カラテ世界
第30話 科学技術の進んだ世界
「まあ……今回は……俺も悪かったと思ってる」
ベアリスは口を開かず、頬を膨らませたまま瞳に涙を溜めている。俺に裏切られたことが相当ショックだったようだ。
しかしまさか女神の方から強制チェンジができるとは思わなかった。まあ、こいつが転移させてるんだから当たり前っちゃあ当たり前なんだけど。
「……ふぅ……もういいです。こっちも反省するところはあったと思いますし」
しかしこのいたたまれない空気。俺は正直もうここに戻ってくるつもりなかったからあんな流れになったんだけど、完全に針のむしろだ。
「……どんな世界がいいです? ケンジさん」
ベアリスは眉間に皺をよせながらも、俺に尋ねてきた。おお、ついに俺の希望をちゃんと聞いてくれる気になったか!
「ありがとう、俺の希望も聞いてくれるんだな……」
「ええ。私、気付いたんです。今まであまりにも転生者に寄り添ってなかったな、って」
俺も随分わがまま言ってたのに、ベアリスの方から歩み寄ってくれるなんて……彼女も成長してるんだな。まだ16歳なんだもんな。
「ケンジさんに『ヤハウェ』かって言われた時にハッとしたんです。あんな傲慢(以下略)」
「ベアリスさん?」
「……ちょっと逆らうとすぐ天罰(中略)人間をおもちゃだと(以下略)」
「ベアリスさん!? ちょっとストップ。ストーップ!!」
「生け贄大好きな……なんですか?」
心臓に悪い、この女。
「あのね? ちょっと考えて発言しましょうね? ヘタしたらこの小説どころかカクヨムごと潰されますからね? 口は禍の元ですよ?」
「大丈夫ですよ。そういうのはイスラ……」
「ストップつってんだろうがぁ!!」
こいつ分かっててわざとやってるんだろうか。たちが悪すぎる。俺が冷や汗をぬぐっていると、ぐい、と手を引っ張られた。
「ケンジさん、ちょっとこっち」
そう言ってベアリスは俺の手を引いていつも座っている柔らかい一人用のソファに俺を座らせた。なんだろ? なんで俺をソファに? 疑問符は尽きないが、彼女は手をくいくいと寄せるジェスチャーをした。端に寄れ?
「よっ、と……」
ぼふん、と空いたスペースに彼女が座った。
わかりづらい方もいるかもしれないので説明しよう、今現在俺と、ベアリスは、一人用のソファに二人で身を寄せ合って座っている、というかほとんど寝転んでいるのだ。
「ちょっ、え? ちょっっ……ベアリスさん?」
えっ? 寄り添うってこういう?
「ん~、どれがいいですかねぇ……?」
ほんの5センチくらい先にベアリスの顔がある。彼女の鼻息が俺の首筋にかかる。めっちゃいい匂い。何だろうこの子、花の蜜だけ吸って生きてるのかな? コオロギ食ってたような気もするけど。
「あ、これなんかどうです? ケンジさん好みじゃないかなあ」
そう言って資料を指さしてくるものの、全く頭に入ってこない。なんかこれ、アレじゃないか? もう……式場選んでるカップルじゃないのか?
ああ、もうダメだダメだ。これ以上引っ付くと気づかれる。アレがアレしてるのが気付かれる。
「ねぇ、ケンジさぁん、いいですか?」
え?
「いいですぅ?」
ヤバい、聞いてなかった。聞いてなかったけども。
「もちろんいいよ」
「おりゃあ!」
俺は光に包まれた。
光が消えると、そこは一面の草原。一番最初の異世界に似ているな。
まあ、なんとなくね。
なんとなくこうなることは予想してたけどね。
いや、確信してたな。
絶対こうなると思ってたわ。
「ねえ、ベアリスさぁ……」
『なんですか?』
「ここはどういう世界なわけ?」
『どういう? って……さっき資料見せてたじゃないですか。聞いてなかったんですか?』
まあね。実際聞いてなかったわ。全く頭に入ってこなかった。いつもの俺ならここは適当にごまかすところなんだけど、今回は違う。俺も成長してるんだ。ベアリスがあれだけ転生者に寄り添ってくれたんだ。俺も正直に言わないとな。
それに率直なところこの世界の情報は喉から手が出るほど欲しい。前回みたいに極悪非道な人類だったら助ける気わかないしな。
「ごめん。ベアリスがあまりにも可愛くて何にも頭に入ってこなかった」
『なっ!?』
なにか、ガタン、と大きな音がした。ソファから落ちたんだろうか。
『ななな、何を急に言い出すんですか! 急にそんなっ……ご、ゴマをする様な事言っても……』
「なんかこう……天使みたいに可愛くって……」
『とんでもねえ、あたしゃ神様だよ』
そういうネタやめような。若い人には分かんないから。あとその人は神様じゃなくてホトケになったから。
『え、ええっと、その世界はですねぇ……』
なんとか取り繕うような声をベアリスは出す。意外とこういうの免疫ないんだな、この子。
『ケンジさんが元いた世界にかなり環境が似てますね。そこからビル群が見えるでしょう?』
え? 見えないけど? 見渡す限りの一面草原なんだけど?
『あれ? おかしいですね……ちょっと移動してもらえますか?』
送る予定だった場所と座標がずれたんだろうか。俺は言われるままに歩き始める。
『その世界はですねえ、かなり科学技術が発展してて、人間の数も多いんですよ。歩いてればその内誰か人間に出くわすと思います』
言われるままに歩きながら俺は段々と不安になって来た。しかし一時間、二時間、歩いても人っ子一人いない。凄く嫌な予感がしてきた。道中ベアリスはいろいろと情報を出してくる。
『人間以外の生き物もあまり危険なものはいなくてですね。せいぜい大型の野生動物がいるくらいで……』
ふと空を見ると、俺の真上にワイバーンがいる。
俺はとりあえず上空でずっと旋回しているワイバーンを無視して歩き続ける。
どうやら湿地帯に入ってきたようで足元がぬかるんでくる。さらに進み続けると大きめの湖にたどり着いた。大分歩き通しだったから腹が減って来た。ここで魚でも取れないだろうか。
『湖だったらナマズとかいるかもしれませんね。いずれにしろそんなに危険な生き物はいないから、中に入って捕まえてきても大丈夫ですよ』
その時上空を旋回していたワイバーンが急降下してきた。どうやら襲い掛かるタイミングをはかってたみたいだ。
俺は横っ飛びに敵の攻撃を躱す。ワイバーンはすれ違いざまに炎を吐いてきたが、俺はそれを氷の障壁を出して受けた。
ワイバーンはそのまま滑空し、一旦湖の畔に着地し、再び飛び上がろうとする。しかしその瞬間湖から出てきた巨大な蛇がワイバーンの尾に噛みついた。
ワイバーンは反撃しようとするものの、湖からさらに数匹の巨大な蛇が出てきて胴体や首に噛みつくと、しばらくびくびくともがいていたが、やがて動かなくなった。
『蛇……? ええと、その大きさだと、アナコンダ……とかですかね? おかしいな、そんなのはジャングルの奥地にしかいないはずですけど……』
さらに湖から蛇が出てきて獲物に噛みつく。それらの蛇、合計9匹、全て一つの太い胴体で繋がっていた。ヒュドラだ。
ヒュドラは獲物を水中に引きずり込もうとしたが、どうやら俺の存在に気付いたようでこっちに向かってくる。
そこに、一人の少女が姿を現した。褐色の肌に黒い髪。ホットパンツに、上半身はチューブトップ、というかブラのような布を巻いた健康的な肉体。
『え? 現地人ですか? その世界の人間は魔法も戦闘スキルもなくて弱いので、助けてあげてください!』
ベアリスの言葉に俺は駆け寄ろうとしたが、少女は近づいてきたヒュドラの頭を横薙ぎの
「ベアリスさんさあ……」
『…………』
「送る世界間違えましたね?」
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