第8話 カルアミルク再び
「ハァ、ハァ……」
衛兵に案内されて俺は全力で正門に駆けつける。後から気づいたがどうせなら身体能力強化とか試してみりゃよかった。若干息を切らせながら正門にたどり着くと、そこは四天王の魔法にでもやられたのか、正門は壁が崩れ、いたるところに小さなクレーターが発生してボロボロになっていた。
「フン、近衛騎士でもこの程度の実力か……魔王様の力などいらぬな。とりあえず今日のところはこの女を戦利品として持ち帰るとするか。なかなかそそる体してやがる」
何者か、黒い肌の角を持った男……魔族だろうか。ボロボロになったイーリヤの両腕を片手で拘束してぶら下げるように持っている。
「くっ、殺せ……敵の慰み者になどならぬ!」
早速くっ殺しとるやんけ、展開早すぎてついていけんわ。
「くくく、そう言えば自己紹介がまだだったな。我が名は魔王軍四天王筆頭、一撃絶命鉄宝流空手最高指導者、黒鉄のカルナ=カル……」
「イヤーッ!!」
「グワーッ!!」
言い終える前に俺のファイアボールが炸裂して四天王はもんどりうって吹っ飛ぶ。俺は即座に地に崩れ落ちたイーリヤを抱え上げた。
「っていうかカルアミルクやんけ! 生きとったんかワレ!!」
「アイエエエエ!! ユウシャ!? ユウシャナンデ!!」
なんでカルアミルクがこんなところに? 死んだはずじゃなかったのか? しかも別の世界で。だが向こうも俺の姿に心当たりがあるみたいだし他人の空似ってわけでもなさそうだ。
「せっかくこの世界に転生して人生を謳歌してたっていうのに何でお前がこの世界に!? まさかお前、俺を追って異世界を渡り歩いてるのか!? なんでそんなことを? 俺そこまで悪いことしたか!?」
うるせー、こっちが聞きてーわ。
「勇者様、助けに来てくださったのですね……♡」
イーリヤはイーリヤで俺の腕の中で頬を染めて、胸板に寄りかかる。
「オオ、凄い! あの四天王筆頭、一撃絶命鉄宝流空手最高指導者、黒鉄のカルナ=カルアフース名誉顧問を倒すとは!!」
「さすが勇者様!!」
陛下たちも追いついてきて四天王を倒した状況に感嘆している。
……情報量が、多い。
「くっ……イーリヤ様……いつか必ず、勇者を超えて振り向かせて見せる……」
人ごみの中に騎士パイドットもいる。……本当に情報量が……
よし、先ずは一つずつ片付けていこう。
「おいベアリス、どういうことだ!? なんでカルアミルクがここにいる? お前の仕業か!?」
俺が天に向かって呼びつけると即座に返事は返って来た。
『ええっとですねぇ……カルナ=カルアさんは誰かが転生させたわけじゃなく、普通に輪廻転生したみたいですねぇ……生存記録も魔族として100年以上ありますし。前世の記憶を持っているのはまあ……偶然としか……すいません、私には分からないです』
「くそっ、こんな出来すぎな状況を『偶然』で片づけるつもりか……じゃあ魔王が転生者ってのは?」
『すいません、それも分からないです。どうやら私達と敵対する『邪神』が人間を転生させたみたいですが……それ以上は』
邪神……そんなのがいんのか。それにしてもカルアミルクが前の世界で死んだのはついさっきのはず。なのにこいつの生存記録が百年単位であるっていうことはそもそも時間が一様に流れてるわけじゃないってことか。
「もしかしてまた女神さまと会話を……? ステキ、勇者様♡」
イーリヤ少しキャラがブレすぎじゃないか? 俺に対するときとそれ以外で態度違いすぎだろう。
その瞬間、カルアミルクが視界の端でブレた。いや、隙ありと見て突進してきたんだ。右腕はイーリヤを抱えてふさがっている。左手でそれを制しようとしたが、今度はカルアミルクは完全に視界から消えた。
フェイントか。この状況で視界から消えたという事は、おそらく俺の左後方に回り込んだはず。俺は奴の位置にあたりをつけて、イーリヤを抱きかかえたまま、腰を深く落とし、左後方に
「!?」
しかしはずれ。カルアミルクは俺の左後方にはいなかった。いたのは上方。手刀で切り付けようとしたのだが、俺が急に後方に靠で移動したので空ぶって体勢を崩した。
俺が靠を反撃の技に選んだのはまさにこれが狙いだ。
当たればそれでよし、外れたとしても体勢が崩れず、即反撃に移れる上にその場を離れるので回避行動にもなる。
空中のカルアミルクと目が合う。絶望に染まる瞳。「やっちまった」という意思表示。俺は奴の前に左手を差しだす。
「イヤーッ!!」
「サヨナラーッ!!」
再度炎に包まれるカルアミルクの身体。さすがの俺も一日に二度も同じ奴を火葬にするとは思わなかったわ。
ごうごうと音を立てて燃えるカルアミルクの死体。周りの人間も口々に俺を称えている。
……まあ、こうなるだろうとは思ってたけど……なんだか複雑な気持ちだ。前回はこの後宴があって……ああ、サリス……今回のヒロインで言えばイーリヤか……あれ?
ふと気づく。俺の腕の中で恍惚の表情を浮かべていたはずのイーリヤがまたもやいなくなっている。
「あれ、あれ? イーリヤ、イーリヤは?」
「ほほ……そんなにも我が娘の事を気にかけて下さりますか、身に余る光栄に御座います」
「うるせー、どこにいるか言え! 早く!!」
国王陛下が穏やかに答えたが、俺は正直言って気が気じゃない。前回の異世界があんな結果になった後だけに。陛下はちょっと引きながらも答えてくれた。
「その……勇者殿の力は此度の戦いでよく分かり申した。しかし相手の魔王もやはり異世界よりの転生者。さればこそ……」
「前置きはいいから早く答えろ! どこに行ったんだよ!!」
「その、魔王を倒すには我が王家に伝わる『聖剣』が必要じゃろうと。イーリヤは己の手ずからそれを渡したいと、地下の宝物庫に……」
「地下だな!!」
俺は走り出した。周りの人間に道を聞きながら。
嫌な、凄く嫌な予感がする。
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