恋愛をするのに適当な理由
「ダメなんですよ。みんな適当な理由で恋愛相手を選び過ぎなんです! 恋人が欲しいからとか、周りも結婚してるからとか、それって誰でも良いってことじゃないですかぁ」
それは大学時代の後輩――邦城といつもの居酒屋で飲むことになって、だいぶ時間が経ってからのことだった。二人で飲んだにしては結構長い時間いたように思う。テーブルの上は食べ終わった後の皿や空のグラスがいくつか下げられずに残っていた。それに串から外された焼き鳥が少しと、僅かにサワーの残ったグラス。結露した水滴が流れグラスとテーブルの境目に溜まっていた。
その時の邦城はかなり酔っていたのか、同じようなことばかり繰り返すようになっていた。自分が全然恋愛できないこと、今の世の中の恋愛が下らないものだということ、自分だってモテたいのだということ。
耳が痛いというか、俺まで批判されているようであまり楽しくはなかったが、悩んでいる彼を邪険に扱うのは良くないと思い、時折相槌を入れつつ彼の話に耳を傾けた。
邦城は僅かに残ったチューハイを飲み干すと次の飲み物を頼もうとしていた。
「それくらいにした方がいいんじゃないか」
邦城はこれラストですと言った。でもそれは嘘だと思った。ラストオーダーの時間はまだ過ぎていない。
「高樹さんも飲みますか」
「そうだね」
邦城と会うのは久しぶりだった。
少し前から彼の相談を受けていた。
誰からも愛されないこと。それが彼の悩みだった。
俺はそれをよくある若者の悩みだと笑えなかった。彼が自殺をほのめかすようなことを口にしていたとか、自暴自棄に見えたとかそういうことよりも、単純に自分にも思い当たる部分があったからだった。
「なんで世の中ってクソみたいな奴の方がモテるんでしょうね」
まぁまぁそう言うなって、なんて言うことはせずグラスに口を付けながら、続きを促すように彼を見た。邦城はこちらを見ることはせず、グラスに入った氷にぼーっと視線を落としながら続ける。
「高校の時、俺いじめられてて、そいつ今大学にいるんすけど、彼女ができたみたいなんすよ」
「うん」
俺はその話を聞いて、最近SNSで結婚報告をしていた効率厨の彼を思い出した。憎まれっ子世にはばかるなんて言葉があるが、嫌な奴が酷い目に遭うとは限らないんだろうなと思う。そこは同情する。ただ、どう反応していいのか分からず曖昧に頷いた。
「なんで女ってあんな奴に引っ掛かるんですかね」
「そういうこともあるよね、男女関係なく」
グラスを掴んでテーブルから離したものの、それを口に持っていくわけでもなく、もう一度置いた。自分でも、実質何も言えてないよな、なんて思った。
「俺、独りになるのが怖いみたいです。ほら、よく独りでも平気って人いるじゃないですか。アレ、俺無理です」
俺だってきっとそうだ、と言いそうになって止めた。今は余計なことだと思ったからだ。
自分のためだけに生きるには、人生は長くあまりに退屈だ。そして退屈は致死的な孤独となって人を殺す。あるいは、徐々に死んでいくようにしか生きられなくなる。
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