第86話 忍者が恋なんてするわけない⑤

 ハレオ宅、リビングにて。

 

 腕を組み、ほっぺに空気を入れて怒るトウカ。

 スミレは複雑な表情で心配そうにハレオを見つめる。

 ボタンは胸に手を当てて顔を赤らめている。

 ユウは両手を腰にあてて怒っている振りをしている。

 セバスチャンは地団駄を踏み怒り狂っている。

 そしてハレオは正座させられていた。

 

 「ハレちゃん、これは一体どういうことか説明しなさい」

 「俺にも分からないよ、自分の部屋を出ようと扉を開いたらだけなんだ」

 「真面目なお兄ちゃんだと思っていたのに、そんな嘘付くんだ」

 「嘘じゃないってば、トウカのコスプレ着替えを見てしまったのはホントごめんだけど、慌てて扉を閉めて、少し考えてまた開くと、今度はスミレの部屋になっちゃうし」

 ハレオは手を膝に乗せて必死に訴える。


 「私はいいんだよハレオ、ちょっと薄着でリラックスヨガやってただけだから」

 「……」

 ハレオはスミレと目が合うと、体型を維持する為にスポブラと短パンで恥ずかしいヨガポーズをしていた姿を思い返し顔を真っ赤にした。


 「私もいいよ、気にしてないからね……」

 「絶対に見てないから、ほんとに咄嗟に目を逸らしたから」

 「ハレオくん……」

 ドキドキが止まらないボタンは思い返す。ノーブラ、チビTで胸のリンパマッサージ中だったボタンは、ハレオが扉を開けたその瞬間、自分の胸にハレオの視線をしっかりと感じていた。それは慌てて反論するハレオの言葉にも現れている。


 「私の着替えなんて何時でも見せてあげるのだけど、同級生の女の子や妹の部屋のドアをノックもせずに開けるなんて、ちょっとデリカシー無さすぎね」

 「ごめんなさいユウさん、ほんとにワザとじゃないんです」

 頭を下げるハレオ肩に手をのせて、ユウは囁く。

 「で?誰のハダカが一番好みだった?」

 「ユウさんっ、誰のハダカも見てないですってば」

 ハレオは目を見開き、必死に否定する。


 しかし、ユウはハレオの変化を見逃さなかった。

 ハレオがユウの言葉を耳にした瞬間、その視線の先に居たのは同志ともいえる4人と離れ1人地団駄を踏む忍者。


 「貴様ぁ、カラクリ扉は私の部屋に繋げていないはずだぞ、なんでよりにもよって着替え中に部屋の扉を開くのだ。ワザとか、ワザとだな、今すぐ殺してやる」

 セバスチャンはナイフを逆手に構え戦闘態勢を取った。


 「まさか、セバスさんがセバスちゃんだったとはな、イケメンの癖に脱いでも凄いとは……忍ぶ者が聞いて飽きれるわ」

 ユウは、セバスチャンを睨むと、そう呟く。

 「殺すには惜しいが、私の正体を知ったからには全員生きては返さんぞ」

 

 最初に部屋を覗かれた4人は、慌てて身だしなみを整えた後、ハレオの部屋を目指した。そして、ハレオが最後に開いたセバスチャンの部屋を覗き見たのだ。


 そこには、さらしで無理矢理に巻き付けた大きな胸、綺麗にくびれた腰回り、真っ白なふんどしパンツ姿のセバスチャンが顔を真っ赤にしてしゃがみ込んでいた。


 「つまり、このイタズラは全部セバスちゃんの仕業ってことね」

 「すまん、俺の所為でもあるんだ、部屋を好きに改造していいと許可を出してしまった」

 臨戦態勢のセバスチャンを少しでも落ち着かせようと思ったハレオは擁護する。


 「えーと、つまりですよセバスチャンさん、お兄ちゃんの部屋のドアを開けると、他の人の部屋に繋がってて、そこの部屋のドアが開いちゃうってことですか?」

 トウカは目をキラキラさせながら疑問をぶつけた。


 「ああ、そうだ」

 「ああそうだって、どうやってそんなどこでもドアみたいな魔法の装置作ったんですか」

 「魔法じゃあ無い、カラクリ扉だ」

 「流石忍者……って全然理解できないんですけど、どういう原理ですか?」

 トウカの問いに、なんだそんなことも知らんのかといった表情で返すセバスチャン。


 「残念だが門外不出のカラクリ故、教えることはできぬ」

 「セバスチャンさんに弟子入りすれば教えてくれますか?」

 「弟子入り……まぁ考えてやらんでもない」

 幼く可愛らしいトウカの羨望の眼差しと、そんな幼女が自分に弟子入りしたいと懇願する姿に、妄想を巡らせて照れるセバスチャン。


 「確かに凄い技術だな、他にも弄った場所があるのか?」

 「聞きたいね、忍者って本当に居たんだ」

 「うん、私も知りたい」

 ユウやスミレ、ボタンも興味津々に聞き入る。


 「ああ、中二階の天井裏に、どんでん返し、それと亀甲……」

 「わーわーわー、いい、それはもう直して貰うから、皆は聞かなくていいよ、セバスチャンも余計なこと言わないで、早くこのカラクリ扉も直して」

 あんな卑猥な装置を皆が知れば、この状況がさらに悪化するのは明白。ハレオは得意気に話し始めたセバスチャンを必死に止める。


 「直してしまったらモッカお嬢様を迎えられんだろうが」

 「それは困る、モッカの1人暮らしは心配だから家に来て欲しい」


 「よく分かんないけど、そのモッカちゃんって子をうちに呼びたいからこんなことしてるの?」

 「「そうだ」」

 ユウの言葉に、真顔で返答するハレオとセバスチャン。


 「ふ~ん、なんか訳ありみたいね、私達にも何か手伝えることある?」

 「いいんですかユウさん」

 「かたじけない」

 思わぬ助け舟に素直に喜ぶハレオとセバスチャン。


 「ちょっとユウさん、無視しようって決めたじゃないですか」

 ボタンはユウの袖を引くと、小声で訴える。

 「みんな、作戦変更だ」

 そしてユウはボタンとスミレ、トウカを呼びハレオに背を向けて話し始める。

 「セバスは女だった、そして、ハレちゃんはセバスのナイスバディに首ったけだ」

 「エロ兄ちゃんめっ」

 「私も負けてないもん」

 「私だって」

 「落ち着け皆、これはチャンスだ、ハレちゃんが女に興味を持ち始めている」

 そのユウの言葉に、他の3人は顔を見合わせた。

 「私達の部屋を覗いた反応も良好だ、つまりこれはゲイに傾きかけていたハレちゃんが健全な男子に向かっている証拠」

 「「「なるほど」」」

 「このままセバスを使って、一気に目覚めさせるぞっ」

 ユウの鼓舞に、戸惑いながらも頷く3人だった。

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