第54話 ネット遠足は終わらない②
「よーし、みんな集まったかー今から遠足の注意事項説明すっから、よーく聞いておけよー」
ネット遠足に使用するゲーム「MANs」は市販されているMMORPG、ゲーム内のテキストチャットやボイスチャットも使用できるが、一般プレイヤーからの妨害を考慮し、W高が独自に開発したVR専用のコミュニケーションツールを使用。そのボイスチャットから野太いメンターの声が響く。
「まずは、1組10人のチームに分かれてもらう、基本はそのチーム内でのボイスチャットのみで進行するが、全体チャットに切り替えれば本日参加している2万人への発信も可能だ。間違えて全体チャットで恥を晒さないように注意しろよ」
参加人数1万人。ネット環境だからこそ実現できる大規模イベントはニュースにも取り上げられるほどに盛況を博す。
「現実の遠足や修学旅行では、他校との衝突や恐喝、窃盗の被害に遭う可能性もあるが、ネットの世界ではその心配は無い。しかし、アバターを使用し顔が見えない状態は、誹謗中傷を簡単に誘発する。ネット遠足は、生徒間やメンターとの交流が目的だが、そういったネットリテラシーを学ぶ機会でもある。使用しているゲーム、MANsのAIアルゴリズムによる判定で、問題のある行為や発言が発見された場合は、遠足途中でも強制退去してもらうから注意してくれ」
メンターの発言通り、白熱するネット遠足では毎回強制退去されるアバターも多い、それは一般プレイヤーも例外ではなく、同ゲーム同サーバー内でW高生徒にセンシティブ発言した一般プレイヤーが同ゲームからの永久アカウントBAN、つまり自分が育て上げたアバターで2度とゲーム出来なくなってしまう事案もあった。
「現在の時刻18時半、ゲーム時間と現実時間はリンクしている。よって只今より夕食を取るため一旦ログアウトし、19時半より各種レクリエーションを熟し22時就寝、翌朝7時よりレクリエーションを再開、12時解散だ。詳しくはメニュー画面からアイテムを選択し「遠足のしおり」を使って確認するように。では生徒諸君、青春を謳歌せよ、解散っ」
ノリの良さげなメンターの説明が終わり、スミレ、トウカ、ボタンが自室から出て来る。
「なにこれ、ネット遠足めっちゃ楽しみなんだけど、というかVRってめっちゃリアルなんだねー」
「そっか、ボタンちゃんは常時登校コースだからVRオンライン授業は初めてなんだね」
「うん、うちネット環境乏しいから、でもそのおかげでハレオくんの家に泊まれた訳だし、日を跨ぐネット遠足様様だね」
「噂には聞いていましたが、MANsフリークの者にとっては神イベント間違いなしですね、中等部も参加可能になって良かったです」
「レベルカンスト勢のトウカちゃんじゃ物足りないんじゃない?」
「そんなことないですよ、MANs初心者の生徒さんを引率できると思うと胸が躍ります」
「うふふ、トウカちゃんのアバターは黄金鎧を全身に纏った身長MAX設定の男アバターだもん、みんな平伏すこと間違いなしだからよ」
「見た目よりもステータス重視ですから、スミレさんは通常種族のヒューマン女ですよね、胸が大き目設定の」
最後の言葉は小さな声になったトウカ。
「んで、ボタンさんが小人族の女で全て最小設定」
「なんか、知らないからポチポチ押してたら、あんなんなったった。やり直す時間無かったから、もういいやって」
「私とゲームするときは何時もゲストキャラ使ってましたもんね、でもこれからはその作ったのでプレイしましょうよ。一緒に世界一を目指しましょう」
「おうよ」
「世界一って」
ノリノリの3人は、冷凍チャーハンをフライパンで炒め、冷凍餃子と作り置きしていたほうれん草のソテーを食卓に並べて待った。
「ハレオ、今日も来ないのかな」
「折角泊まりに来たのに、ハレオくんの料理も味わえないなんて、ぐすっ」
ボタンは心の底から悲嘆した。
「最近は、ユウさんが買ってくる、弁当屋さんので済ませているらしくて、あまり部屋から出てこないんですよね」
「それに私たちがハレオと話そうとすると、すぐにあの人が邪魔に入るのよね、ホント腹が立つわ」
「遠足の説明会にはハレオのアバターも居たよね?」
「はい、私が作ってあげたアバターなので間違いなくお兄ちゃんです」
「じゃあ、きっとゲーム内で話せるよね」
「そうですね、なんとしてもユウさんが居ないゲーム内で接触し、お兄ちゃんの目を覚まさせてあげましょう」
「うん、遠足も楽しみだけど、最大の目的はソレだからね」
「「「頑張りましょう」」」
3人は手を合わせた後、あまり美味しくない冷凍食品をお腹に押し込み、自室へ戻った。
「では、ただいまよりW高&W中等部合同ネット遠足を開始しますー。まず最初のレクリエーションは【ドッキドキ、レベルアップは突然に】と題しまして、2人1組で行動し襲い来るモンスターを倒して時間内にレベルを上げればクリアです。モンスターに倒されたり、時間切れになった場合は即退場となりますー。公平を期す為、全アバターレベル1、装備品もW高専用制服装備に変更しまーす」
「「「え?なにそれ、即退場ってどういうこと?」」」
メンターアバターが発した言葉に、多くの生徒アバターが疑問を投げ付ける。
「えー正直に言いまして、2万人の生徒を引率できるだけのメンターが集まりませんでした。なので前半は人数を減らす為のレクリエイションを行いますー」
「「「ふざけんなー」」」
「異論は認めませーん、現実世界同様にネット遠足も弱き者は淘汰されるのです。さぁ自らの手で勝ち取りなさい、遠足を楽しみたいのなら戦うのです」
「「「金返せー」」」
「ネット遠足はW高特有の参加自由イベントなので料金は頂いておりませーん、嫌ならやめてもいいんですよー」
メンターの突然の発表に、わーわーきゃーきゃーと騒ぎ出す生徒、俄然ヤル気を見せる生徒と二分し、始まる前から最大の盛り上がりを見せるネット遠足。
「面白くなってきましたね」
「流石W高、やることが先鋭的」
「ボタンさん、スミレさん、関心してる場合じゃないですよ、退場させられたらお兄ちゃんへの説得機会が失われます」
「そうだった、頑張らなきゃ」
「スミレさんとボタンさんは2人でペアを組んで下さい。私とのプレイでコツは掴んでいるハズですから」
「うん」
「わかった、じゃあトウカちゃんは……」
「はい、私はお兄ちゃんを見つけ出してペアを組みます。お兄ちゃんも生き残らないと意味がありませんからね」
「「任せたわよトウカちゃん」」
3人のアバターは【握手】のエモートを交わして分かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます