第68話 お色気作戦になんて屈しない③(ハレオ視点)
最近皆の様子がおかしい……。
二日目のネット遠足は、指揮を執るメンターが代わり前日の混乱が嘘だったかの様に、宝さがしゲームや、鬼ごっこ、かくれんぼ等、全てのレクリエーションが滞りなく行われ無事に終了した。途中で退場させられた生徒達も含め、約2万人のアバターが一か所に集められて行った最後の記念撮影は圧巻だったけど「バトロワの方が良かった」との謎の意見も出ていた。
まぁメンターが1人契約解除されただけで、みんな楽しく終われたから良しとしよう。
問題は、その後だ。
トウカ、もともとコスプレ大好きでメイクも上手なのは知っていたが、最近やけに化粧が濃い。
ケバいとか不快な感じはないが、家の中でも気合の入ったメイクでウロウロすることが多くなった。
つけまつげとか、どんだけ長いんだよって突っ込みを入れたいが、なんだか可愛いから放っておこうと思う。
スミレ、もともとスポーツやってたから筋トレ好きなのは知っているけど、最近やたらと合唱ポーズで腕を鍛えてる、それとも何か願い事でもあるのか?あと両手でチューブを引っ張ったり、寝っ転がってダンベルを持ち上げたり、まぁ元気なことは良いことだ。
あとボタンがうちに引っ越してきた。
どうやらスミレが引っ越してきてから、両親に自分も俺の家に住み込み勉強したいと相談していたらしい……ボタンが勉強を?とは思ったが、メンターになったユウさんがボタンの両親へ「ボタンさんの才能を見出しました、私も一緒に住んでますので」とか助言して実現したらしい、なんで家主である俺の意思が無視されたのかは謎だが、ボタンが勉強に力を入れるのなら邪魔する訳にはいかないな。
最近のボタンは水を得た魚の様に、毎日楽しそうだし、良しとしよう。
ユウさん、やたら俺に触れてくる。
前々から癖だから気にしないでとは言われていたが、スキンシップの域を越えている。
それに、勉強を教えてくれるのはいいが、顔が近い、あと、やたらと薄着だから目のやり場に困る。
ユウさんに感化されてか、ボタンまで薄着になってきているし、暖かくなってきたとはいえ、風邪を引いてしまわないか心配だ。
そして全員に共通しているのは、隙あらば俺に視線を飛ばしていること。
「何か用があるのか?」と返しても、つぶらな瞳で顔を横に振るばかりだし、そのときにおいてはユウさんも何故かよそよそしくなる。
なんだか自分の家なのに居心地が悪いな……別の階に、もうひとつ小さい部屋でも借りて俺だけ移ろうかな……いや、ダメだ。そういう考えは良くない、お金は大事に使えってユウさんの怒られたばかりだからな。
お金……大事にか、そういや、あれから1ヶ月くらい経つか。
ナリヤスの奴、元気にしてるかな、俺が匿名で出したお金、使ってくれているのだろうか……。
どうしよう、元の顔も分からないくらいの別人になっていたら……それはそれで少し寂しいな。
あっそうだ、発つ前に写メ撮ってたんだっけ、どんな顔だったか覚えておく為にも、偶には顔を確認しておくかな。
ふふ、ナリヤスの奴、前髪を上げたらめっちゃイケメンじゃないか、モテモテだったろうに勿体無い。
「うおっ」
気配を感じて振り向くと、スミレ、ボタン、トウカ、ユウさんが、いつの間にか後ろでナリヤスの写メを眺めてジト目になっている。
「いけませんね」
「よろしくない」
「まさか、お兄ちゃんが……」
「ハレちゃん、ちょっとこっち来なさい」
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