第9話神 話

濃いワインレッドの闇がすべてを覆いつくし 幾枚も重ねられた花嫁のヴェールのように密やかにたちこめている これから何かが起こりそうな そんな予感のするこの世のはじまり その頃世界はまだ 私達の言葉では表現することのできない無限の中に隠されていた


はてしない時が過ぎた 偶然のめぐりあわせから 水面に落ちたたった一粒の木の実で湖が溢れるように 闇にできた小さな歪みから変化がはじまった


ワインレッドの闇は急速に収縮する 外周から中心へ するすると吸い込まれるように萎んでゆき やがて一つの点に集まる 密度の高くなった一点の闇は途方もないエネルギーを持つことになる


こうして光があらわれた はじめは赤黒く鈍く 黄金色こがねいろから白金へ まばゆくひろがって世界を満たしていった


光はいうならば海であった

光の内からすべてが産みだされたのである

光は肥えた土であった

光にふれるものはみないにのちを得て

生き生きと育ってゆくのだ

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