第63話 ネット遠足は終わらない⑪

 ユウのことが好きかもしれない……。

 ハレオの突然の告白に、3人ともピクリとも動かない。

 顔を合わせていれば、相手の表情から感情を読み取ることが出来、話して良い内容なのか、続けていい会話なのか判断できたのかもしれない。だが、今は全員無表情のアバター。グツグツと煮え滾る鍋を虚無の目で見つめながらハレオは続けた。


 「ユウさんは俺に一人で生きて行く術を教えてくれた。ユウさんの言うことは全部正しかった。だから今回も、きっとそうだと思う。

 スミレとボタンには隠していたけど、俺、実は宝くじで大金を手に入れてさ、でも使わない様に、誰にも気付かれない様に生きて行こうと思っていたんだ……親父の様になりたくなかったから。

 だけど、使ってしまった。この家も新キャンパスもナリヤスも、全部俺が……」


 「新キャンパス?ナリヤスくん?」

 家は分かるが、後半の2つの意味が理解できないスミレ。

 「い、いくらぐらい当たったの?」

 恐る恐る尋ねるボタン。

 「すまない、具体的な金額は……」

 「そんな勿体ぶる様な金額でもないでしょうに」

 51億をはぐらかすハレオに、500万しか当たっていないと思い込むトウカは鼻で笑った。


 「そうだな、トウカからしたら、はした金だろうな……でも俺には悪魔の金だ。金の事を知った友達が離れていくんじゃないか……知らない親戚が増えるんじゃないか……ただただ恐怖だったんだ」

 「ヤだなぁ、そんなお金なんかでハレオから離れるわけないじゃん」

 「そ、そうだよ、で?ハレオくん、ほんとは幾ら当たったの?」

 「お兄ちゃん、もうお金の話はいいから、なんでそれであの人の事が好きだなんて言い出すのさ」


 「ユウさんは、俺の事を愛していると言った」

 「「「愛……」」」

 アバターでは分からない。怒り、恥じらい、好奇心、それぞれ別の感情だが、3人の女子は顔を赤らめた。


 「そして、俺の人生を全て受け入れるとも言った。俺が成人しユウさんと結婚する約束があれば、他の女の人が俺に言い寄ることもない、それで俺のトラウマは消えると、そう言ってくれたんだ。そうすればスミレやボタン、トウカとも今まで通り大切な友達、兄妹として生活できるって、皆に辛く当たっているのは、金の魔力に目が眩んでいないか試しているんだって……そして俺はそう導いてくれるユウさんを信じている、そして好きかもしれないんだ……」

 「「「……」」」

 飽きれて言葉が出なかった。同時に、後悔する。こんなことならば、遠回りせず、もっとハッキリと気持ちを伝えるべきだった。ハレオがこんなにも無垢で純粋で、恋愛に、愛情に、こんなにも単純だっとは……3人は、ふ~と溜息をついた。


 「オッケー、私はハレオの気持ちを優先するよ」

 「妹であるうちは応援せざるを得ないですね、妹であるうちは」

 「ちょっとスミレちゃんトウカちゃん、そんなのダメだよ、私を応援してよ」

 「ボタンちゃん、ハレオが頑張って話してくれたんだよ、今は応援してあげないと、今は」

 「今は?」

 「そう今は」

 「そうですね、お兄ちゃんをここまでの男に育ててくれたユウさんも、根っからの悪人って訳でもなさそうですし、今は応援してあげますか、今は」

 「う、うぅ、今は、今はだよ、今だけだからね」

 「よし、ボタンちゃん偉いぞ、後でまた作戦会議開くから、今は我慢して」

 「うん」

 「みんな、俺の事、応援してくれるのか?」

 「「「今はね」」」

 「そうか、良かった」

 色々と疑問は残るハレオだが、頑張って告白したことを認められ素直に胸を撫で下ろした。

 

 「だから、引き籠っていないで、ちゃんと部屋から出なさいよ、私たちは別にお兄ちゃんのお金になんて興味ないんだから、ユウさんにも言っといてね」

 「ああ、分かった。ちゃんと言うよ、応援してくれてありがとうな」

 「「「今だけだからね」」」

 「なんか安心したら、お腹空かないか?」

 「そうだね」

 「よーし、なんかヘルシーな夜食でもささっと作ってやる、明日の遠足の続きもあるし、少し食べて休もう」

 「わーい、久しぶりのハレオの料理だー」

 「待ってろー今から久しぶりのキッチンへ、ってヘッドセット邪魔だな外さないと」

 「「「あ、それ外すと、死んじゃ……」」」

 「え?あっ、外しちゃった」

 「お兄ちゃーーーーん」

 「ハレオーーーー」

 「死なないでーーーー」


 「うん、大丈夫だった」

 「「「ですよねー」」」


 4人の大きな笑い声は廊下まで響き、腕を組み聞き耳を立てていたユウは、やれやれといった感じで、だけども嬉しそうに、自分の部屋へと戻って行った。

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