53 言葉より早い

 こんにちは。


 関西は今日はとても過ごしやすい気候でした。

 気温はそこそこ上がり室内は三十度くらいでしたが、湿度が無くてさらっさら。

 前に話題に上がったオパールも真っ白!(笑)


 いよいよ秋を感じてしまう。みたいなお天気でした。


 こんな日は、私は宮沢賢治を思い出します。


 なんでかは分からないのだけれど……、私が岩手を訪れた時も雨模様だったし。


 でも宮沢賢治のお話から感じる空気感が、たった今感じている秋の始まりのような空気で、脳がその土地を肌でリアルに経験したかのように覚えているんですよね。

 ほんと、不思議。


 私が岩手に初めて行った時も、岩手山を見て、ぼっかり開いた空間を感じた時、始めてきた感覚ではなくて「いつでも私はここに来ていた」という感覚で、あんなに不思議な感じは後にも先にもないのです。

 私は小説の中で、本当にあの小岩井や花巻の土地に飛ばされて、闊歩していたようです。


 物語も読んでいるとページが、ぽわぁ~と青く光ります。ページをめくる度に青い光に顔が照らされる。

 そんな不思議に感覚があるのは、宮沢賢治だけだった。


 私が賢治さんに出会ったのは、きっと劇場版のアニメの銀河鉄道の夜。

 あ、もしかしたら小学校に劇団が回って来て、観劇した注文の多い料理店だったかもしれない。


 それくらいの出会いだった。


 でも、大好きになったのは、きっとあれなのだ。


 前にも一度登場した(読書感想文の回かな?)現代国語のおじいちゃん先生。狂言の役者さんをされていて、現代国語と書道を教えてくれた。


 その先生に宮沢賢治のお話を教えてもらった時だ。

 なんだろう、何であんなに宮沢賢治をやっただろう。中学一年だったと思う。

 たぶん、オツベルと象、やまなし、河童と蛙、月夜の電信柱……だったと思う。


 作品に出て来るオノマトペや造語を教壇の上で、元気そうだけど今まさに心臓発作を起こしてもおかしく無いくらいのおじいちゃん先生がドタドタと、音とチョークの粉をふるい立たせながら踊って表現してくれたのです。


 初めて見た時は、心臓発作?それか気が狂ったの?と、教室が騒然となりました(笑)

 「つんつんつるんぶ つるんぶ つるん!」と、タコみたいな軟体動物の様に踊るのです。


 一度は驚いたものの、元気だ……と理解してからは、教室中で笑いました。


 何だかわからないクラムボンがカプカプ笑う仕草を想像させてくれたり、オツベルのオムレツの分厚さも「それはそれは、すごいんやねぇ!」と顔芸と勢いで表現してくれたり、電信柱の行進の様子をド迫力の教壇を踏む音と月夜の不気味さをシルエットで見せてくれたり。


 私はきっと、あれから賢治さんが好きなんだと思います。


 そして、どんなふうに読んでもいいんだ、感じたことを表現してもいいんだ、もともとある言葉だけじゃなく自分が伝えたい言葉を作って伝えてもいいんだと、その時に……大げさな言い方をすると、許されたように……、世界が広がったように思います。



 私は小さい時に、感情や現象に一致する言葉を知らなくて、言葉が発することが出来なくて「ん、んっ」で済ませ、ずっとモヤモヤしていた経験があるので……、今から思うと、それは感情や思考が言葉よりも早いんです。口に出すには間に合わない。


 人に笑われるのが嫌で、間違った言葉を発したくなかった。口も上手に使えないし。赤ちゃん口調になるのも嫌だった。大人に笑われるし。


 でもあの時、勝手に作った自分の言葉で表現したらよかったんだなぁと思う。


 今日、とある書き込みを見て。

 それは、私宛では無かったのだけれど、想像力と包容力が無いと思われる人が、自分の持っている知識から弾かれた言葉を小馬鹿にした感想だった。


 その人は、きっとクラムボンって言われても、カニって書けよ!とか、泡って書けよ!みたいに在り来たりな想像で終わらせて、言葉よりも早い想像力で作られた伝えたい気持ちを、想像もしないで本を読んで来た人なのかな?と、失礼ながら思った。


 既存の言葉では伝えることが難しい、勢いとか、スピードとか、温度とか、空気感とかが有ると思うのです。


 やり玉に挙がっていた言葉は、別に特殊では無い、言葉で百人中ほぼ全員が、同じイメージで解釈する言葉だった。


 「かぷかぷ わらった」も珠玉だと思うのだけれど、手塚さんの「しーん……」も珠玉中の珠玉だと思う。


 そうやって、言葉って生まれて来るし、イメージが共有できるって素敵な事なのになぁと思ったのです。


 なんか、別の事でイライラする事でもあって気に障ったのかなぁ?お腹減ってたのかなぁ?ただマウントを取りたかったのかなぁ?

 まぁ、そこは詰めても仕方がない話なのですが。


 ……。


 宮沢賢治さんのお話って、どちらかと言えば、読みにくいんですよねぇ。

 賢治さんワールド全開の賢治さんの脳にダイブするようなものなので。

 彼の中だけで通用する言葉で書いてある。

 賢治さんの作品を読み進めると、だんだん分かってくるのだけれど。

 (たぶん私は普通に購入できる作品は全部読んでいると思う。あと、弟さんが書いた兄のトランクも読んだ。)


 それを文章を読むのが苦手だと、公言している友達が最近読んだらしい。

 しかも「銀河鉄道の夜」。

 あれは一番有名だし代表作だけれど、文章を読むのが苦手な人にはなかなかのハードルだな、と思った。

 頑張ったなぁ。


 私は銀河鉄道の夜が大好きな作品で、何回も読んだし、メイシアでオマージュもしているくらい本当に大好き。

 だから友達は、南十字星が出てきたと報告してくれた。


 そうなんだよねぇ。

 タイタニックの乗客が、南十字星で降りるんだよね。


 ひぃちゃんも、銀河鉄道の夜が好きだった。

 鷺の脚が食べてみたいとか、りんごがおいしそうだとか……

 そんな話をしていたんです。食べ物の話ばっかり(笑)


 ひぃちゃんは生きて南十字星は見られなかったけれど、彼女も家庭教師たちと同じように南十字星の駅で降りたのかもしれない。

 南十字星の観光。

 旅のお供は鷺の脚のチョコレート。

 お土産は、マカダミア入りの鷺の脚でよろしくです。




 あぁ、みんなが寛容だといいなぁ。

 


 秋の虫の声がするなぁ。


 そんな夜です。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る