楠木さんとの出逢い②

 彼女とは、職場の先輩に半ば無理やり参加させられた合コンで知り合った。当日になって一人欠員が出たらしく、数合わせで呼ばれて参加したのだった。

 先輩の話の聞き役に回ったり、誰かの愚痴に相槌を繰り返すだけで時間が過ぎていったが、だんだんと場の緊張が解け始めてきた頃、ある女性が話しかけてきた。

 その女性もその日参加するはずだった誰かの代わりで参加していたらしい。彼女は、俺も誰かの代理で来ているらしいと聞いて話しかけてきたのだ。その人が楠木遙さんだった。

 その時の彼女は髪留めで髪を一つにまとめ、眼鏡を掛けていた。代理で来たという言葉通り、楠木さんは先ほどまでオフィスで働いていました、みたいな恰好だった。他の女性はコツコツとヒールの音を立てていたが、彼女は黒のパンプスを履いていた。

 そこからしばらく、仕事の話や料理の話をした。帰り際、少し気になって合コンに参加した理由を聞いた。なんというか、これはただの偏見と勘だったのだが、あまり合コンには来なさそうな人に見えたからだった。すると、彼女は合コン自体が初なのだと言っていた。

「なんか面白そうだなと思って、合コンとか実は行ったことなかったんで、そうしたら思いのほか勝手が分からないから困っちゃいましたけど」

「好奇心、ですか?」 

「どんなに平凡な人間だって、一度くらいは特別な出会いがある。そういう出会いで人生が変わるもんだって……私のおじいちゃんなんですけど……言ってまして、だから友人から誘われたらあんまり断らないようにしてるんです。それにほら、なかなか人生って充実しないじゃないですか」

 彼女は少し困ったように笑った。平凡な人間でも特別な出会いがあるという言葉には、そうであったらいいなと思えたし、「なかなか人生って充実しないじゃないですか」なんて言う彼女に少し親近感を覚えた。何というか、ちゃんと生きようとしているように見えた。いや、ひょっとしたら困ったように笑った表情が蒼汰のそれに似ていたからかもしれなかった。

 その後、解散する時にここで会ったのも何かの縁だからということで連絡先も交換して何度かやり取りを重ねた。

 そしてついに今度の週末、会うことになった。

 金曜日の夜には大学の後輩の邦城と会食することになっていたので、今週は大忙しだな、なんて思いながら週末が近づくにつれて緊張していった。

 でも、本当にこれでいいのだろうかとも思った。ただなんとなく、誰かに傍にいて欲しいと思ってしまうことに少し後ろめたさを感じてしまう。

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