恋愛をするのに適当な理由②
「適当な相手が欲しくて恋愛するのは、ダメなのか?」
「それは相手を孤独を癒す道具として利用してるからダメです。もっとこう、真の人間関係が必要なんです」
彼は目を一瞬見開いた後、頭を抱えてテーブルに肘をついた。そのままゆっくりと溶けるように、だんだんとテーブルに突っ伏すような形になっていった。
彼は彼なりに真剣なのだろう。でもどこか、何かが違うような気もした。 俺は何も言わずに追加で水を注文した。
「俺、誰かに愛されたいです」
追加の水が来て、それを彼の肘の手前に置くと、ポツリと彼が呟いた。
「そうだよな」
「流さないでくださいよ。顔で選ぶ男も年収で選ぶ女もクソ。みんな死ねばいいんだ」
邦城は頭を抱えて指に力を込めていた。そんな様子を見て、思わず何か言わなければと焦る。「いや、俺もさ『こいつといたら利益になるなとか』『便利な奴だから傍に置いておこう』とかそういう打算的な感情で自分を測られたくないよ。仕事じゃないんだから。まぁ仕事でも嫌だけどさ、でも打算のない人間はいなくてさ、みんな何かしら人に求めるものはあるよ、俺だって、だからその、なんか世知辛いよな」
慌てたように言葉を並べていた。 それは酷く言い訳じみているというか、何かアリバイ供述をしているような気分になった。
「そんなの虚しいですよ。ずっと誰かと比較され続けるんです。もっといい人がいたら、自分は捨てられるか、不満を持たれたまま妥協されるかです」
そう言って顔を伏せてしまった彼に声を掛けていたら、彼は「こんなことちゃんと聞いてくれるの、 高樹さんだけなんですよ」と弱弱しく呟いた。
その時は、その言葉にどうしていいのか分からずたじろいでしまったのを覚えている。蒼汰のことが頭によぎったからだった。彼のことがかなり心配になった。鬱屈とした感情が、誰かへの憎悪にならなければいいと思う一方で、きっと彼も今、死んだようにしか生きられずに苦しんでいるのだろうと身につまされる思いだった。
約束の時間は午後一時、ランチをしてから水族館に行く予定だった。
目的の駅で降りてフクロウの銅像の前に着いたので連絡を入れた。
彼女もすでに到着しているとのことだったので、辺りを見渡す。目印として青いストライプ柄のワンピースを着ているという情報を貰っていた。目が合ったのは多分ほとんど同時だ。その瞬間、「あっ」と実際に言ってそうなくらい彼女の口が開いたのが見えた。
「すいません遅くなって」
「いや、私が早く来すぎちゃったんです。気にしないでください」
口にはしなかったが、正直最初かなり驚いた。初めて会った時と彼女の外見が大きく異なっていたからだ。まず、コンタクトでもしているのか眼鏡をしていない。それに髪を以前のようなひっつめではなくふわりと頭の後ろの方でお団子にしている。
似合っているなぁなんて思った一方で、自分の服のセンスは大丈夫だろうかと急に心配になってきた。とはいえもうどうしようもない。
そんな風に考えていたものだから、こちらから声を掛けるつもりが先に彼女に「じゃあ行きましょう」と言われてしまった。
水族館は大きな建物の上の階に位置していた。
※こちらは『Alt + コンクリートジャングルの原住民』に載せる『ペンデンスの花』の試し読み版となります。
※『Alt + コンクリートジャングルの原住民』は11月23日の文学フリマ東京で頒布します。反響があれば、カクヨムで連載します。
HP : https://altplus.herokuapp.com/
作者Twitter : @inui_kyotaro
『Alt + 』Twitter: @Altplus_bungaku
『ペンデンスの花』 戌井きょうたろう @Inui_Kyotaro
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