第2話 時空探偵犬始動
そんなわけで、僕時空探偵犬チャーリーと、巨人マイケルの出番である。 僕とマイケルは、ゴールドの義足を使い、時空テロの実行犯の貴婦人の生まれた、日本の横浜に、時空タイムスリップした。横浜は、港の夜景の綺麗な港湾都市である。彼女の名は、吉田絵美。彼女が生まれたのは、ニ〇〇一年十一月二十二日、まさにその日であった。そして私達は、彼女の人生を追跡していく。何一つ不自由なく暮らしていた彼女。両親からの愛情たっぷりに成長していく彼女。僕とマイケルは、生まれた年から彼女を調べ続けた。どこにでもいる普通の女の子が、思春期に入り、読書に夢中になっていた。この頃の彼女は、まだケネディーに関する書物を読んでいなかった。彼に関することで知っていたのは、歴史上の偉人の一人で、志半ばにして凶弾に倒れた。それだけであり、それ以上でも、それ以下でもなかった。
「マイケル、どうやらこの時代の彼女にとって、ケネディーは僕達と一緒で、友達以上恋人未満かな。」
「あれチャーリー、君は雄(おす)だよね?」
「そうだワン!」
「もしかして君は、私をそんな目で見ていたのかね?」
「どんな目なのかワン?」
「ハート型の目になる手前の目だよ!」
「僕は犬である。人間の雄には興味ないワン! うまく言葉が思いつかなかっただけワン!」
苦笑
マイケルには、いまいち、冗談が通じないワン! そう心の中で、ワンと吠えた。
「チャーリー、そしたら二〇二一年彼女が旅行で訪れた、米国テキサス州ダラスに行こう。
おっとそれでは、ここで僕らのタイムスリップ法をお伝えしよう。まず電信柱めがけて、左後ろ足義足を上げる。そしてマイケルが私に触れば、あっと言う間に時代と国を超えられるのだ。何でこんな方法でしかタイムスリップできないのかワン? 苦笑
さて二〇二一年アメリカ合衆国テキサス州ダラス。彼女は、道に迷って現地の人達と何か会話をしている。どうやらこの時、現地の人達と仲良くなり、ケネディーのことを詳しく聞いたみたいである。彼女の顔色が曇ってくるのが遠目で分かったからである。そしてこの後、彼女は、ケネディーへの尊敬の念を覚えていき、彼の思想、哲学に共鳴していったようである。特に有名な、この彼の演説を心に刻んだようである。
「国があなたのために何をしてくれるのかを問うのではなく、あなたが国のために何を成すことができるのかを問うて欲しい。」
しかしながら彼女は、あまり深く、彼の暗殺の真相を、まだこの時点では探ろうとは考えもしなかった。なぜならば、その真相を知れば知るほど、彼女も命を狙われるような、重大な恐ろしい何かに、追い詰められることに、この時すでに気付いていたからだ。だがそれと同時に、彼の偉大さを知れば知るほど、彼の暗殺を防げなかったのかという疑念に苛まれるようになっていった。そしてその後、とうとう二〇三〇年十一月二十二日、国際時空サイバーテロリストの一員になり、ケネディーを救うために立ち上がった。国際時空サイバーテロリストは、あらゆる時代のあらゆる国から、あらゆる目的を持って集っていたが、皆過去の暗殺された偉人たちを救い、後世の歴史をより良い歴史へと変えようとする為の、一種の使命感に突き動かされていた。その行為は、国際時空警察法上は、違法なことであったが、彼女にとっては、ケネディーを救うことが、世界の歴史を、正義の歴史に変える唯一の方法となっていた。
僕チャーリーとアイルランドの巨人マイケルは、このことを突き止め、深く葛藤する。そして国際時空警察二十四時という、時空犯罪を阻止しようとする警察が、彼女の犯罪を阻止するために、事前に彼女を闇に葬ろうとしている。こう僕達は考え始めた。しかし国際時空警察二十四時とは一体、いつできたのか。彼らの目的は、本当に過去の歴史を変えようとしている人達の実行を阻止することだけが目的なのだろうか。そのことを突き止める為、僕チャーリーの左後ろ足の義足を、電信柱に向けて再び上げ、マイケルと今度は二〇六三年十一月二十二日にタイムスリップした。そこはケネディー元大統領の暗殺から百年経ったテキサス州ダラスだった。そこで僕達一人と一匹は、ニ〇三六年十一月二十二日の日本の横浜に住む、吉田絵美に時空メールを送りつけようとしている、アメリカ人時空ハッカーで、国際時空警察二十四時のメンバーである、トム・ライアンと仲間のテリー・ドイルに遭遇した。
「ようこそ、マイケルに、義足のチャーリー君!」
こう言うと、テリー・ドイルは不敵な笑みを顔に浮かべた。
マイケルは嫌悪感を露わにしている。どうかしたのかワン?
僕は、二人のことを事前にマイケルから聞いていた。けどもマイケルは、どうして彼らのことを知っているのかは教えてくれなかった。まあ敢えて今は、マイケルを追求する前に、この二人を追求せねば。僕は答えた。
「何故、僕達のことを知っているのかワン? そういうあなた達は、国際時空警察二十四時の時空ハッカー、トム・ライアンとテリー・ドイル! 何を企んでいるのかワン?」
トム・ライアンはサングラスをかけた、マッチョで強面な、背の高いスキンヘッドの私服警官だった。彼の仲間のテリー・ドイルは、いたって冷静沈着なコンピューターに精通していそうな、細身の背の低い眼鏡をかけた、青い瞳のアイルランド系アメリカ人風の赤毛の持ち主で、インテリ風の男である。どうやらこの時代から、二〇三六年十一月二十二日に、メールを送った首謀者達のようだ。メールの送り主は、トム・ライアンであったが、実際に送ったのは、コンピューターに精通している、テリー・ドイルのようであった。
「君たちと話している暇はない。行くぞ、テリー。」
こうトム・ライアンが言うと、二人ともタイムスリップしてしまい、消えてしまった。
「チャーリー、君の嗅覚で彼らの行方を追跡してくれ!」
こうマイケルに言われ、僕は彼らの行き先を、嗅覚で突き止めた。
「マイケル、彼らは吉田絵美がメールを受信する、二〇三六年十一月二十二日の日本の横浜へ向かったワン!」
「よし、ゴールドの左後ろ足義足を上げろ、チャーリー」
「ちょっと待ってマイケル! 目標物、対象物がないと、左後ろ足義足を上げられないワン!」
「どういうことだ、チャーリー?」
「今まで気付かなかったの、マイケル? 僕の左後ろ足義足を上げるには、電信柱など、何か用を足す場所がないと、タイムスリップできないワン!」
「じゃー俺の足を目がけて用を足す形を作るのだ、チャーリー!」
「分かったワン! マイケル! 行くよ!」
こうして僕達も、二〇三六年十一月二十二日の横浜に到着した。そこには吉田絵美が一人暮らししている市営団地があった。彼女は、決してこの時代裕福ではないようだ。その団地の五階の一室に彼女の部屋はあった。どうやらまだ、国際時空警察二十四時の二人は、着いていないようだった。
「よしチャーリー、彼らより先回りできだぞ! 偉いぞ! さあ行こう!」
「行こうワン!」
「あら、かわいい! ワンちゃん、おいで、おいで、おいで!」
僕を呼ぶの、誰かワン?
後ろを振り返ると、そこには黒髪のポニーテールの瞳の美しい日本人女性、吉田絵美その人であった。
「あなたは吉田絵美さんですよね?」
こうマイケルが尋ねると彼女は答えた。
「あなたたちが来るのは分かっていました。」
「私達が来るのを分かっていた?」
マイケルは不思議そうに彼女を見た。私は彼女にじゃれていた。
「あのメールはもう見たのですね?」
「はい、マイケルさんですよね?」
「なぜ私の名前を知っているのですか?」
「話せば長くなります。追々分かりますよ。」
こう彼女は言うと、じゃれていた私から視線をマイケルに移した。彼女の手は、依然私をなで続けている。
「国際時空警察二十四時のトム・ライアンとテリー・ドイルが来る前に、あなたたちをある時代のある場所に案内したいの。一緒に付いてきて」
こう彼女は言うと、じゃれていた僕のゴールドの左後ろ足義足を持ち上げ、マイケルの手を握り、またタイムスリップした。
そこは十ヶ月前の二〇三六年一月のアイルランド共和国ゴールウェイ市内にある、僕の元の飼い主の家であった。そこにいたのは、凍傷に苦しむ僕の左後ろ足に、ゴールドの義足を取り付ける獣医と元飼い主と、手術台にいる僕の姿であった。その義足にはメイド・イン・ジャパンと内側に書かれていた。
「どういうことですか?」
マイケルが尋ねた。
「そのゴールドのタイムスリップできる義足は、私が送ったの。」
「え?」
僕もマイケルも唖然とした。僕は麻酔がかけられていて、この光景を覚えていなかった。だから、このゴールドの義足を履いてから、外したことが無かったから、内側に書いてあるメイド・イン・ジャパンに、今まで一度も気付かなかった。灯台下暗しである。
「チャーリー、あなたは心優しい責任感の強い盲導犬でしたよね? あなたの飼い主だった人は、あなたの匂いや、鳴き声は分かっていても、あなたのことは目には見えませんでした。それはあなたも同じなのです。あなたが今目に見えていることは、本当に全てが真実なのかしら? 全て幻かもしれません。私には過去は変えられません。変えられるのは、今これからだけなのです。過去を変えようとしていたのは、私の幻想。あなたもその幻想にとりつかれただけなのですよ。今私のスマートフォンの画面に映っている、この赤ちゃん犬、誰だか分かりますか? この赤ちゃん犬こそ生まれた時のあなたです。私はこの時から、ずっとあなたのことを見守ってきました。あなたの生まれた時の最初の飼い主は、私。今そう歴史を変えられたら、あなたはきっと動揺するでしょうね? でも安心して。これは・・・・。」
「これは・・・・?」
気付いたら僕は寝入っていたようである。僕は目を覚ました。そこにいたのは、マイケルではなく、吉田絵美であった。
「ここは?」
「心配しないで、チャーリー。」
こう言うと、彼女は僕にミルクを注いでくれた。
「マイケルは?」
「マイケル? 誰のこと?」
「今僕はどの時代に?」
「チャーリー、あなたは気絶でもしたの?」
「え?」
さっき見た吉田絵美より幾分、年齢が若そうだ。
そうか僕は今赤ちゃん犬に逆戻りしたのか? だが記憶は残っている。精神年齢も赤ちゃん犬ではない。どういうことなのかワン? 彼女とも会話ができている。
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