第39話 初めてまともに会話
「で? これはどういうこと?」
「どう……と、言われても……」
俺とベアリスは選挙カーをとっ捕まえて中に入ってた浅黒い肌のイケメン長身の男を引きずり下ろした。
とりあえず人も集まって来たし、かなり込み入った話になることが予想されるので、俺はその立候補していた男……カルナ=カルアとベアリスと一緒にファミリーレストラン『ロイヤルハント』で昼食を取りながら話を聞いているところである。
「まず……今回、角は?」
「人間に角が生えてるわけないだろう……」
まあそりゃそうだが。しかしよりによって今回もカルアミルクがこの世界に転生しているとは。ホントにこいつの転生は偶然なのか? しかしベアリスも実際『知らない』と言うんだからそれを信じるしかない。
ちらりと彼女の方を見たが、大喜びで食後のパフェを食べている。まあ、普段コオロギの素揚げとか食ってるからな。日本の食事は美味しかろう。
「で、お前はいったい何してんだよ?」
「何って……見て分からんのか?」
カルナ=カルアは大仰に両手を広げて見せる。グレーのスーツに肩からタスキをかけている。タスキには大きく『カルナ=カルア』の文字。
まあ……選挙活動だよな……普通に考えれば。
「そういうことを聞いてんじゃねえんだよ。なんで選挙活動なんかしてんのか、ってことだよ!」
そう。まさに、何故魔族がこの日本で選挙活動をしているのか、ということだ。一体何を企んでいるのか。もしや今回の転生は偶然じゃなくて邪神に派遣されてきた……とか?
「なんでもなにも……俺民自党の現職国会議員なんだけど?」
なんだと。
「今回衆院解散が決まったから選挙活動してるだけだけど……そんなに変なことしたか? 俺……」
まず名前が変だ。というかこんな変な名前の国会議員がいたのか。完全にノーマークだった。
「名前についてはしょうがないだろ。俺、両親が海外から帰化してるから。でも生まれも育ちも越谷の生粋の日本人だぞ」
俺の知らん間に埼玉県がこんなカオスなことになっていたとは。
「んじゃなに? 今回別に魔王の四天王とかじゃないわけ?」
「四天王……四天王か……」
カルアミルクは少し考え込む。
「学生の頃少しやんちゃしてたからな……『越谷の四天王』と呼ばれたことはある」
魔王軍四天王 → 魔王軍十六神将 → 越谷四天王
だいぶ落ちてきたな。
「ああ、美味しかった!」
カラン、とパフェ用の長スプーンをグラスに入れる音がした。やっとベアリスの食事が終わったか。
「お友達とのお話は終わりましたか? ケンジさん」
友達じゃないが。というかカルアミルクがかなり困惑している。まあ、そりゃ気になるわな。この女なんやねん、と。
「ガイジンやん、この女……どこの子なん?」
お前が言うか。確かに戸籍は日本人だろうけども。
「ケンジさん、この人民自党なんですよね? じゃあとりあえずこいつを血祭りに上げましょう!」
「オッケー、ファイア……」
「ちょちょちょちょっ、待って待って待って!!」
右手のひらをカルアミルクに向けて魔力を練り始めたところを、慌ててカルアミルクが止める。なんだよ、いつもの定例行事がこなせないだろう。しかし一応俺は手を下げて奴の言い分を聞くことにした。
「なんなん……? どこの子なん? どっかおかしいんちゃう、自分ら……」
生粋の埼玉人じゃなかったのか。なんだその関西弁。
「ちょっ、ほんま冷静になってな?」
そう言ってカルアミルクは天井を指さす。
「あ……防犯カメラ」
「分かるやろ……? ここ日本やぞ? ファンタジーちゃうぞ?」
いかんな、俺もちょっと異世界に毒されてたわ。なんかカルアミルクの顔見るとファイアボール撃たなきゃいけないような気がしちゃうんだよな。今回角が無くて良かった。角があったら多分条件反射的にファイアボール撃ってたわ。
ここは法治国家の日本なんだ。
というかよくよく考えたら別にカルアミルクをここで殺す必要性自体が無いわ。スナック感覚で殺しちゃうところだった。
「まあそれはそれとしてさあ、お前なんで国会議員なんてしてんの?」
「え?」
俺の質問にカルアミルクは疑問符を浮かべる。これは怪しいぞ。何か隠してる目的があるに違いない。
「日本を良くしたいからだけど……?」
「ダウト!!」
「ファイアボ……」
「ちょ待て待て待て待て待て!!」
ベアリスのダウトの宣言と共に俺はファイアボールを撃とうとしたが、またカルアミルクに止められた。何だよテンポ悪いな。
「え? ガチでなんなん、自分ら? 何しにここに来たん……?」
まおうをたおすためにきたんですけど。
「民自党が日本を良くするだなんてちゃんちゃらおかしいですね! こいつはやっぱり邪神の手先です!」
しかしベアリスがそう宣言したことで俺は冷静になった。
つまり、ベアリスの言うことはいつも間違ってる。だから、ここでカルアミルクを殺すのは間違いだということだ。
カルアミルクは自分を指さしながら言う。
「いや……善良な一市民!」
そうだ。危うく殺人犯になってしまうところだった。
「俺はな……さっきも言った通り学生時代はちょっと荒れてたんだよ。外見がこんなだからいじめられたりもしてさ……でも、親のコネから民自党の代議士の秘書の仕事にありつけて、そこで認められて議員にまでなれたんだ」
なんか語りだしたぞコイツ。長くなりそうなら一発ファイアボールでも撃っとくかな。
「矢部先生はこんな俺の事を受け入れてくれた。そして常に近くで仕事をしてて分かったんだ……人に尽くすために身を粉にして働くことの、尊さが……」
なんか意外にも真面目に考えてるんだな。てっきり政権中枢にとり憑いて甘い汁でも吸おうとしてるのかと思ってた。
「まあ、そういうことなら俺は帰るわ……」
「え? 今回は燃やさないんですか?」
ベアリスは納得していないようだが俺は席を立った。しかしカルアミルクが呼び止める。
「ちょっと待って……本当に……殺さないの?」
お前は俺の事をなんだと思ってるんだ。
「だって……魔族側にいても人間側にいても、何してても最後には俺を殺しに来るから……てっきり死神的なもんかと……お前らいったい何者なの?」
なるほど、こいつの目からは俺はそう映っていたのか。
「勇者だ」
「女神です」
――――――――――――――――
街並みに沈んでいく夕日を眺めながら、俺は自分の部屋で軽く伸びをした。
まあ、前々からそんな気はしていたものの、あいつはあいつで頑張ってるんだな。今まで敵対してばっかだったから容赦なく燃やしてきたけど、当然ながらあいつだって自分の人生を必死で生きてるんだ。
当たり前だけど、そんな軽々しく人を燃やしちゃいけないよな。
ふと部屋の中を見ると、ベアリスは俺の机に座って夢中でスマホをいじっている。真剣な表情で集中してる顔は……やっぱり可愛い。中身テロリストだけど。あと人のスマホ勝手にいじるな。
「ケンジさん……」
「なんだ?」
スマホを凝視しているベアリスが声を上げた。
「カルナ=カルアさん、炎上してます」
なんだと。
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