第3話 君に恋をした
ルイジェとユエンは私が仕事をしている間、リノラースさんが用意てくれた客室にいる。
そこで、リノラースさんが魔力のルイジェが神力の扱い方を教えている。そして、文字や教養と言った一般的なことも。ユエンは嫌と言わず、楽しそうに教わっている。
ユエンは私に、食事、入浴、寝るとき、お茶の時間ともにしている。その時何をして、どうだったか教えてくれる。
穏やかな日々、それが意図も簡単に壊れることなんて嫌というほど身に染みている。
この日だってそうだ。
昼下がりユエンとルイジェと庭で散歩をしていた。
太陽の光一杯に浴びた色とりどりに咲き誇った花々がある庭はユエンのお気に入りの場所。
そこへ臣下が焦った様子でこちらに来た。臣下は、ユエンとルイジェを見て戸惑ったが意を決して言った。
「魔物が人間界に降り殺戮をおこなっています」
と。
頭が真っ白になった。
だって、ルイジェが来た日に結界を強力に張り直した。魔物ごときに破られるはずがない代物。なのに目の前の臣下は、魔物が人間界に降りたと言った。
「ユエン、仕事行かないといけなくなった。ルイジェ、ユエンを頼む」
ユエンは寂しそうに、ルイジェはすぐに状況を把握できたようでユエンを手を握って頷いた。
急いでリノラースさんのいる執務室に向かう。
執務室ではすでにリノラースさんが臣下たちに指示を出していた。彼も予想していない事態に酷く焦っていた。私が来たことに気が付いきこちらに来る。
「結界の一部が壊されたようで、そこから魔物が人間界に出ました。人間界に出た魔物は今討伐するように軍に指示いたしました。」
「それは、駄目ですよ」
言ったのは、ユエンの面倒を見るように頼んだはずのルイジェだった。ユエンはいない。
「盟約があるでしょう。人間にとって魔族も魔物も一緒です。人間界のことは、人間でどうにかします」
「じゃあどうするの?」
ルイジェの言うことは正しい。けど、人間が魔物に敵うはずがない。
「僕が行きます。僕、勇者ですよ、強いんです。」
胸を張って言うルイジェ。
彼の言う通り、勇者だ。その実力は確かだろう。けど、何でだろう不安で仕方がない。ここで行かせてしまえば、もう会えなくなるようなそんな予感がする。
「私も一緒に行く」
「駄目です。陛下がここを離れては誰が魔界を守るのですか」
否を出したのは、リノラースさんだった。ルイジェも頷いている。
「勇者と魔王が行けばすぐに事態は収まる。その間、魔界とユエンのことお願いリノラースさん」
じっと彼らを見る。駄目と言われようとも着いていくけど
暫くするとリノラースさんがため息をついた。
「分かりました。だたし無茶はしないでください。危険なことはせずに全部ルイジェに任せてください。怪我をしないで、無事に戻ってきてください。ユエンと待っていますから」
「ちょっ、リノラースさん!」
私をルイジェと共に行くことに渋々賛成したリノラースさんに抗議しようとしたルイジェ
「なんと言われようとも一緒に行くから」
そう言うと、何度か口を開けては閉じてを繰り返し、
「あーもう」
と言うと、頭を掻きむしった。そして、
「分かった。でも、ちゃんとリノラースさんの言うことは守ってね。僕が君を守るから」
守る、か。その言葉にむず痒くなり、ぽっかり空いた心が温かく感じた。
その後、すぐに魔物が出現した人間界に向かった。
魔物に襲われた村は、酷い有様だった。無残に食い殺された人間だった死体。壊された建物。死体に群がる、害獣。
ルイジェ曰く、この村は魔界に接しているの中でも最も活気溢れたところだという。彼も、この村に訪れたことがあると言っていた。
そういえば、こんな感じだったな。お父さんと、お母さんが死んでいた場所は。
大人子供、性別関係なく皆殺された。人だった形も分からないほど惨かった。泣きわめく私に対して、彼はじっとその光景を目に焼き付けていた。
「大丈夫?」
ルイジェが私の顔を覗き込んで言った。
頷く。
「こんな時なんだけど、名前教えて。へいか、とか君、とかって呼びたくない。不便でしょ、名前を呼ばないって。」
尤もらしい言い訳。
けど、何でだろう嫌だ、教えたくないって思わないのは
久しぶりに人間界に来たから?
無残に散らかされた死体を見たから?
そんなことも思わないただ反射的に口が開いた
「 シャオ 」
「シャオ、…シャオにぴったりな可愛い名前だね」
眩しいほどの大輪の笑顔を向けるルイジェ
彼も言っていた。
小さい女の子に付けるあだ名みたいな名前が嫌だと言ったら彼は、
「シャオって届けるっていう意味もあるんだよ。シャオはぼくに色んなものを届けてくれるんだよ」
と、言ってくれた。それが嬉しくって、この名前が好きになった。
この名前が私と彼をつなげる最後のもの
それをルイジェに教えて、名前で呼ばれても嫌悪はおきなかった。むしろ嬉しかった。
「早く行こ、ルイジェ」
「うん、シャオ」
魔物の大群はすぐに見つかった。
そしてあっさりと、討伐は終わった。
戦いを知らなかったがさすが勇者というべきかほとんどルイジェが倒していった。
しかし、どうしようもない不安は無くならない。
長い間魔界を留守にするわけにもいかないので、すぐに戻った。そして、待っていたのはさらに酷い事態だった。
「人間界各地で魔物による被害が出ています。大老たちに討伐に行かせましたが、かなりの数に手が負えません」
なんで?
おかしい、人間界に行く前に結界の補強をしてほつれが無いことを確認した。不備はなかった。誰かが、意図的に壊さない限り。それでも、壊れればすぐに分かる。私に気づかれづにこんな事できるものはいない。
「リノラースは?」
報告しに来た臣下に問う。
彼の姿が見えない。
「卿も討伐に行きました」
それほど深刻なことが分かる。
「じゃあ今誰がいるの?」
「私が残りました、陛下。ユエン様は大人しい子供ですね。陛下がいない間静かに帰りをお待ちしていましたよ。」
気持ちの悪いねっとりとした声。蛇のようなこちらを舐め回すような視線。大老の一人だ。
ユエンは彼に抱きかかえられており、嫌がって必死に逃げようとしている。
「ユエンを離して」
睨みつけて言うと、素直に離す。
ユエンは、彼から逃げるように私の方まで来てしがみ付いた。普通の子供らしくなったユエンを抱き上げる。すると、首に顔をうずめた。ユエンがここまで誰かを怖がるなんて今までなかった。何かされたのか。
「あなたも、討伐に行きなさい。」
はやく彼を追い出したくて言う。
「いいえ、私はここで陛下を守ります。大老が一人は残らないといけないでしょう?」
何を言っているの。それはリノラースさんがすればいい。
「必要ないですよ。陛下は僕が守りますから。あなたは、速く行ってください」
初めて見るルイジェの殺気。口角は上がり笑っているのに目が笑っていない。
「人間の貴様には関係ないだろう。貴様はさっさと人間界戻れ」
私と違う態度。
「彼は私の客よ。無礼な態度はやめて」
「申し訳ありません、しかしこんな状況です彼には人間界に帰ってもらった方がいいです」
「それは私が決める」
そう言うと、納得してませんというように渋々頷いた。
コンコン
ドアをノックする音が聞こえたので、入るよう言う。
入った来た臣下は一礼し報告をする。
「先ほど、リノラース卿より連絡が来ました。人間界で魔王陛下を討伐する声が高まっており、公開処刑を行おうとしていると。現勇者は魔王陛下の手下となった裏切り者、新たな勇者を立てようとしている。しかし、勇者の適正の者がいないため保留となっている、とのことです」
ここまで被害が出たのだ、そうなることは私の討伐が出ることは予想でいた。しかしまさか、ルイジェが裏切り者となってしまったとは
「良かったですね、陛下の脅威はこちらにいる。陛下を殺せるものは人間にいない。」
勘に触る言い方。嫌い
「ルイジェ大丈夫?ごめん、裏切り者にさせた」
「大丈夫だよ」
以外にもルイジェは気にしていない様子だ。
「此処にとどまることを選んだのは僕、気にしないで。そんなことより、今この状況をどうにかしないと。絶対に処刑何てさせないから。」
「貴方はリノラースと変わって討伐に行って。」
「なぜです。あいつより私の方が貴女の傍にふさわしい。」
なんで素直に行ってくれないの。めんどくさい
「これは命令よ」
そう言うと渋々出て行った。
リノラースさんは一週間しないうちに戻って来た。
見る限り怪我がないので安心する。
帰って来たリノラースさんが言うには、人間界各地にて突然現れた魔物は魔族にとって手に負えない相手ではない。しかし、数が多いため苦戦しているという。しかも人間にばれないように、守りながらの討伐のため本来の力も出せづにいる。
人間界では、魔族の魔王の滅亡を望む声が高鳴っている。
「魔物をこれ以上人間を襲わせないようにしないといけない。私も行く」
それが一番いい
「やだ、やだやだやだや!」
隣の部屋にいたはずのユエンが、ドアの所に居て言った。
「へーか、いっちゃいや。ぼくと、いっしょにいて。リノラースも、ルイジェも、ぼくを一人にしないで」
ぽろぽろと、大粒の涙を流しながら訴えるユエン。
ユエンが泣いている姿は胸を締め付ける。でも、ごめん。この状況をどうにかしないと、あの平凡だった日常は来ないの。その為に行かないと
あぁ、彼もこんな気持ちだったのかな
いっしょにいたい。けど、目の前の問題を解決しないと幸せは来ない。そのためなら、少し我慢するしかない。
ごめん、ごめんね
何度もそうやって、心の中で謝っていたのかな
「ごめんね、すぐに戻ってくる。それまでいい子で待っていて」
ユエンの側まで行ってしゃがみこんで言う。
ユエンのお気に入りのくまのヌイグルミに魔力を込める。誰かに任せるのは嫌だからこれに、ユエンを見てもらう。何かあればすぐに駆け付けられるように移動陣を張って、結界も
それを泣きじゃくるユエンに渡す
「好きだよ、ユエン」
ちゃんと笑えているかな、ずっと笑っていなかったから不安。全て片付いたら笑う練習しないと。ルイジェに教えてもらおう
人間界はルイジェと行った村より魔物の被害が少ないとはいえ混沌としていた。
人々は魔物を恐れ外に出ていない。
「ルイジェ、様?」
可愛らしく、戸惑った女の声。
声がした方には、人間の女が四人のお供を連れていた。魔物との戦いにより、ぼろぼろだが質の良い服、整えられた髪を見る限り身分の高い人間だ。
この人間たちは、ルイジェのことを知っている。
気づかれないように警戒する。
「こちらで何をなさっているのです?それより、今までどこで、何をなさっていましたの?あの噂は嘘ですよね」
女は、ルイジェに近寄り矢継ぎ早に問い詰める。
「姫様こそ、ここで何を?姫様が治癒師でもここは危ないですよ」
姫様、この女は王族か
女の質問を無視しいつも通りのルイジェ。
「私は、王女です。傷ついた民を癒さないといけません。いえ、今私のことはいいのです。貴方からあんな荒唐無稽の手紙が届いてどれだけ驚いたかと。帰還するよう言っても返事は帰ってきませんでしたし」
それを聞いて驚く。ルイジェは気にする様子もなくいつも通り能天気な笑顔でいる。
「あら?そちらのお方は?」
女が私に気づいた。
因みにリノラースさんは今、この辺を散策に行っていない。
「僕の大切な人だよ」
恥じらうこともなく言った。
頬に熱が集中して熱い。なに変なことを言うの。女が聞きたいのはそういうことではないだろう。突っ込む気も無いので黙っているが。
「まあ、そういう方がいらしましたの。でも、どうして魔力の気配がしますの?」
ただの温室育ちのお嬢様じゃないらしい。
「そんなのする?」
ルイジェは戸惑た様子だ。しかし、それを出さないように平常心を保っているみたいだけど。
「私も王族です。分かりますわ。魔族、ですわね。やっぱり、噂は本当でしたのね。ルイジェ様は私たちを裏切って魔族についた。いいえ、魔王に操られている。魔王は、人間を滅ぼすために勇者を使っている、今人間界に起こっていることはその前兆。ルイジェ様目を覚ましてくださいまし。魔族は人間の敵、滅ぼすべき悪です」
噂は所詮噂。魔王が勇者を使って人間界を滅ぼそうとしているなんて嘘。ルイジェが魔界に留まったのは、彼自身の意思だ。
言いたい者には、言わせておけばいい。聞く耳も持たないのだから、何を言ったところで無意味だろう。
「違うっ!」
ルイジェが叫んだ。珍しい光景に驚く。
なんで彼が辛そうにしているの。人間たちにとってルイジェは被害者でしょう?
「魔族は敵じゃない、悪でもない。決めつけるな。人間にとって魔族が悪なら、魔族にとって人間も悪なんだ。何も知らないのに、知りもしないのに決めつけるな。魔族にだって、守るべき者がいる場所がある。それを守るために戦うのはいけないことなのかよ。魔王陛下は、魔族も人間も平等に見ている素晴らしい方。彼女を傷つけることは僕が絶対に許せない」
ルイジェが隠す様子もなく殺気を人間たちに向ける。
一番それを直に当たった女は今にも倒れそうに震えている。
「行こう」
ルイジェはそう言うと私の手を取って人間たちに背を向けて歩きだした。
怒っているようで無言だ。いつもうるさいくらい話しているから調子が狂う。
「いいの?ルイジェはあっちに戻るべきだった。」
そうすれば、人間と対立せずにすんだのに。
「いいの。僕はね、シャオの手を離さないって決めたんだから」
自分の感情を隠さず好意が伝わる笑顔。
眩しいのに目を逸らせない
「なんで?私は、魔王だよ。」
「関係ないよ。魔王だとしても、シャオは大切な者はとことん大切にする情が深い女の子だよ。」
ルイジェはシャオという者を見ている。魔王ではなく。私が自分を見せないようにしていたのに彼はそれをいとも簡単に見つけ出して自然にさらけ出させる。それが、不快だと思わない。不思議な人間。
「僕ね、シャオといるとドキドキするんだ。胸がときめいて、一緒にいたいと思う。離れたくない。この気持ちはユエンやリノラースさんとは違うんだ。…そうか、こいだよ。僕は、シャオに恋しているんだ。」
恋。
「分からない。私は、ルイジェのこと多分好き。でも、これが恋なのか分からない。」
そう言うと、ルイジェはポカンとしていた。
何かおかしなことを言ったかな。
「ごめん。シャオが答えを返してくれるとは思わなくて。いいよ、それで。でも、知っていて、僕はシャオのこと愛おしいほど大好きだよ」
太陽のように眩しい笑顔。
彼とは違う、笑顔。
彼とは正反対なのに彼と同じで、落ち着く、ドキドキする、胸がざわついて落ち着かない。なにより、離れたくない。きっと、これが答えなのだろう。
まだこの気持ちを言うつもりはない。今の問題が解決したら、その後ルイジェの出す答えを待って伝えるか決めよう。
連日、魔物退治をしているのにも関わらずその数は減らない。それよりも、まるで知能が与えられたかのように統率を持って動いている。だから、より一層倒すのに時間がかかり始めた。
この魔物出現には裏で魔物を操っている者がいる、そう検討つければすべて辻褄が合う。結界が気づかない間に穴が開いていたことも、魔物がそこから漏れ出したことも。
それを、誰が、どんな目的でやったのか
黒幕を見つけ出して殺せば、魔物退治のみ。後は、どうにかなる。
私たちは、私の生まれた国にいる。ここは元々リノラースさんが討伐担当していた地域。今は部下に任せていると言っていた。
此処も他の国同様魔物に恐れて人間は避難しており静かだった。でも何でだろう、違和感がある。
王城に向かった。静かすぎる王都から逃げた人間がいると思って様子を見るために。
こっそり忍び込んだがその必要も無かったようで王城も静かだった。
おかしい、何で人がいないの?
リノラースさんとルイジェもおかしいと思ったようで警戒を強める。
そのまま普段だったら夜会などが行われる、広間に来た。そこの高いところに位置する玉座、そこに影がある。
「もう、来たんですか」
どこか嘲笑するような言い方。魔物と戦っている様子もない綺麗な身振り。玉座に我が物顔で座る男。リノラースさんを討伐に行かせて、ユエンを怖がらせた気味の悪い魔界の大老の一人。
彼がここで何をしている?
「何をしている、アモン」
リノラースさんが睨みつける。
「さすが陛下の腰巾着、一緒に来たのか。お前は帰れよ、邪魔」
しっしと手を振る。
人どころか魔物もいない王都。
疲労している様子のない奴。
こいつだ、全ての元凶は
魔力で刃を作り奴に向かって飛ばす。
「危ないじゃないですか、陛下」
殺すつもりで投げたそれは簡単に避けられる。ニコニコと気色悪い笑顔をして、
「こいつ、なの?」
ルイジェが聞く。それに対し頷いた。
「私の結界を壊したのも、
魔物を操っているのも、
人間を殺しているのも、」
「ええ、彼らに魔王討伐をそそのかし勇者は裏切ったと言ったの、私です。陛下の結界を気づかれないように壊すのは大変でした。かなりの時間が掛かりましたよ。そうそう、忘れていました。前勇者、ジャイル、でしたっけ。彼を殺すように魔法士を唆したのは、この私です」
胸に手を当てて、誇らしげに言う。嗤いながら
本当にすべての元凶だった。
奴のせいで彼がいなくなった。
怒りで視界が真っ赤に染まる。
殺す、
こいつだけは許さない。
ルイジェの腰から剣を抜き取って奴に向かった。
「ああ、こんなことをした理由ですか?」
聞きもしないのに話し出す。魔力で強化している私の攻撃を避けながら。
「決まっているじゃないですか。アンタを、魔王の座から引き下ろすためだよ」
急に冷たい目をして私を押した。
バランスを崩して倒れる私を奴は見下ろす。そこにはいつも浮かべている気色悪い笑みはない。
「急に現れて人間の小娘が魔王とか誰が認めるかよ。他の奴らはお前の魔力に惹かれたみたいだけど私は違う。ずっと魔王になるために努力してきたのになんなんだよ。私の場所奪いやがって」
あの笑みの裏ではずっと私のこと恨んでたのか
でもきっとあの日、認めないても私はどんな手を使ってでも魔王になっていただろう。今もこの地位を他の誰かに譲るつもりはない
私にはやらなくてはいけないことも、やりたいこともあるから
それに、どんな理由があるとしても奴が彼を奪った事実は変わらない。
「歴代魔王の中でも強い、それは認めるよ。でも、それ振り回しているだけで当たるわけないだろ。弱いんだよ、お前。そうだよな、ずっと城に引きこもっているから戦闘を経験したことないもんな」
嘲笑う。
奴は私から剣を奪い取るをそれを私に向かっておろした。が、それは私に当たることはなく刃が砕けた。
「駄目だよ。君の敵は彼女だけじゃない。忘れてない?僕たちのこと」
ルイジェが奴を睨みつけて言った。怒ってる、いつもの優しい笑顔が消えているのを見て思った。
リノラースさんも、敵意をむき出しにして奴を睨みつけている。
「面倒くさいな、大人しく殺されるのを見とけよ」
苛立ち気味に言う。
「陛下、彼は私が始末します。貴方が手を下すような相手ではありません」
リノラースさんが私を立たせてそう言った。
「僕も手助けします」
ルイジェが申し出るも、リノラースさんは首を横に振る。
「勇者の力はいりません。これは魔界の問題です。彼がこんな行動を起こす前に気づくべきだったんです。もっと誰もが納得できる場で陛下を紹介するべきでした。この事態を引き起こしたのは私です。だから、私が後始末を付けます。」
「駄目、そいつはジャイルの仇なの。それにリノラースさんの問題じゃない」
嫌、一人で何て戦わせたくない
「はっ、甘く見られたものだな。リノラース、魔王の腰巾着ごときに私が倒せるとも?」
「何を言っている?アモン、貴様の方が格下だろう。貴様ごとき造作もない」
煽る様に余裕を見せるリノラースさん。彼の挑発を受けて怒りで奴は顔を赤く染める。
「ルイジェ、陛下を安全なところに連れていってください」
その頼みにルイジェは頷き私の腕を掴むと彼らから離れるために歩き出す。
「いや、私はもう誰も傷ついて欲しくないの。お願い、リノラースさんを止めないと」
「それで?君が奴と戦うの?無理だよ、君じゃあ敵わない。リノラースさんに任せよう。大丈夫、絶対に負けたりしないから」
必死に首を横に振る。
これ以上離れたくなくて足に力を入れるけど、ルイジェに横抱きにされる。
嫌なの、
お願い、
私の前からもう誰一人奪わないで、
後ろから聞こえる激しい戦いの音。それを聞きながら祈る。今はもうそれしかできない。
結局私は何もできず彼の帰りを待っていたあの頃と何も変わっていない。
暫くして、血まみれのリノラースさんが来た。
「大丈夫、ですか?」
「はい」
「怪我は?」
「ありませんよ」
良かった。
安心して座り込む。
「言ったでしょう。絶対に負けたりしないって」
得意げに言うルイジェ。その顔にムカついたが今回だけは許してあげよう。
絶対なんて、信じられなくなっていた。けど、少しは信じてもいいな
「もう無茶はしないでくださいね」
リノラースさんに向けて言う。
「はい、貴女が魔王である限り私は側で支えないといけませんから。それが、貴女を魔王にした私の責任ですので」
リノラースさんが私の側に居る限り、私は魔王で居続けよう。きっとそれが彼に出来る恩返しだから。
「よし、魔物討伐に行こう」
ルイジェが手を叩いて仕切った。
この一連の黒幕はいなくなった。後は、人間界に蔓延る魔物を一掃する。
リノラースさんは、各地に散らばった魔族の魔物討伐隊の進行状況を確認しに行った。
「シャオ、聞いてもいいかな。前勇者・ジャイルさんとどんな関係だったの?」
ルイジェにしてはどこか聞きにくそうに弱弱しい。
「恋人だよ。」
そう言った瞬間どこか悲しい顔をした。予想していたのだろう。
「私が人間だったことは知ってるでしょう。彼は同じ村で生まれた幼馴染。私が最も愛した人で、私を最も愛してくれた人。」
私は、ルイジェに自分のことを初めて話した。
両親が魔物に殺されたこと
最初の孤児院の皆が魔物に殺されたこと
ジェイルが神官たちによって勇者にされたこと
リノラースさんに見つけてもらって魔王になったこと
魔法士によってジェイルが殺されたこと
聞いて欲しくて全部話した。どうして魔王になったのか、ジェイルがいなくなってどんな思いだったか
「私は両親を友達を奪った魔物が憎い、ジェイルを奪って殺した人間が忌々しい。けどね、どんなに憎んでも憤りを感じてもこの世界は嫌いになれなかった。それを気づかせてくれたのはルイジェだよ」
ジェイルが私と離れてでも作ろうとしてくれた私との未来。もう見ることは出来ないけど、私なりに未来を作ってみたい。
「盟約は破られた。なら、もう一度やり直せばいい。今度は一歩的なものじゃなくて人間と魔族双方にとって幸せになれるものを、手伝ってくれる?」
「もちろん。シャオならできるよ。僕が付いているから」
そう言ってくれると思った。
ジャイルなら、私と並んで未来を歩んで行ってくれる。
「全てが終ったら何がしたい?」
盟約をやり直す。さっき言ったのに、そう思い首をかしげる。
「盟約をやり直して平和になった後の未来。シャオは何がしたい?」
未来
「ジャイルといた村に行きたい。今の、人間界を見てみたい。魔界の全部を見たい」
すらすらと出るやりたいこと。こんなにあったんだ。言っている自分に驚く
「全て叶えよう。僕が叶えて上げる、ユエンと一緒に。一緒なら楽しいよ」
そうだ、きっと楽しいだろう。想像するだけでわくわくしてくる。
「私ね、リノラースさんもユエンも大好きだよ、ルイジェも。でも、ルイジェの好きは恋、だよ。私は、ルイジェに恋してる」
ルイジェは嬉しそうに笑った。
ごめんね、ジェイル
ジャイルをきっと裏切ることになるんだろうね。でもね、今でもこれからもずっと愛しているのはジャイルだよ
だから、未来に進む私を見てて
ジャイルの描いていた未来とは違うけど、幸せにある未来を私の手で掴んでいくよ
まだ、やらなきゃいけないことが沢山ある。
でも、大丈夫。ユエンも、リノラースさんも、ルイジェもいるから乗り越えられる
幸せになる
ジャイルが私に与えようとしていたこと
ごめんね、ジャイル
ジャイル以外と幸せになる道を歩んで行きます
でもね、ずっと愛してる
いつまでも、愛している
それは変わらないから
ジャイル、愛している
ジャイルは?
いつも?
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