彼女を愛した勇者 君が全てだった
君の存在が僕の全てだった。大袈裟だ無く、本当に。彼女がいなければ、僕は死んでいるほどに。
彼女と僕の両親は、仲が良く僕たちも生まれた時から一緒だった。
闇より深く絹のように柔らかい黒髪、宝石のように輝く黒目。人見知りしない性格で太陽のようによく笑う。
何時だって彼女が僕の全てで。彼女が居る場所が、僕の世界だった。
魔族によって僕たちの両親が死んだのは、四歳の時。幸いに僕たちは彼女の祖父母の所に居たので助かった。この時、彼女の大切な両親を奪っていった魔族が憎くなった。
僕たちは施設に入った。彼女の祖父母にお世話になることも考えたがそれは、彼女だけで僕は駄目。彼女は、僕と離れたくないと駄々をこねて一緒に施設に入ってくれた。そのことが、僕はとっても嬉しかった。
施設には、僕たちみたいに魔族によって親を失った子供たちが多い。最初は、彼女意外と仲良くなるつもりはなかったが、彼女が他の子供と仲良くなっていくので争いを避けるために僕もそれに直った。余計なことをして彼女に嫌われるのは、嫌だ。
彼女の家になりつつあった場所が突然無くなったのは、八歳の時。この時僕たちは、隣町の学校に居たので助かった。が、施設にいた者たちは残酷に死んだ。
彼女は、泣いた。悲しみに明け暮れしばらく寝込んだ。
魔族は憎い。彼女の大切な者をことごとく奪っていく。
だから、決めた。強くなると。彼女を守れるほどの、頭脳、武力を手にするんだ。幸いにも僕には、才能があるみたいで、次々と学んだことを吸収していった。
十五歳になると神殿で神力検査が行われた。
僕は、人より神力があるみたいで勇者に祭り上げられた。そんなものに興味ないので断った。勇者になったら、彼女と離れないといけない。そんなこと耐えられない。
その後、毎日のように説得に来るので勇者になってあげることにした。
勇者になって魔王を殺せば、魔族はいなくなる。そうすれば彼女から大切なものを奪う憎いものはいなくなる。そう考えたから。
でも、何の条件も出さないわけではない。「討伐後、彼女と静かに暮らせる屋敷と十分に暮らしていける金銭、地位」を要求した。
王都に出てから、僕と彼女だけの生活が始まった。あいつらは神殿で暮らして欲しかったみたいだが、あんな邪心だらけの奴らに僕の彼女を近づけたくない。
まるで、新婚生活みたいで幸せだった。たとえ、神力の扱いを学ぶために毎日神殿に赴かなければならないが、彼女が笑顔で
「行ってらっしゃい。頑張ってね」
と、言ってくれればそんなこと苦ではない。
ただ、彼女と離れている間彼女に醜い男どもが近寄って来るのが気がかりだ。彼女は美人だ。彼女は、否定して僕の方が顔が整っていると言って、周りの好意には鈍いが施設にいた頃から施設以外の異性が彼女を常に好意的な視線を向けていた。それが目障りで、彼女が知らないうちに僕の存在を見せつけていたが。だから、訓練が終ると、すぐに彼女の待つ家に帰った。神殿に行くと、討伐に同行すると言う王女と魔法師の男が周りをうろつくが全て無視。
神殿で三か月訓練を受けて魔王討伐に出た。同行者は、治癒師の王女、魔法師の男、神官二人の四人。僕は、さっさ魔王の所に行って速く倒して彼女の所に帰りたいのだが、それを許してくれないかのように亀並みの進行。途中、魔族の出た村で村人の心を癒してあげたり、魔族を倒したり、意味のないことばかり。
それだけではない、ずっとべたべたしてくる王女が一番邪魔だった。あからさまな色目を使ってくるから何度殺してやろうと思ったか。ここには彼女が居ないから、何をしても問題はない。彼女が居れば、それを知られたくなくて大人しく問題は最初限に抑えていた。僕が、我慢していることを察した神官どもが間に入ってくれたが、殺したい気持ちが消えることはない。後、魔法師もうざい。いつも、へらへらして僕の神経を逆なでしてくることばかりしてくる。なによりもこの男は、僕とあの女《
王女》が、お似合いだとほざく。僕には、彼女がいるのに。
そんな、苦行を五年も耐えた。彼女に会えない時間は、狂ってしまいそうなほど長かった。が、それも終わる。やっと、魔王がいる城まで来た。魔界は、思っていたよりも普通で、人間と何も変わらないように見えた。
魔王の住まう城は、誰もいない。不気味なほど静かで、まるで僕を待っていたかのようだ。
広いので、魔法師の提案で二手に分かれることにした。僕と魔法師、王女と神官二人で魔王を探す。
途中、王女の怒鳴り声が聞こえた。王女の声が聞こえた部屋からは、魔族のみが持つ巨大な魔力の気配。魔王がここにいる。
やっと、だ。自然に、笑みが零れる。
ドアを開く
「何してるの、魔王にはもう
シャオ?」
幻でも見ているのだろうか。何で、彼女か、ここにいるのだろうか。
記憶にある五年前の彼女より、成長してより一層綺麗になった彼女。赤の衣に黒のスカート、黒の帯には金色の刺繍。簡素なハンフだが、見ただけでそれが一級品だと分かる。シルクのような黒い髪は後ろで結ばれていて、それが大人っぽく見せる。深淵のような瞳からは今にも零れそうな涙がたまっている。彼女も驚いている。
これは、魔王が見せている幻。それでも、叶わない。少しだけ、この幸福に浸らせて。そのあと、壊すから。
幻の彼女は、僕も方に来る。僕も彼女の元に走る。もう少しで、触れる。
ドサッ
身体が、崩れ落ちる。
腹部が熱くていたい
彼女が僕を、見下ろす。彼女から、ぽろぽろと、涙が溢れる。
力の出ない腕を上げ、彼女の頬をさすってあげる
触れる、温かいな
泣かないで、僕の
笑って、笑顔が見たい
、あいしてる。いつも、ずっと
は?ぼくを、あいしてる?
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