第3話 チャーリーの記憶1

「チャーリー、もう一度目を覚まして。」

そこには、また少し年齢を重ねた、吉田絵美がいた。

「僕は一体どうなったのかワン?」

「あなたの頭脳を、私達はハックしました。」

「私達って、他に誰が?」

「心配するな、チャーリー。」

熟年で、白髪の眼鏡を掛けた、すらっとした背の高い男性の声が聞こえた。そしてその横には、熟年で、ほっそりとした背の低い女性の姿もあった。どこか吉田絵美と面影そっくりだった。その熟年の女性も僕に話しかけてきた。

「チャーリー、安心して!」

「一体全体、僕はどうなっているのかワン?」


「今二〇三六年一月の記憶を、あなたの頭脳に、マイクロUSBメモリーを差したのよ。あなたの正体は、この時を境に、人工ロボット犬に変わったの。あなたの記憶そのものを遺して。そして私達が時々こうやって、マイクロUSBメモリーに遺(のこ)してきたあなたの記憶を蘇(よみがえ)らせるために、あなたの頭脳に差しているのよ。ここにいるのは、今あなたに声を掛けたのは、私の父吉田徹と母吉田美桜よ。」

こう言うと一呼吸置いて、吉田絵美は私に告げた。

「チャーリー、あなたはあの凍傷で、左後ろ足だけでなく、頭脳を遺して、実は身体が死んでしまったの。それで私達が、あなたの優秀な頭脳に見合う身体を作ったの。私の両親は、科学者なの。」

「ならなぜゴールドの義足を、左後ろ足に履かせたのかワン?」

「良い質問だ、チャーリー!」

こう吉田徹が応答したので、僕は彼を問いただした。

「一体あなた達は何を企んでいるのですか? 僕にはさっぱり分からないワン。」

こう僕が嘆くと、吉田美桜は僕に答えた。

「まずその義足は、本来は無くても良い物なのよ。私達にとってはね。だけどその義足を敢えて履かせたのには、理由があるの。」

「理由?」

僕は怪訝(けげん)な顔をした。

「そう、その義足はカモフラージュなの。真犯人をあぶり出すための。」

「カモフラージュ? だけど、このゴールドの義足は、優しくて勇気を出せる犬にだけにしか授けられないって・・・・。」

「表向きの理由はそうよ。」

「タイムスリップだって、僕の左後ろ足の、このゴールドの義足を上げて、周囲の人達が僕の身体に触れなければ、できないはずワン!」

「チャーリー、忘れたの? 今のあなたは人工ロボット犬なのよ。それは、あなたの左後ろ足の付け根に、スイッチボタンがあるの。だからその足を上げると、スイッチが入る。ただそれだけのことよ!」

「だけど僕は雄ワン! 用を足すとき、いつも左後ろ足を上げる度に、それじゃあタイムスリップしてしまいます!」

「良いことに気付いたね、チャーリー!」

今度は吉田徹が、話に割って入ってきた。

「最後に君が用を足したのはいつかね?」

「あ!」

「そうだ、あのゴールドの義足を付ける前。すなわち君が生きていた時だ。今君は、栄養は摂取できるが、それはみな電流の入ったドッグフードだ。そう。君は今電気で動いているのだ。」

「けれどそしたら、マイケルも、そのことを知っているってこと?」

「それも良い質問だ、チャーリー。」

今度は、娘の吉田絵美が、話に割って入ってきた。

「あの人は知らないわ。あの人の買っているドッグフードは、あの人が生きてきた時代の物と違うの。」

「どういうこと?」

「あの人が生きてきた二〇二七年までは、市販のお店には、普通のドッグフードしか売られてなかったわ。でも国際時空警察二十四時ができた、二〇二八年以降は・・・・。」

「二〇二八年以降は何かワン?」

「犬や猫などの捨てられたペットは、殺処分にするのではなく、皆人工知能型ロボットペットにして、電気や太陽光を元に、安くペットが飼える世の中になったの。」

「え?」

僕はそれ以上言葉が出なくなった。

吉田絵美は話を続けた。

「マイケルがあなたに買ったドッグフードは、太陽光で発電してあった物なのよ。それを普通の身体が生きている犬も、食べられるように改良されていて、いつ人工知能型ロボットペットになってもいいように、生前から慣らされているのよ。キャットフードも同じ。」

僕は唖然とするしかなかった。

なおも彼女は話を続けた。

「あなたは盲導犬として働けなくなって、捨てられたの。だからマイケルに拾われたのよ。私達の真の目的は、真犯人が歴史を変えるのを防ぐこと。それであなたに協力をしてもらいたいの、チャーリー。」




























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