51 月下美人とチューリップ

 こんにちは。


 最近、SNSで「月下美人の花が咲いたのを母親が自慢してくるけど、そんなに珍しいの?」みたいな書き込みを見た。


 私は月下美人を見ると、まだ就学していない頃の話を思い出す。


 母方の実家は車で一時間以内に行ける場所にあったのだけれど、夜、お風呂も入ってもう寝るだけという状況の時間に、電話が祖母からあり、そそくさと準備をして祖母の家へ行った事がある。


 祖母と祖父が育てていた月下美人が咲いたからだ。


 私は子供のころから宵っ張りで、深夜には強い方だったのだけれど、翌日も保育園があるのに、夜中に出かけるなんて異例中の異例。

 祖父母はどうしても見に来てほしかったようで(笑)夜中に「こんばんは~」と。


 毎週祖父母の家へは行っていたので、そろそろ花が咲くという情報は、毎回耳にタコができるほど聞いていたので、何の事かは分かっていたんだけれど、あの頃はさほど興味も無かったので、なんだかよくわからない気持ちで付いてったと思う。


 でも、玄関を開けた瞬間、すっごく甘い香りがした。


 全ての子供がどうなのか分からないけれど、私は子供頃、匂いがよくわからなかった。(今はすっごく敏感なんだけど)

 あの頃、口で息をしていたからなのかもしれないけれど……、匂いのサンプルがまだ脳に揃っていなくて、認識していなかったのかもしれない。


 しかし、その時はいい香りが分かった。


 初めは何の匂いかわからなかった。

 というのも、たった花一輪で、部屋中を充満させるくらいの匂いが発しているという事実が結びつかなくて。


 それほどまでに強い匂いだった。


 その花を私の家族が見学すると、勿体ないけどこのままだと一晩で枯れてしまうと言うから……と、花を切ってお酒に漬けていた。

 そのお酒に漬けて、蓋をするところまで見て帰ったのを覚えている。



 そういえば、祖父母は2人とも植物が好きだった。

 家の裏はすぐにJRの線路で、線路沿いの土手に花をいっぱい植えていた。

 (関係ないけど、当たり前だけど母親が小さいころは国鉄で、機関車が走っていたらしい。煙で洗濯物が黒くなったりしたとか。)


 土手にチューリップの球根を植えた後の話、私は何の用事だったか……種まきをさせてもらっていた時だっただろうか……、土手を降りていた。

 降りる時には、こっちから降りて、と誘導され、すっごく降りにくい斜面から降りた。

 もしもこけたら泥まみれ。園芸用の真っ黒のフカフカの土まみれ。


 作業も終わり、土手の上に上がってと言われ、私は普通に一歩足を踏み出した。

 土手のチューリップが植えてあるところが、ちょうど土手を上がるのに足をかけるに丁度いい段になっていて、土手を降りる時に「ここにはチューリップの球根が植わっているから、踏みやすいけれど踏んではダメ」と言われていたのだけど、もう用事が終わった頃には、そんな事頭に残っている訳もなく。

 もちろん踏んだ。


 まだ三歳とか四歳とかそれくらいじゃないかなぁ。

 子供なりに説明され、踏んではいけない、という事は理解していたのだけれど、土しか見えていない状態で、そこにチューリップがこれから芽を出して花が咲くという事を想像するのは難しかった。


 踏んではいけないという事は一旦理解したけれど、それを覚えて留めておくことは、本当に難しい。

 子供の脳の限界を超えていると思う。


 でも、大人にはそんな事分からないよなぁ……と。


 まぁ、めちゃくちゃ怒られた。

 「頑張って芽を出そうとしているのに、チューリップが可哀想!生きているんだよ!」と。

 私の足跡でぐちゃぐちゃになった土から球根を掘り出して芽が少し出ているのを見て、初めて「あぁ、こういう意味だったのか。」とやっとチューリップの球根が植わっているという意味と、球根というものから芽が出るという意味が分かったのだ。


 そのチューリップは春に背の低い状態ではあったけど、花を咲かせた。

 そして、私はそのチューリップの事は忘れていたのだけれど、咲いたのを見せられた。


 「踏んで頭を押さえられたから、他のチューリップより背が低いけど咲いたよ。可哀想だから、もうこんなことをしたらあかんよ。」と。


 いや、違う。

 説明されても分からなかった。見せてくれないと分からなかった。そもそも、熱中することが別にあるとすぐに忘れるのだ。

 いじめたくていじめたんじゃない……と、もやもやしたことを今でも時々思い出す。



 子供の心大人知らずですね。

 

 でも、あれが説明された言葉と、それはこーゆーことですよ、の正解VTRで見せてもらって事象と紐づけされて理解できた初めての事だったのではないだろうか。


 あれからずっと、説明は映像でして!と思っていた気がする。

 「それは、こーゆーことです!じゃーーん!」みたいに。


 子供のころから妄想癖が……



 ……何の話をしていたのか、話がどんどん変わってきてしまいましたが。


 その後、月下美人のお酒がどうなかったかを忘れていたのですが、よーくよーく思い出すと、確かに父親が振舞われていた気がします。

 たぶん、花に比べてお酒の量が多いから、香りはほぼしなくて、お酒に漬けた花を楽しむものだなぁ、みたいなオチが付いていたように思います。


 そうそう。

 そのSNSのリプ欄に「そういえば昔、月下美人が流行った時期がありましたね」と書き込みがあって、私の祖父母が育てていたのも、そのブームの時だったのかもしれないですね。



 またあの香、嗅いでみたいなぁ。



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