第39話 声優女子は帰りたくない③

 「私は、貴方の事が、好き……この世界中の誰よりも、好き……例え、誰に邪魔をされようと、どんな困難が襲ってこようと、どんな敵が立ち塞がっても、好き……」

 「て、敵って、スミレさん?」

 突然の告白を前に、ハレオは顔を真っ赤にして抵抗する。

 しかし、スミレは怯むことなく、眉を顰め人差し指を自らの口にあて「静かに」と合図を送った。


 「貴方は知らない、私がどんなに貴方を想っているか、貴方は知らない、私がどんなに貴方を支えているか……でも、それでもいいの……」

 「……」

 聞き入っていたトウカが口に手を当て涙ぐんだ。


 「貴方がどんなに男を好きになろうとも、貴方がどんなに寝取られようとも、私は貴方が好き……だから、お願い……」

 「えっ?ちょっと、何、寝っ……むぐっ」

 喋り出すハレオの口を、トウカは必死で塞いだ。


 「どうか、私と共に夢を追い、快楽に屈し、お金で死んで下さい、私と貴方は遠い昔から、そうある運命……抗えぬ運命……」

 「ぐすん……」

 必死にハレオの口を抑えるトウカは、涙した。


 「さぁ行きましょう、もう、後悔など致しません、たとえ死が二人を分とうと……逝きましょう、どこまでも付いて行きます。この身が滅びようと……私は、貴方が好きだから……」


 「ぶはっ」

 パチパチパチパチ。

 ハレオの口を塞いでいた手を離すと同時に、渾身の拍手を送るトウカ。


 「すごいわスミレさん、完璧じゃないですか」

 「ふふふふ、でしょう」

 「でしょうじゃないよ、なんだよコレ、なんの告白だよ」

 「知らないの?お兄ちゃん、アニメ「BL戦隊ボーイズローダー」の最終回で、唯一の女キャラが放った会心の告白よ、キャラ名も無く完全にモブキャラだと思われていたのに、最後の最後で、あんな告白したもんだから、最初は避難轟々だったけど、時間が経過するにつれて伝説となった名台詞よ」

 「知らないよ、それに、なんだよローダーって、確か補充機って意味じゃなかったか?男補填機ってどんな戦隊モノだよ」

 「感動どころ間違えてるわよ、お兄ちゃん。スミレさんがカンペも見ずに、一言一句正確に、真剣に、まるで愛の告白の様に言い放った事、それを褒め称えるべきでしょ」

 「いや、感動してないし、褒めないよ……いや、褒めるか、確かに迫真の演技、そして抑揚の付いた綺麗な声、内容はアレだが、確かにドキドキはした、うん、凄いと思う」

 「ほんとぉ、やったー、私、声優さんになれるかな」

 「それは……うん、頑張れっ」

 今からスミレの両親に謝りに行くつもりのハレオは、少し言葉を濁す。


 「じゃあ、食休みも済んだし、出掛けようか」

 「でも、お兄ちゃん、外めっちゃ雨降ってるよ」


 ゴロゴロゴロー。


 「春雷ってやつね、この雨音だと、雹降るかも、ハレオ、残念だけど、私、泊まるしかないみたい」

 「ふ~、まいったな……」


 なんだかんだドキドキが止まないハレオは、大きく溜息を付き冷静さを装う、そして、スマホを手に取り、スミレに実家の電話番号を聞いた。

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