第32話 男の子は男の娘らない②

 「いつからなんだ?」

 ハレオは、優しく問い質す。

 「中学になって、引っ越しがあって、ハレくん達と分かれて、なんか他の人と違うなって……」

 ナリヤスは、そう答えると、座っているベンチから地面を見つめ、靴でなぞった。

 その顔には期待と不安が入り混じる。 


 「そうか、大変だったな」

 「……ハレくんは、そういうの、おかしいと思わないの?」

 「思わないさ、色んな人がいるからな」


 父親のハーレムでの経験は、ハレオの価値観を変えるのには十分だった。

 ヒステリックに陥った女性を宥める為に、ゆっくり話を聞いてあげることも、その話を否定しないことも、そして、お金を使うということも。

 

 「ホントに?僕は自分のことを男の子だと思っていないんだよ」

 「そんなの今時珍しくもなんともないぞ、気にするな」

 「でもさ、親も、兄弟も、中学の友達も、みんな変だって言うんだよ?」

 「そんなの親でも兄弟でも友達でもなんでもない……って言ったら大変なことになりそうだから、ゆっくり理解してもらうしかないんじゃないか」

 「ゆっくりって、どれくらい?」

 「それは、互いの理解度によるんじゃないのかな、認めて欲しいのなら努力するしか方法はないと思うけど」

 「努力か、やっぱりそうだよね」

 「なんだ、何か思ってることがありそうだな」

 「あるよ、だからW高に転入してきたんだ」

 「聞かせてもらおうか」

 「なんで偉そうなのさ」

 「なんとなく」

 「ぷっ、ふふ、なにそれっ」

 短い会話だったが、ナリヤスの顔からは不安が消えていた。


 別に誰かに認められたい訳じゃない、ただ聞いて欲しかった。親も兄弟も友達も、腫れ物にでも触る様に接し、まともに取り合ってくれない。だから、1人で解決しようと考えていた。W高に通い、学費を抑え、自由な時間で働き、お金を貯める。


 まずは、そこがスタート地点。ナリヤスは強い意志で自分の性と向き合うことを決めていた。

 

 「相変わらず優しいよね、ハレくん、モテるでしょ?」

 「全然、全然、つーかモテたくないし」

 口をへの字に曲げて、右手を左右に振りながらハレオは否定する。


 「なんでさ、ボタンちゃんと付き合ってるんでしょ?」

 「はぁ、なんだよそれ、そういえばナリヤス怒鳴ってたよな、高校生の男女が泊まるだの泊まらないだの。ボタンはただの友達だぞ、ナリヤスも一緒だった頃から何も変わらない、親の居ない俺の家を好き勝手使って、ワーワーやる仲だろ」

 

 「それってさぁ、そう思ってるのハレくんだけだと思うよ」

 「えっ、なんか言った?」

 ナリヤスは、わざと聞こえないくらいの小声で言った。


 1人だけで自分の性と向き合い、それを解決する。

 そんなナリヤスの強い意志を変えるのに、ハレオとの再会は十分な理由となった。


 「ねぇハレくん、また僕と友達になってくれるかな」

 「もちろんだ、願ってもない」

 ハレオは立ち上がり、ナリヤスの手を取り喜んだ。

 

 その言葉に偽りは無い。

 ナリヤスが加われば、男が2人になる、それが男の娘であっても、その事実に変わりは無い、つまりハーレムでなくなるという事実。もちろんそれだけでなく、旧友との友情を育むことにも繋がる。ハレオは本心から喜んでいた。


 「僕も嬉しいよ……」 

 ナリヤスは顔を赤らめて言った。

 少しだけ、ハレオに頼ってみようかな……。そう心に想って。



 同時刻、公園の木陰。

 ハレオとナリヤスの会話を盗み聞きしていた人物は、顎に手をあてコクコクと頷く。


 「ふむふむ、良いテーマだ。楽しい授業が出来そうだな晴間」

 金田は1人ほくそ笑む。

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