第65話 ネット遠足は終わらない⑬

 ユウは頭に巻いたバスタオルをそっと外すと、もう一度「ホントにごめんなさい」と発した。

 その風呂上がりの恰好からして、もともとは謝罪の意思が無かった。幾何かの罪の意識はあったが、大人の見栄というものが邪魔をして、廊下で聞いていたハレオの本心と、ハレオに好意を寄せる3人の純粋な気持ちに詫びるつもりは無かったのだ。


 だが「なんなの、なんなのよあの豆腐茶漬けは、あんな料理を教えた覚えはないわ」と食欲に負けを認め頭を下げた。

 ひと回り近くも違う未成年に頭を下げる、なんて屈辱……そんな考えが一瞬脳裏をかすめたが、謝ってしまえばどうということはない、むしろこんな小さな欲望で謝罪できた事に感謝さえ覚えた。思えばそれはユウがハレオに教えた「まず謝る」の精神でもあった。


 「正直言って、かなり参っていたの。皆はお金目当てでハレちゃんに近付いているのだと思ってた、だからハレちゃんから遠ざけるために芝居を打った。でも逆効果だった。それでハレちゃん引き籠っちゃって、私とも碌に口聞いてくれなくなっちゃって……この魅惑のグラビアボディで誘惑しても見向きもしてくれないし、完全に嫌われたのかと思ったわ。でも違った……ハレちゃんったら、私のこと、好きだなんて」

 「好きだとは言っていませんよ」

 「そうですよ、かもしれないってハッキリと言いました」

 「ハレオくんの恩人らしいので謝罪は受け入れますが、好意については受け入れられませんね」

 最初の謝罪だけで終えていれば……3人の反応に後悔したユウは、すぐさま軌道修正する。


 「ゴメンってば、そんなに怒らないで。ハレちゃんがあっと言う間に元気になって皆には本当に感謝しているの。今のハレちゃんには皆が居なきゃダメなんだって感じた。できれば同じ学び舎の友として、私も皆とは仲良くしていきたいわ」

 「「「同じ学び舎の?」」」

 その古めかしい言い回しよりも、その続きを急いで聞き返す3人。


 「やだなぁ、同じ学校に通う友って意味でしょ」

 「友?」

 「高校生なんですか?」

 「高校に通うんですか?」

 「う~ん、友とも違うか、W高さんはあんまり生徒と先生って感じ出さないからね」

 「じゃあ、ユウ様、もしかして」

 何かに気が付いたスミレは、思わず以前の様に、ユウを様付けして呼んだ。


 「来週からW高の新キャンパスに新設される声優科にメンターとして通うことになったの、よろしくね」

 「はぁ?」とボタン。

 「うっそ!」とトウカ。

 「はわわわぁ」とスミレ。

 怒りと驚きと歓喜に湧く3人。


 「高校で声優科ってありなんですか?いや絶対に専攻しますけど」

 「W高ならやりかねませんね、正直言って羨ましいです。私も早く高校生になりたい」

 「声優かぁ」

 「詳しいことは学校からアナウンスがあるとおもうから、仲良くしましょう」

 「ハイッ」

 「……」

 元気よく返事したスミレを横目で見るボタン。


 「それよりも、気になる事があるのだけども」

 「なんですかユウ様、この家のことなら私になんでも聞いて下さい」

 スミレは憧れの声優であるユウの虜だったことを思い出し、従順さをアピールする。


 「ハレちゃん、ホモじゃないわよね?」

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