第64話 ネット遠足は終わらない⑫

 VRヘッドセットを外したハレオはキッチンへ向かい、冷蔵庫を開ける。久しぶりの料理、食べる側のトウカ達よりも、ハレオの方が喜んでいた。


 深夜ということもあり、短時間でなるべくヘルシーな物をと、ハレオはスミレが買い込んでいたお豆腐を手に取る。運動部を辞めてしまった体を気にしての選択だろう。

 ハレオは4人分の湯を沸かし、キッチンペーパーで水気を切った豆腐を一口大に切り分ける。お椀4つに和風だしと薄口醤油、隠し味に山葵を少々入れて、お湯で混ぜた。

 和風の良い香りを確認したハレオは、切り分けた豆腐をそれぞれのお椀に入れ、常備している鮭フレークをまぶす。

 鮭フレークが良い感じにお湯を吸った後、刻み海苔を振り掛け、最後に三つ葉を添えた。


 「出来たぞー特性お茶漬けだ」

 「「「……っつ」」」

 テーブルで待っていた3人は、その料理に言葉を失う。


 「お兄ちゃん、やはり天才か……」

 「夜食なのに罪悪感がまったく無いなんて……」

 「しかも、めちゃくちゃ美味しい」

 「「「お、おかわりありますか?」」」

 「豆腐が有る限り作り続けよう」

 「「「ハレオさまーーーー」」」

 ヘルシーといえど、量が増えれば意味をなさないことを忘れさせるくらいのハレオのスペシャル夜食を楽しみながら会話を弾ませる4人。

 

 「でも、良かったよ、お兄ちゃん全然元気じゃん」

 「皆が美味しそうに食べてる顔を見てると元気も湧くさ」

 「そりゃそうでしょうよ、ハレオくんの作る物ならなんだって美味しいもん」

 「私のお豆腐も浮かばれるってもんよ」

 「ごめんなスミレ、買い足しておくから」

 「いいの、いいの、食材はハレオに触れられて、初めてその意味を見出すのだから」

 「なんだソレ」

 「スミレちゃん名言!食材もそうだけど、私たちもねっ」

 「はぁ?」

 「ボタンさん、卑猥ですよ?深夜テンション危険です」

 「トウカちゃん厳しい」

 的確なつっこみに、少し顔を赤らめるボタン。

 いつもの会話、いつもの笑顔、ハレオが引き籠っていた1週間を忘れさせる食卓……そのテーブルに影が忍び寄る。


 「私の分はあるのかしら?」

 お風呂上り、頭にバスタオルを巻き付け、Tシャツと短パン姿のユウを確認した4人の会話は止まる。


 「……ユウさん、もちろんだよ、ちょっと座って待ってて」

 ハレオは急ぎ、キッチンへ向かった。


 「「「……」」」

 ハレオから聞いたユウの過去、思惑。言いたいことは分からないでもないが、敵であることは間違いないし、初対面の際の対応に納得していない3人は目を合わせることもしせず、無言を貫く。


 「そろそろ寝るわね」

 「わたしも」

 「じゃあ、わたしも」

 残っていた豆腐茶漬けを流し込み、席を立つ3人。


 「謝るわ、悪かったと思っている、ごめんなさい」

 ユウはハレオに促されたイスに座ることなく、離席を始めた3人に、深々と頭を下げた。

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