盲導犬チャーリーの夢
オハラ ポテト
第1話 歴史を変えたい!
「バーン!」
その人は、一発の凶弾に倒れた。一九六三年十一月二十二日のことであった。事件現場は、米国テキサス州ダラス。その人とは、ケネディー米国元大統領である。
歴史は繰り返す。ならば後悔した時点で、歴史を変えればいい。そのようなことが本当に可能なら、皆そうするだろう。歴史を変えるとは、過去のある時点だけを変えれば、本当に変わったと言えるのだろうか? いや、世界や自分の過去の負の歴史を変えたところで、その後の人生が何も変わっていなければ、本当に変えた、変わったとは言えないのではなかろうか。むしろ今これからの、自身の歴史を変えていくことで、過去の負の歴史が報われ、本当の意味で世界を変えていける。そう信じているのは、本当に僕だけなのだろうか。
僕の名はチャーリー。二〇三〇年十一月二十二日、風光明媚な商業都市、アイルランド共和国ゴールウェイ市内のとある民家に生まれた。しがないゴールデンレトリーバーの元盲導犬、普通の老いぼれ犬である。そんな僕がとある巨人に雇われ、時空探偵犬となったのは、二〇三六年十一月二十二日の薄暗い寒い日であった。僕の仕事は、盲目の人達のために尽くす、どこにでもいる、いたって普通の盲導犬だった。二〇三六年一月、凍傷で、左後ろ足が義足になるまでは。
この時から僕の人生は不可解な道へと、迂回していくことになるのである。凍傷になり動かなくなった左後ろ足を持つ僕の写真が、とあるインターネット掲示板に動画で投稿されると、瞬く間に再生回数が、百万回を超えた。それを見た、とある国の人から、僕は義足を送られた。それは、ゴールドの義足であった。この義足こそ、僕の運命を大きく変えることになるのである。
僕が巨人マイケルに出会ったのは、まさにこの時であった。マイケルは、赤毛で、たくましい口ひげを生やしている、優しい青い瞳の持ち主で、恰幅の良い巨人であった。彼は僕を一目見るなり、こう言った。「やあ、チャーリー、初めてだね! 私はマイケルだ。今日から私が君の新たなパートナーだよ。私は目が見える。だが人の心は、君の方が見えるだろう。私に付いて来なさい。君の飼い主から私は今、君を委ねられた。これからは、私が君のパートナーだよ! チャーリー!」
こう言われて僕は、彼に引き取られた。どうして彼は僕に興味を持ったのか、全く見当が付かない。そんな僕に彼はこう言った。「君のそのゴールドの義足は、勇気を出せる優しい犬にしか与えられない、時空を超えることのできる義足なのだよ! そして今君は、私の言葉を理解できるだけでなく、私と会話をすることもできる。試しに私に何か喋(しゃべ)ってみなさい。」
こう彼が諭(さと)すので、僕はこう言った。
「お腹すいた。何か食べたいワン!」
「分かったよ。チャーリー、ドッグフードで我慢してくれ。」
何で?
こう僕が言う前に、ドッグフードが出てきた。これからはマイケルが僕のボスだ。僕のつぶらな瞳は、彼の一挙手一投足を追う。マイケルは時折、悲しそうな目で僕を見る。どうやらこの人も孤独なようだ。僕はこの人と生きていこう。元気づけてやろう。そう心に決めた。僕とマイケルは、時空を超えるテロリストを追い詰めるパートナーである。
時空サイバーテロリストとは、未来のある時点から、時代を超えて過去のインターネット上に虚偽の情報を流し、その時代の歴史を変え、未来を変えるテロリストのことを指す。すなわち、過去の歴史を改ざんして、未来を変えようとすることである。国際時空警察法によると、過去の歴史を変えて、未来を混乱に陥れるのは、重大な犯罪である。
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