第53話 ネット遠足は終わらない①

 ネット遠足とは、世界最大の通信制高校を自負するW高の年次イベント。トウカがお熱のゲーム、MANsのコンテンツの1つである同ゲームのアバターを使用したMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)内で2日間かけて行われる、全国のW高キャンパスと中等部合同の一大イベントである。


 W高入学と共に配布されたVRヘッドセットを使用し、ゲーム内を探索したり、かくれんぼや鬼ごっこ等のレクリエーションを楽しみながら、生徒同士、または生徒とメンターの交流を深める目的で開催されている。


 開催したばかりの頃は、それって遠足?家に居るのに?などの批判も多かったが、WEBやコミュニケーションツールの発展、感染症対策、地方との交流など、多様性が注目され、現在では参加人数多数の為、サーバー1つ貸切って開催されることも珍しくない。


 1つだけ欠点があるとすればWi-Fi環境が整っていない家庭では参加が難しいこと。そしてボタンの家はその欠点に当て嵌まっていた。


 スミレとトウカが一緒でネット遠足の期間中なら……そう言って、ボタンの両親はハレオ宅への外泊を許可したのだった。


 ユウが来てから一週間後、ネット遠足当日。

 「第一関門突破ですねボタンさん」

 「私今、凄い感動しているわ、本当にありがとうね、スミレちゃん、トウカちゃん」

 「安心してる場合じゃないわよ、戦いはこれからなんだからね」

 「「うん」」

 リビングのソファーで優雅にくつろぐユウを見て、3人は手を重ねた。


 「まぁでも今は遠足だよ、めっちゃ楽しみだね」

 「うん、おやつは300円までって決まってるけど、誰も見てないから意味ないよね、というか今時300円って……」

 「誰も見てないからってのを想定しての金額かもしれませんよ、どっちにしても食べ過ぎは気を付けないと、ゲームしながらぽりぽり食べるのが一番太るからね」

 「そうだよー折角ハレオが健康を考えた料理作ってくれて……たのに」

 スミレの“作ってくれてるのに”は過去形に変わった。ユウが来てからハレオがキッチンに立つことは無く、代わりにユウが料理をしたり、弁当を配達サービスで頼んだりしていたのだ。


 「ハレオくんも参加するよね?遠足」

 「うん、するって言ってた。あれから登校はしてないけど、オンライン授業はずっと受けてたから」

 キッチンに立つどころか、家の階下にあるキャンパスにすら登校していないハレオをボタンは心配していた。

 同じ屋根の下に居るスミレとトウカとは目を合わせれば普通に会話しているが、ハレオに以前の明るさは無く、偶に何か言いたげな表情をするが、ユウの視線に怯え口を噤んだ。


 「そっか、じゃあ遠足でちゃんと話できるかもね」

 「ええ、流石に学校のイベントにまでは入ってこれないから邪魔は出来ない」

 「ほんっと酷い人だよね、ハレオに一体何を吹き込んだのかしら」

 「あっそろそろログイン時間だ」

 「「じゃあ、ゲーム内で」」

 スミレとトウカは自分の部屋に戻り、VRヘッドセットを装着。


 「ここが私の部屋かぁ」

 リビングにあったソファーの1つとローテーブルだけで、他には何もない部屋に入ったボタンは喜びに浸りながら持参したVRヘッドセットを装着しゲームを起動した。

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