第4話 チャーリーの記憶2

 「ではさっきの赤ちゃん犬の時の僕の記憶も?」

「そうよ、チャーリー私達があなたをハックして、マイクロUSBメモリーをあなたの頭脳に差したのよ。でも安心して! これは全て生前のあなたの記憶を、このマイクロUSBメモリーに遺しておいたものを、あなたに差して記憶を蘇らせただけ。だからあなたの記憶は、今のところ、改ざんはされてないわよ。」

こう吉田絵美が唐突に言った。

「今のところっていうことは?」

こう僕が聞き返すと、彼女は即答した。

「私達は、あなたの記憶を改ざんするために、他の犬の記憶の入っているUSBメモリーをあなたに差したりはしないわよ。それは倫理的にしてはいけないこと。けれど・・・・。」

「けれど?」

僕が聞き返すと、彼女はこう答えた。

「倫理的にしてはいけないことをやる、悪い人間も世の中にはいるってことよ。だからこれからは、私達が、陰からあなたが他の犬の記憶が入ったUSBメモリーを差されないように守るから!」

僕は一抹の不安はあったが、彼女らに身を委(ゆだ)ねるしかなかった。

「それで、僕に何を協力して欲しいのかワン?」

「チャーリー、あなたにはただマイケルと、いつものようにこれからもずっと、時空探偵犬として事件を追い続けて欲しいの! マイケルのそばでずっと・・・・。」


 僕は、彼女のその声を聞くと、また眠りに落ちていた。

目を覚ますと、マイケルが僕の顔を覗き込みながら泣いていた。

「チャーリー、目を覚ましたのだね! 良かった!」

「マイケル、僕は今どこにいるのかワン?」

「今は二〇三六年十一月二十二日、吉田絵美の住む日本の横浜の市営団地の前だよ。僕と君は、はぐれたのだ。吉田絵美の仕業だ。彼女はどこへ?」

「ただマイケルと一緒に事件を追いかけて欲しいって、それだけ言い残して。」

「そうか分かった。チャーリー、君だけが僕の頼りだよ!」

「ありがとうワン! 僕もワン、マイケル!」

「チャーリー、トム・ライアンとテリー・ドイルは、どうやら違う時代に行ったみたいだ。吉田絵美を闇に葬る前に、彼女の野望を阻止するために、おそらくあの事件のあった日時に向かったと思う。」

「もしかして、マイケル!」

「そうだ! 一九六三年十一月二十二日の、アメリカ合衆国テキサス州ダラスだよ!」

「じゃあ僕は・・・・。」

「そういう時もあるさ、チャーリー。」

僕の嗅覚は、鈍ったのかワン? マイケルの足手まといになっている!

「マイケル、申し訳ないワン!」

「気にするな、チャーリー!」

マイケルは微笑んだ。僕はマイケルのその笑顔に、癒やされた。

「じゃあ、チャーリー準備はいいかい? ゴールドの左後ろ足義足を上げて!」

「このゴールドの義足は・・・・。」

「どうした、チャーリー?」

「いや、何でもないワン!」

僕は、このゴールドの義足の意味を、吉田絵美から聞いていたので、ついマイケルに言いそうになったが、ぐっとこらえた。

「チャーリー、言いたいことがあったら何でも言ってくれ。私は、お前のパートナーなのだから!」

「マイケル、僕の記憶は本当に、僕の物だよね?」

「当たり前だ、チャーリー! 吉田絵美に何か言われたのか?」

「マイケル、僕は・・・・。」

「君は、チャーリーだ! 普通の犬と違って優秀な、ゴールデンレトリーバーの元盲導犬、そして今は私の大切なパートナーだ! それだけで十分だ! ただチャーリーという名前は、ケネディー元大統領の愛犬の名前と一緒だ。それは偶然の一致だ。いや必然かもしれない。なぜなら、君はそのくらい優秀な犬だから。いずれにせよお前は、私の大切なパートナー! それは変わらないよ! ずっと!」

「マイケル、ありがとうワン!」

「じゃあチャーリー、いつものようにゴールドの左後ろ足義足を上げて! はいタッチ!」

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