第10話誕 生

風がやんだ

樹々きぎは枝をゆするのをやめ

時々すすりなくような悲鳴をあげてきしんだ

どこからともなく不思議な音が漂ってくる

それは高く澄んで心に染みとお

心地よい旋律となって語りかけてくる


私は気を失ったまま

無意識の中に呼びかけてくる音をうっとりと聴いていた


闇のヴェールを押しわけて

向こうにある源泉を見きわめようと手を伸ばす

このまま深い眠りのなかに閉じこめられてしまうのだろうか


果てしないヴェールを越えると

安らかな眠りがあるのだ


雪が舞いはじめた

はらはらと頬をかすめて落ち

しだいに激しく渦巻いた

それは広がったり集まったり不規則に形を変えて

やがてひとかたまりの雲となり

ふんわりと闇に浮かんだ


__我が子よ

雲の中から声が響いた


声は耳元をくすぐるようにかたりかけた

暖かいものがそっと触れてゆく

かんばしい香気がたちのぼる

私は赤子のように不思議な声に身をまかせている


__起きなさい

声はおだやかに命令した


すると雲が弾け

火柱が噴き

突風が吹き付けて

私は闇のひずみに放り出される

砕け散る波

焼きつくす炎

荒れ狂う風

交錯し混ぜ合わされて回転する


扉が見える

眩い光がれている

まわりながらゆっくりと私は吸い寄せられてゆく

笑い声がする

私を待ち望む祈りが聞こえてくる

私は静かに手を伸ばし

喜びのなかに扉を開ける

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