44 マイルド怪談2<劇場で>

 こんにちは。


 今日もマイルドなやつを一つ。


 私は学生時代に構内の劇団に入っていたのですが、その時のお話です。


 まぁ一般的に芝居小屋や劇場には出るって話。有名ですよね。

 光の強いところには集まるとか言います。


 一応、部活の登録をしている劇団だったので(もちろん外でも公演はしていましたが)校内の講堂も使わせてもらっていました。


 講堂は、中高の校舎と同じ並びにある大きな建物でした。

 中高の校舎は同じ建物。そこから数メートル通路を開けて、講堂が並んで建っている。

 

 講堂は私が中学に入学する少し前に出来上がっていて、新しい講堂だったのですが、講堂を作る際に転落死をした人がいるという噂もあったり。(私は中学から通っています)

 校舎の一番講堂側の教室は、調理実習室だったり理科地学の実習室だったのですが、その教室の外を二階だったり三階だったりするのに、窓の外を人が歩いているのを見た……という、学校の怪談ではあるあるの噂が流れてしたり。(大学まではこの怪談はとどろいてませんでしたが。)

 

 でも新しいのでおどろおどろしいような所もなく、きれいな講堂でした。


 劇団では客席は使わず、緞帳どんちょうを下ろし舞台上だけを使います。

 どうしても客席を使うと、完全暗転が出来ないので(色んな所から光が入ってきてしまう)舞台上に小さな芝居小屋を作るのです。

 なのでイントレといって、工事現場の足場を組み上げて、鉄のパイプをクランプで渡し、角材に付けた暗幕を番線で吊るして大きな箱を作るのです。

 その中に平台や箱馬を使って、舞台と客席を作ります。


 女子校だったので、女子しかいないので、なかなか大変な作業でした。


 初めて舞台を作る「仕込み」「ばらし」を経験した時は、疲れすぎて帰り道に事故に遭いかけたほどです。

 あんな疲労困憊は経験が無いくらい疲れました。


 そんな作業なので、公演日+前後一日ずつを講堂を丸々借り切ってしまうのです。

 借り切ってしまうのだから、責任重大です。

 大学で初めて借りた時は、まだその重大さが理解できていなかったのだけれど、戸締りはもちろん、当たり前の状態を当たり前の状態で最後にお返しをするという事の、厳しさみたいなものもその時に学びました。


 実は私が高校在学中、講堂には管理人のおじいちゃんがいてました。

 高校も演劇部だったので、講堂へは出入りする機会も多く、私もすごく交流があったわけじゃないけれど、知っている存在。

 なので、どこか管理人さんがいるから大丈夫だ、という甘い考えがあったというか。



 作業が終わった後、全ての電源を切って鍵を閉めて退出します。

 ホール自体の照明やら色んなスイッチがあるのは、ホールを全部見渡せる最上階のガラス張りの照明と音響のブース。

 そこで全ての電源を切って撤収しないといけないのです。


 ステージは舞台上なので緞帳を下ろしていて、客席側は使っていませんが、荷物を置いたり作業するのに客席側も使っていますからね。

 明かりのオフは重要。


 で、撤収時間なので誰かブースにいる人に切ってもらおうと、人影があったので手を振ったのです。

 私だけじゃなくて、その時先輩と同級生もいました。


 実はその時、音響のブースには音響の先輩がいたのです。


 でも先輩は、音響卓の前に座ってしたので、私達からは見えない。

 私たちが手を振ったのは照明ブースの方。

 乗り出してこちらを見ているくらいの人影の大きさでした。

 それがスーっと、出入口に行くように消えたのです。


 照明と音響のブースは部屋は同じなのですが、中の光が外に影響しないようになのか、建物の構造上なのか、間に大きな柱があって見えないのです。

 ホール側から見ても違う部屋に見える。


 あまりにうるさくするから、呼んでいるのかな?と、音響の先輩が降りて来てくれたのですが、(卓が大き過ぎるから、乗り出さないとホール側からは見えないので、先輩は急に降りてきたように見えているのですが)「なに?」と。

 

 音響の先輩と同学年の先輩が、

 「もうそろそろ撤収しようと思っているから、ホールの明かりを消してもらおうと思って……、照明ブースに○○(照明さんの名前)いるでしょ。」


 「え?ブースには私しかいなかったけど?」


 「でも、今照明(の卓の前)に人が居たけどなぁ。こっち見てたし。こんな時間、私たち以外生徒はいないはず。」

 と言うので私が、


 「管理人さんじゃないですか?」


 その時間は何時だったかなぁ……、午後八時とかもしかしたらもっと遅かったかも。とにかく夜だったのです。

 まず、大学側の生徒は校舎が違うので絶対来ない。

 中高の生徒は絶対に残っていない時間。

 教師も帰っている時間。

 警備員は、私たちに声をかけてからでないとホールの中には入らない。借りている時間内なので。

 とすると管理人さんしか考えられなかったのです。


 しかし、先輩たちは、

 「○○さん(おじいちゃんの管理人さんの名前)、退職されて今は管理人さんいなくなっているけど?」


 管理人さんは、私が高校を卒業する半年前に退職をされていたらしいのです。

 確かに……そう言われれば、そうだった気もする……、という事は、、


 えーーーーー! ですよ。


 と、そこに私たちがブースにいると思っていた照明の先輩が登場して、「どうしたん?」と。

 こちらが「どうしたん?」ですけどね。


 聞くと、どうやら見えないところで照明のゼラ(色付きセロハン)を張ったり色々していたそうでした。


 ブースに誰かいるの?となり、その瞬間、照明の先輩がブースへ駆け上がって、私たちも追って……ブースへの階段は二か所あるので、頭のいい先輩は違う階段から駆け上がって……としたのですが、やっぱりブースは空でした。


 絶対人影を見ているのに!


 しかも動いたのに!



 でも、先輩たちは「あー、やっぱりね、」と。別に不思議ではないそうで。

 私達は中高の時は、講堂の外のうわさしか知らなかったけれど、大学の先輩たち(四年生)は中に居ることを知っていたらしく……

 講堂を使う時も必ず最初に「使わせていただきます!よろしくお願いします!」と言うそうだ。


 そんなの初めに教えてよーーー!と。


 それから、私達も見えない講堂の管理人さんに、よく話かけていましたが……

 確かにその後も気配は、、感じる事がありました。


 でも嫌な感じがしたことは無かったので、見守ってくれていたんでしょうね。



 ね、マイルドでしょ?(笑)


 あと一つあるけど……どうしようかなぁ。

 明日気が向いたらマイルド怪談しますね。



  *** *** ***


 因みに、照明の先輩はその時から舞台照明の会社でバイトをされていて、そのまま就職されました。

 私の憧れの先輩は、少し前の朝ドラで意地悪小姑で有名になった女優さんが甲板していた劇団で役者をしていて、

 舞台監督の先輩もイントレとか学生劇団がなかなか使わない中、工事現場にアポなし訪問でゲットしてきたり……、

 制作の先輩は今もテレビのコメンテーターや映画、演劇で活躍されてる監督・演出家をされている方が主催の劇団(その頃はまだ彼も学生さんでした)でお手伝いされていたり……、音響も衣装もプロが集まっていて、ヤバい集団だったのです。


 私が一年の時の四年生なので一年間しか、ご一緒できなかったけれど。そして私はその後一般の劇団に入りましたが何者にも成れなかったですが。

 はぁ、懐かしいお話です。


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