第7話 優しい時間
料理クラブの部屋は庶民棟の1階にあってお気に入りの並木道に面していてる。
所々に設置されているベンチには、読書をする人やお喋りをする人達が居心地良く座ったりしていて、今は新緑の季節だが秋には紅葉で更に賑わいをみせるだろう。
今日の料理クラブの課題はジャガ芋の皮むき。
丸いリンゴならマスターしやすそうだが、只今ゴツゴツしたジャガ芋と戦闘中である。
「 痛ーーっ!!! テイっ!! 」……と指を切って流血したりもしましたが、10個位をひたすらむくうちに これは世界ジャガ芋皮むき大会に出場したら、2位にはなるんじゃね?
……と言うくらいにスルスルとむける様になった。 私って、やれば出来る子なのよね。
同じ班は皆1年生で ベルとスーザンとミリアと私の4人班である。
この学園に来る庶民は、皆かなり裕福であるらしく、ベルは宝石商の娘でスーザンは輸入品の扱う父親の娘、ミリアの父親はなんと外国船の船長をしてるらしい。
最初は、初めてのお貴族様に緊張されてたみたいだけれども、真摯に包丁と格闘する(まだ野菜しか切らせて貰えてない)私と、直ぐに打ち解けて仲良くなった。
寮生である彼女達の生活の話を聞くのも楽しかった。
私達と悪戦苦闘したジャガ芋達は明日の学生食堂に使用されるらしい。
成る程………これはイイね3回!
後片付けも終わって寮生である皆とサヨナラをして、私だけが並木道のあるドアから出て行った。
ふと視線を感じる方を向いたら……
何と、アルベルト皇子様がベンチに座っていた。
読んでいた本を閉じて立ち上がると……
「 レティの勇姿を見に来たよ 」
……と、ニコニコと破顔した。
ゲッ?! 芋の皮むきを見られていただと?
それに、その笑顔は毒だ。 止めれ!!
そんな顔をしたら誰もが直ちに恋に落ちるに決まってる。
「 ごきげんよう、殿下 」
立ち上がった殿下にスカートの裾をチっと掴み貴族の礼をした。
「 あれ?! 指を切ったの?」
バンソーコーで巻いた私の指を見て心配された。
「 私の血と汗の結晶のジャガ芋はね、明日の食堂のお料理になるんですって 」
エヘヘ~~っと笑った。
「頑張ったんだ? じゃあ、明日の昼はしっかりと味わって食べる事にするよ」
……と、殿下もエヘヘ~~っと笑った。
な………何ですの?! このユルユルな会話は。
気だるい放課後の並木道を2人で並んで歩く 。
夕陽が殿下の金色の髪を照らしてキラキラと輝いてる。
「 私は……この道を歩くのが好きなんです 。料理クラブに入らなかったらこんな素敵な並木道を通ることも無かったんですよね 」
「 楽しそうにジャガ芋の皮むきをしていたね 。何か不自由は無い? 」
多分殿下は、料理クラブには庶民棟の生徒しかいない事を心配してるのだわ。
「 はい、最初は不安だったけれども……今は仲良くして貰って凄く楽しいです 」
チラリと殿下を見れば……
殿下と視線が合わさり、ドキリと心臓の鼓動が跳ね上がる。
その動揺を隠す様に話を続ける。
「 あのですね~、料理クラブがある時は何時もお兄様に待って貰ってるので、ちょっと申し訳ないと思っていますの。だから覚えたお料理をお兄様に食べて貰う事にしたの 」
「 ああ…だからキャベツの千切りだったんだね 」
楽しそうにクククッと皇子様は口に手をあてた。
もしかしてお兄様が話したの?
キャベツの千切りを料理だと言ってテーブルに乗せた話を。
あの後…
お父様が皆の分もキャベツを食べて……
「馬車で待っててくれてるお兄様にお礼をしたいんだけれども……今日もジャガ芋の皮むきでしょ………お料理を習うなんてまだまだ先だからお兄様にご馳走するのはもっと先になりそう」
「 兄妹の仲が良いんだね 」
「 昔はあまり…お兄様とは離れていた時の方が多かったから 」
なんせ3度の人生を思い返しても……
兄の存在は皆無だったのよ。
「 だから……ちょっとだけ兄孝行をしょうかと思いまして…… 」
「一昨年まで領地にいたんだっけ?」
「 …………はい 」
「兄妹がいるって羨ましいね。 僕は独りっ子だからね……寂しいもんだよ」
「 あっ…だったら、 私にとってはエドもレオもお兄様みたいなものだから、殿下もお兄様になったら良いと思います 」
……………………
「 ………いや………それは困る 」
殿下が困った様に顎を触った。
「あっ………ご免なさい……殿下を兄だなんて……不敬過ぎましたわね」
これは図々しいことを言ったとシュンとした。
「いや………そう言う意味では無いんだが……困ったな………」
殿下が美しい顔でオロオロしてる。
「 でもお兄様の親友だから私とも仲良くして頂けたら嬉しいですわ 」
「うん、仲良くしよう、仲良くなろう! 」
殿下が破顔した。
あっ……私……一瞬死んだかも………
なんて綺麗な笑顔。
「 エドとレオみたいに僕も名前で呼んでくれる? 」
無理です!
そもそも『 レティ 』呼びも許してないんですがね?
「 あっ!もうすぐ着きますわ 」
何気にはぐらかした。
そんな話をしてるうちに兄の待っている我が家の馬車まで到着した。
優しい時間だった。
因みに兄ラウルは馬車の中で眠りこけていた。
勿論叩き起こして、指を切ったジャガ芋との格闘を喋りまくったのだった。
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