第85話 忍者が恋なんてするわけない④

 モッカが自分の家に越してくるなら改造費用の出費はいとわないと申し出たハレオ。

 セバスチャンはそれを受け入れ突貫で家の改造を進めた。


 「まずは中二階の天井裏だ」

 金を出すのだから、どんな風に改造したのかを逐一報告しろ。そのハレオの言葉に主君制に長く身を置いていたセバスチャンは抵抗無く従った。

 「中二階?上の住人に許可は取ってるの?」

 「大丈夫だ、上階には一切浸食していない、若干天井が低くなっているがな」

 「そうなのか、全然気が付かなったよ。なるほどロフトみたいな感覚の秘密基地ってかんじかな、楽しそうだ」

 「ロフトだと、そんな目立つ物は作らぬ、忍者は忍んでこそだ。誰にも気付かれること無く、この見張り窓から監視するだけの部屋、それが中二階の天井裏だ」

 「それってさぁ、覗き部屋ってことじゃないの?」

 「そうだが?」

 「そうだが、って当然の様に言われてますけど、犯罪ですからね」


 「次が、どんでん返しだ」

 「いや、話を逸らさないで」

 誰も居ないリビングで、セバスチャンと二人っきりで話し合いをするハレオは、そわそわと辺りを気にする。


 「どんでん返しとは、一見壁の様に見える場所に少し力を加えると回転するドアとなり別の部屋に繋がる仕組みだ」

 「回転ドアか、それは面白いね、みんな最初はビックリしちゃうかも」

 「夜這いには打って付けだな」

 「よ、夜這いって」

 「なんだ、知らぬのか?どんでん返しは夜這いの為に作られたのだぞ」

 「嘘だ~そんなの聞いたことないよ、時代劇では急な敵襲から逃げる為の仕掛けだったハズ」

 「ふん、浅はかな情報に惑わされおって」

 「例え浅はかでも、夜這いはダメでしょ」

 「次は縄梯子だ」

 一向にこちらの意見に聞く耳を待たないセバスチャンにハレオの額から冷や汗が流れ落ちる。


 「このボタンを押すと、天井から縄梯子が降ってくる。それを上って屋根や上階に行ける仕組みだが、残念なことに上階は別の住人が住んでいる、流石に他人様に迷惑はかけられん」

 「うん、そりゃそうだ」

 セバスチャンにも常識が備わっていそうで安心するハレオ。


 「よって、この縄は亀甲縛り用として機能させる」

 「ん?きっこう、なに?聞こえなかった」

 「よし、では実演しよう」

 「えっ?うわっ、ちょっと、なにするんだ、ヤメロ」

 

 セバスチャンは天井から垂れた縄を器用に操り、ハレオをあっという間に縛り上げた。

 ハレオは、服を着たまま綺麗な亀甲縛りをされ、天井から吊るされていた。


 「ごめん、すぐに下して、叫ばないから、怒らないから、すぐに下して」

 恥ずかしさで泣きそうになるハレオ、こんな所を誰かに見られたらと思うと、助けを呼べる訳もなく、必死に小声で懇願する。

 「どうだ私の縄の技は芸術的に体に食い込むが痛みは感じない、むしろ快楽すら……」

 「いいから、わかったから、お願いしますから下ろして下さい」

 真顔で懇願するハレオに、素直に従うセバスチャン。


 「絶対にこういう使い方しないで下さいね、というか上の階に行けないなら撤去しちゃってください」

 ハレオは、はぁはぁと息を荒げて再度懇願した。

 「なんだ、亀甲縛りは忍者の専売特許だぞ」

 「それも聞いたことありませんから」

 

 その後もセバスチャンは、落とし穴、刀隠し、からくり窓などの仕組みを丁寧に説明した。

 「エロ忍者かっ、というかこの半日で一人でこんな大がかりな改装できるなら忍者辞めて大工にでもなれ、そして今すぐに元に戻せ」

 そのカラクリのほとんどが卑猥に結び付く改装だったので当然の如く怒るハレオ。


 「大丈夫だ、ハレオ殿、このカラクリはモッカお嬢様とお前にしか教えん、好きに使いが良いぞ」

 「使わないってば、俺の家を元に戻してくれ」

 「なんだよ、気に入らなかったか?モッカお嬢様なら両手を挙げて喜ぶぞ」

 「とりあえず元に戻そう、俺が間違ってた、最初にどんなからくりを作るかを考えてからにしょう、なっ?」

 「ワガママな奴だな、まぁ出費してもらっている身ではあるから逆らいはせんが、少し疲れた、休んでからにしよう」

 「ああ、そうだな、俺もそうするよ自分の部屋に戻るから、再開する時に呼んでくれ」

 怒りと、辱められた疲れで肩を落としながら自室に戻るハレオ。


 「あっ、からくり扉のことを説明していなかったな……まぁいいか、私も踏ん張り過ぎて汗をかいてしまった、着替えてくるとしよう」

 セバスチャンは、一時的に借りている部屋に戻る。



 「えっち、お兄ちゃんのバカっ」

 「キャッ、ハレオどうして」

 「ハレオくん……」

 「ハレちゃん、待ってたわよ」

 「なんだ貴様ー粛清してやるー」

 落ち着いたハレオが自分の部屋の扉を開く度に、女性陣の悲鳴が木霊した。

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