段を降りていった。



じゃあ、私は2日近く寝ていたと言う事?








すると………


「 レティ………起きた? 」



殿下がドアの前で静かに囁いた



「 入っても良いだろうか? 」

「 ええ………大丈夫です 」

殿下がベッド横の椅子に座る。



「 大丈夫? 」

「 はい………大丈夫じゃないけど大丈夫です 」



何だそれ?

………と殿下は笑った。




ねえ………

あんたはあの時、何を叫んで、何をしに来たのよ?

………と聞きたいと思ったが

この17歳の殿下は知る筈も無いのよね……………




「 何かに悩んでるの? 」

兄に聞いたんだろうか………



「 いえ、悩んでいるけど悩んでいないです 」



クックッと殿下は肩を震わせ笑った。




「 レティ、起きたか? 」

………と兄もやって来た。


そこにマーサがバタバタとやって来て灯りを灯した。




ちょっと待ったーっ!!!

私は寝間着だ。


その上

丸2日近く爆睡していたので顔なんか見せられたもんじゃない!


しかも

歯も顔も洗って無いどころか、汗だくな上にお風呂にも入っていない。




「 駄目よ見ないで!私、今、不細工なんだから 」



「 おい!俺はどんなブスでも妹は可愛いと思うぞ! 」



お兄様なんてどうでも良い!

殿下だ!

こんなぐちゃぐちゃな姿は殿下には見られたくない。



「 僕もどんなレティでも可愛いと思うぞ 」

殿下が嬉しそうな顔をした。




黙れ!黙れ!

何をわけのわからん事を………!!




「 うるさい!!!早く出て行って─! 」

…………と怒鳴ったら



マーサが

「 さあさあ、殿方はお引き取り下さいませ 」

………追い出してくれた。




マーサ、グッジョブ !!









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