第55話 ネット遠足は終わらない③

 大型の獣人型男性アバターと通常サイズの人間男性型のアバターが背中を合わせて剣を構え、襲い来るモンスターを迎え撃つ。

 「お兄ちゃん、背中は任せたよ」

 「任せろトウカっ」


 ネット遠足のレクリエーション【ドッキドキ、レベルアップは突然に】と題した、サバイバルが突然開始され、パートナーを見つける間もなく、モンスターの群れに倒されて行くW高生徒のアバター達。

 その中で、トウカのアバターとハレオのアバターは善戦していた。


 「危なかったよトウカ、お前とこのゲームをプレイしていなかったら、ネット遠足の続行が不可能だった」

 「大量のモンスターを引っ張ってきて生徒のアバターに擦り付けるMPK(モンスタープレイヤーキル)行為、通称トレインをメンター自ら行うなんて……本気で生徒数を減らしにきてますね」

 「凌ぎ切れそうか?できれば俺は遠足を完遂したい、力を貸してくれトウカ」

 「当たり前です。私はその為にここに来ました。お兄ちゃんは絶対に生き残ってもらいますよ」

 「ありがとう」

 ハレオの明るい口調に、トウカは心から喜んだ。


 大量のモンスターの群れの中で、比較的倒しやすいモンスターを選び、強いモンスターを避けた戦いは、このゲームを熟知するトウカだから出来た技術。加えてハレオもゲームに慣れている状況下、ハレオとトウカは会話する余裕があった。


 「お兄ちゃん、どうして遠足を完遂したいの?」

 「楽しいからな」

 「そっか、なら良かった。元気無いんじゃないかと心配してたんだよ皆」

 「……すまないな、ユウさんに今の俺は父親そっくりだと言われてな、まだ気持ちの整理が付かないし、人の目が怖いんだ」

 「そっか、だからオンライン授業ばかり参加してたのか」

 「ああ、人の目は怖いが、誰かと遊びたい気持ちはあったのかもしれない、アバターだが、スクールメイトとの思い出作りは大切にしたいんだ」

 「オッケー、そういうことなら速攻でレベル上げてクリアしちゃうよー」

 ハレオはやはりユウに唆されている。そしてそれは何時ものハレオの暴走、ちゃんと話が出来れば簡単に目を覚ませてあげられる。トウカは確信し己を鼓舞した。


 「このゲームもなかなか楽しいな」

 「でしょでしょ、やっぱ私と世界一目指そうよ」

 「それは……あっ、あの蜘蛛のモンスター、確か経験値沢山持ってたよな」

 ハレオは【ヘルスパイダー】と表示されているモンスターをターゲットし斬り掛かった。


 「ダメだお兄ちゃん、そいつに構うなっ」

 「へ?」

 「直ぐに剣を収めてターゲットを切るんだ」

 通常のMMORPGでは、一度戦いを挑んだモンスターからターゲットされると何方かが倒されるまで戦闘が続く。しかし勝てないと分かった場合、剣を収めて自分のターゲットを切り、背中を向けて逃げ切れば、モンスターからのターゲットも切れる仕組みだ。今プレイしているMANsも例外ではない。


 「だって、いつもコイツでレベル上げしてたじゃないか」

 「それは、レベルが高い状態のアバターだったからだよ、今はメンターにシステムを弄られて全員レベル1にされてるから絶対に倒せない、直ぐに剣を収めれば、誰かが攻撃してターゲットが移るはず、早くっ」

 「わ、分かった」


 トウカの言う通り、ゲームを知らない他生徒のアバター達がヘルスパイダーに攻撃を仕掛け始めた。

 「くっ」

 だが、一瞬の差で、ハレオへのターゲットは残り、ヘルスパイダーの攻撃は、ハレオに向け振り下ろされる。


 「トウカっ」

 その攻撃をトウカはハレオの前に出て自らのアバターで受けた。


 「トウカっなんで……」

 ハレオは体力ゲージが赤く点滅しているトウカのアバターの前で跪く。

 「なんとかミリで体力残ったみたいだけど、このモンスターの大群じゃ無理ね、私もお兄ちゃんも攻撃型のアバターだから回復させる能力なんて持ってないし」

 「そんな、そうだ、誰か、他の生徒に頼んで……」

 「皆必死で戦っているから無理かも……ゴメンね、お兄ちゃん。でも、もうちょっとでレベル上がりそうだから、一人でも倒せる最弱モンスターを探せば、きっとクリアできるよ」

 「ダメだ、お前も一緒じゃなきゃ意味が無い、俺はトウカとの遠足の思い出を残したい」

 「ありがとうお兄ちゃん、その気持ちだけで嬉しいよ……きっとスミレさんとボタンさんは上手くやっているから、合流して、話をしてあげて、2人とも心配してるからさ」

 「そんな……トウカっ」


 トウカーーーーー。

 ハレオの叫び声は、戦場、いやハレオの部屋中に木霊した。

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