第40話 声優少女は眠れない①

 「良かったなスミレ、泊まっていいってさ」

 通話を終了したハレオは、やれやれといった表情でスマホを置いた。

 通話終了を映し出す画面には、スミレの実家の電話番号。


 「えっ嘘、どうして、どうやったの?」

 スミレは、驚きを隠せない。

 ハレオは会話を聞かれない様に少し離れた場所で電話していた為、内容は分からない。だが、あの体育会系の両親が僅か5分足らずで自分の娘を同級生の、しかも男友達の家に泊まっていいと許可するなんて、有り得ないのだ。


 「いや、正直に話しただけだよ」

 「うっそだ~怒られたでしょ?」

 「まぁ最初はなんか不機嫌な感じだったけど」

 「あ、相手は、お母さんかな、お母さんならなんとか理解してくれるかも」

 「お父さんだったぞ」

 「いやいやいや、キレたら無言でカーフキックしてくる人だよ?」

 「それは……まさかお前の足の怪我って」

 「流石に私にはしないわよ、兄と弟はしょっちゅう食らってるけど」

 「ふ~ん、電話越しだったけど優しい感じだったよ」

 「嘘でしょ、何?お金?お金の話したの?」

 「はぁお前の親は金で娘を売るのかよ」

 「……常、お金より大事な物がある、裕福じゃなくても努力と根性でなんとかなるって教育されてきたわ」


 「スミレさん、お兄ちゃんにお金なんて無いから。そのくせ私のお母さんの融資を断り続けているんだから、その内家賃払えなくなって、この家からも追い出されるわよ」

 ハレオの宝くじ当選金が500万だと思い込んでいるトウカは、呆れ顔で言った。


 「そ、そうよね、ごめんなさい、でもホントにどうやって説得したの?」

 「いや、だから正直に、娘さんの友達の晴間晴雄です。喧嘩の件で電話しましたって、そんで天気も天気だし、明日、落ち着いたら必ず一緒に謝りに行きますと……」

 「ホントにぃ~信じられない、あれかな、バカ正直過ぎるハレオに、気を許したのかな」

 「さぁどうだろうな……」

 ハレオは、それ以上話さなかった。

 怪我の事、声優の事、喧嘩の事、スミレの学校での行い、ハレオ自身がスミレにどれだけ助けられているか、それらを短く丁寧に話した。おそらく、それらも外泊の許可を得る助けにはなっただろう、しかし、決定打となった言葉は、会話の一番最初に有った。


 「晴間?晴間舘雄さんの?」スミレの父親は、ハレオにそう確認を取った後、親しげに会話を進め「娘を宜しくな、だが、粗相があったら容赦はしないぞ」と、言い残し会話を終えたのだった。

 

 「はえ~ハレオってもしかして、説得上手なのかな、凄いね。とにかくありがとね、後でお母さんにはLINEしとくよ。ホントよかった~」

 「良かったな、でも明日はちゃんと謝りに行くんだぞ、俺も一緒に付いてくからさ」

 「うん」

 「良かったねスミレさん、あ~これでボタンさんが泊まってくれれば徹夜でゲーム三昧だったのにな~」

 「ボタンは嘘付いて泊りに来やがったからな~自業自得だ。というか夜更かしは美容の敵だって言ってるだろ、今日も早く寝るぞ、さっさと風呂入れ」

 「「えー」」


 トウカは最後まで抵抗するも、ハレオに頭の上がらなくなったスミレは素直に応じてシャワーを済ませた。

 何も持たずに来たスミレは、着替えも勿論無い、トウカの衣類では小さ過ぎるので、仕方なくダボダボのハレオの衣類を借りて、以前ボタンが泊まった部屋で就寝につくことになった。



 だが、スミレは眠れない。

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