第3話
お返しに後ろ蹴りを放つが、これはあっさり避けられる。
続けて、右フックを叩き込もうとする。
「えいっ」
だが、それはフェイントであり本命は左のショートアッパーだ。
アレスは慌ててガードしようとしたが、間に合わなかった。
シャルの拳が彼の顔面に突き刺さる。
「ぐふぅ!?」アレスはよろけたが、すぐに体勢を立て直すと反撃に転じた。
シャルは必死に耐えたが、一発だけ避けきれずに喰らってしまった。
「きゃあっ!」
悲鳴を上げて後ろに下がると、アレスが追撃してくる。
「やばっ!」
何とかかわそうとするが、間に合わずに強烈なボディーブローを貰ってしまう。
「うげぇ!?」苦悶の声を上げると、アレスはそのままラッシュを仕掛けてきた。
右ストレートで腹を突き上げられ、左アッパーで顎を打ち上げられてしまう。
最後に右ストレートを胸に打ち込まれた。
「きゃああ!!」
あまりの威力に後方に吹き飛び、背中から地面に落ちた。
「あうう……」
シャルは苦痛に顔を歪めると、なんとか立ち上がった。
アレスは追撃しようと突進してきたが、途中で何かに気付き足を止める。
「?」
不思議そうな顔を浮かべるが、その理由はすぐにわかった。
シャルが両手を広げてアレスの前に立っていたからだ。
「……え?どういうこと……?」
困惑したような声を出すと、シャルは優しく微笑んだ。
「ごめんなさい。あなたがこんなに強いなんて思わなかったの。だから……こうしないと勝てないと思って……。」
そう言うと同時に、彼女は目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。
「私だって男の子に負けたくないもん!」
次の瞬間、彼女の全身から凄まじい魔力が発生した。
「え?」
予想外の事態にアレスは戸惑ったが、すぐに正気に戻って構えた。
「ふん!」
彼は力任せに右ストレートを放つ。
しかし、シャルは難なくそれを避け、逆にカウンターの左フックをお見舞いする。
「ぐほぉ!?」
予想以上の衝撃にアレスは倒れそうになったが、踏ん張って耐える。
すると、今度はシャルの連続攻撃が始まった。
左右のジャブで牽制しながら間合いを詰め、左ストレートを叩きこむ。更に右ストレートで追い打ちをかける。それを両腕を上げて防ごうとするが、ガードごと吹っ飛ばされた。
「どわあっ!?」
そのまま、何度も地面の上を転がる羽目になる。
(くそ、強い!)
アレスはこの展開をまずいと悟った。
このままでは負けると理解し、即座に起き上がる。
そして、またもや突っ込んできた。
シャルも迎え撃つべく、両足を開いて腰を落とし、右ストレートを放った。
アレスはそれを左腕で受け止める。それと同時に右腕を引き絞りながら前進する。
シャルは咄嵯に左フックを放つが、アレスはこれをかわす。
シャルは焦りを覚え、右手を振りかぶってパンチを繰り出す。
それをアレスは左手で掴み取った。
「な!?」
驚くシャルの腹部に向けて、渾身の膝蹴りを叩きこむ。
「ひぎぃ!?」
シャルの体が浮き上がり、数メートル先に吹き飛んだ。
だが、彼女もただやられるだけでは終わらなかった。
シャルは歯を食い縛って立ち上がると、再び突撃を開始する。
右ストレートを放ち、アレスはそれを受け止める。
同時に、アレスは右の掌底突きを繰り出した。
「ああん♡」
女の子みたいな声を上げ、シャルは後ろに下がった。
アレスは追撃しようとしたが、その前にシャルが動いた。
「このっ!」
左のミドルキックを放つ。
アレスは腕で防御しようとした。
「えいっ!」
だが、それはフェイントだった。
シャルは蹴りの軌道を変え、右のショートアッパーを放つ。
「ちっ」舌打ちをして、アレスはガードしたが、これはフェイントだ。
ガードが空いたところへ、シャルは前蹴を放っていた。
「うおっ!?」
予想外の攻撃を喰らい、アレスの体勢が崩れる。
シャルは容赦なく追撃を始めた。
右のショートアッパーと見せかけて、左の前蹴り。
続けて、後ろ回し蹴りを放つ。
そこから、右ハイキックへと繋げる。
最後の一撃は相手の顎を狙った。
「せいっ!」
「うおお!?」
アレスは辛うじてガードするが、大きく体勢が乱れる。そこにシャルが追撃をかけた。
右アッパーからの左ストレート。
更に、右フック、左ストレート、右アッパー……と怒涛のラッシュを仕掛けた。「どう?私の本気は?」
「ぐお……」
「まだまだ行くよー♪」
シャルは満面の笑みを浮かべ、左右の拳の嵐を叩きこんだ。
「うげぇ!?ぶはぁ!?がはぁ!?」
アレスは悲鳴を上げることしかできなかった。
もう、何発殴られたかわからない。
意識が飛びそうになるのを必死に堪えていた。
「とどめだよ~」
シャルは勝利を確信したのか、笑顔を浮かべてラッシュを仕掛けてきた。
強烈な連続攻撃が叩きこまれる。
「ぐがああ!!」
アレスの口から絶叫が漏れた。
全身から力が抜け、足下がふらつく。
雄叫びと共に、彼は全力の反撃に出た。
シャルの両手を掴み取り、そのまま背負投げを決める。
「きゃあっ!?」
シャルは背中から地面に落下する。
受け身が取れず、かなり痛かった。
彼女はすぐに立ち上がろうとしたが、アレスはその隙を与えない。
「ぐえ!?」
シャルの上に馬乗りになり、マウントポジションを取った。
そして、彼女の首を絞め上げる。
「かっ、はっ……!」
シャルの顔から血の気が失せ、目が見開かれる。
「ま、負けないもん……!」
しかし、シャルも負けじと足をばたつかせ、彼の股間を蹴り上げた。
「がっ!?」
アレスの動きが止まる。彼は慌てて手を離し、距離を取る。
一方、シャルは咳き込みながらも立ち上がった。
「こほっ、ごほ!」
「くそぉ……」アレスはよろめきながら立ち上がり、「もう一回だ!次こそ勝つぞ!」
「うん!」
二人は再度戦い始めた。
今度はお互いに同じ技で勝負することにした。
アレスは左足を前に出し、半身に構える。
対するシャルも右足を一歩前に出して腰を落とす。
そして、お互いがタイミングを見計らう。
「よし、今だ!」「行くよ、アレス!」
アレスが仕掛け、シャルが迎え撃つ。
二人の動きはほぼ同時だった。
「このっ!」「えいっ!」
互いに右ストレートを放ち、相手に命中させる。
「ぐうっ!?」「ああん」
衝撃で後ずさるが、それだけでは終わらない。
アレスはそのまま前進して右の掌底突きを繰り出す。
だが、シャルは下がって回避すると見せかけて、前に出て左の掌底突きを放った。
「甘いぜ!」
アレスは左腕で受け止めると、右の肘打ちを放つ。
「あうっ」
シャルは避けようとしたが、わずかに間に合わなかった。
アレスは更に追撃をかける。
「はああっ!」
右手のジャブを放つと同時に、左ストレートを放つ。
「くうっ!」
シャルは両腕でガードしたが、威力を殺しきれず後ろに下がる。
アレスは攻撃の手を止めなかった。
右のミドルキックを放つと見せかけて、左の前蹴りで相手を牽制しつつ、一気に懐に飛び込む。
「このっ」
シャルは怯まず、右のショートアッパーを放ってきた。
それを受け止めてから、左の掌底突きを叩きこむ。
「あん」
女の子みたいな声を上げ、シャルは吹き飛ぶ。
アレスは追撃をかけようと踏み出したが、そこで動きを止める。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
シャルは肩を大きく上下させ、荒い息をしていた。
顔には汗が浮かび、呼吸が乱れている。
対して、アレスはまだ余裕があった。
彼は額に浮かんだ大粒の汗を拭うと、口を開いた。「ここまでやるとは思わなかったよ」
「それは私の台詞だよ」
シャルは苦笑した。
「私だって、男の子に負けるつもりはないよ」
「俺もそうだ」
アレスは真剣な表情を浮かべた。
「でも、これで終わりにする。次はもっと激しく行くから覚悟しろよ」
「望むところです!」
シャルは大きく深呼吸をして、気合を入れ直した。
アレスはゆっくりと間合いを詰める。
次の瞬間、彼は急加速し、シャルに襲いかかった。
「せいゃああ!!」
鋭い回し蹴りがシャルを襲う。
彼女はバックステップで避けるのは不可能と判断して腕で防ごうとした。
「きゃああ!!」
強烈な一撃を受け止めることができず、シャルは吹っ飛ばされた。
地面を転がる。
「まだまだ行くぞ!」
アレスは立ち上がってシャルに向かって駆け出す。
シャルは立ち上がると迎撃態勢を整える。
アレスは再び攻撃を繰り出した。
素早いフック、そしてローキック。
シャルはそれを全て防御する。
(速い……)
彼女は内心で呟いた。
今まで戦ってきた相手の中でもトップクラスの速さだ。特に蹴り技のキレが凄く、一発食らえば気絶してしまうだろう。
だが、彼女は負けじと拳を突きだす。
「おわ!?」
アレスが驚きの声を上げる。
シャルのカウンターパンチが決まり、彼が仰け反る。
その隙を逃すことなく、再び攻撃を再開する。
「はああ!!」
渾身の力を込めた右ストレートが放たれたが、アレスはこれを紙一重でかわすと、逆に彼女の顔面を狙って左ストレートを繰り出す。
「ぐぅ!」
シャルは顔をしかめて何とか堪える。
アレスは更に追い打ちをかけた。
「おりゃあ!」
右のハイキックが繰り出される。
シャルはこれも受け止めたが、体勢が崩れてしまう。
アレスは素早く足を引き戻すと、今度は左の裏拳を突き出してきた。
「くっ」
シャルは右腕でガードし、ダメージを最小限に抑えることに成功したが、大きくバランスを崩してしまった。そこにアレスの攻撃が続く。
「はあ!」「えいっ」
お互いの右ストレートが相手の頬に命中し、後方に下がった。
シャルの顔が苦痛で歪む。
一方、アレスもかなりダメージを受けていた。「つ、強いね」「お前こそ」
二人は同時に構えを取り直す。
ここで決着をつけるつもりだった。
アレスは前傾姿勢になり、いつでも飛び出せる準備をする。
対するシャルは中腰になって身を沈める。
「行くぜ! はああっ!」
アレスは猛然とダッシュして、彼女に接近すると右手の掌底突きを放った。
「甘いっ」
シャルはその動きを読んでいたため、冷静に対処できた。
アレスの動きに合わせて前に出ると、彼の右手首を両手で掴み取る。
そのまま勢いを利用し、一本背負いで投げ飛ばした。
「うおっ」
アレスは受け身を取れず背中から地面に叩きつけられる。
だが、すぐに起き上がり反撃しようとした時、シャルが目の前まで来ていることに気づいた。
「え?」
何が起きたのか理解できなかった。気づいた時にはもう遅かった。
「ごめんなさい」
シャルはそう言うと、アレスの腹に強烈な正拳突きを叩きこんだ。
「ぐふぉ……」
アレスは口から胃液を吐き出しながら、後ろに倒れる。
「げほっ、こほ……」
咳き込みながら必死に立ち上がろうとする。「大丈夫? 立てるかな」
シャルは心配そうな表情を浮かべ、彼に手を差し伸べる。
「すまん」
アレスはシャルの手を掴み、立ち上がった。
まだ痛みは残っているが、動けないほどではない。
「次は俺の番だな」
「うん」
アレスはファイティングポーズを取ると、シャルに肉薄した。
まずはジャブを放つ。
シャルはそれをあっさりと避けた。
そこから流れるような動作で連続攻撃を仕掛ける。
「はぁ!」
「やあ!」
二人の掛け声とともに激しい攻防が繰り広げられた。
両者の実力はほぼ互角だった。
5分後、一旦距離を取った。
「なかなかやるな。さすが俺のライバルだけあるよ」
アレスの言葉にシャルは不敵な笑みを浮かべた。
「そっちもね。でも次は勝つから!」
「それはどうかな!」
二人はまた攻撃を再開した。
「せい!」
アレスの放ったローキックがシャルの太腿に入る。
「きゃっ」
シャルは思わず悲鳴を上げた。
「まだまだ!」
アレスは休む間もなく、シャルを攻め立てた。
「この!」
シャルはアレスの攻撃をいなし、カウンターを仕掛ける。
しかし、彼女は焦っていたため普段なら絶対にしないミスを犯してしまった。
(しまった)
一瞬の隙を突いてアレスのミドルキックが彼女の脇腹に入った。
「痛ったー」
シャルは蹴られた箇所を押さえてしゃがみ込む。
「今だ!」
アレスはチャンスとばかりに攻め始めた。
「させないよ!」シャルは即座に立ち上がると、蹴り技を繰り出してきた。
だが、体勢が悪い状態で放たれたため、威力が十分ではなかった。
アレスは彼女の攻撃を難なく避けると、ローキックを繰り出す。
「くぅ!」
シャルは何とか堪える。
彼女はこのままでは不味いと悟り、勝負に出た。
「えい!」
気合を込めてジャンプすると、空中回し蹴りを繰り出す。
アレスはこれをまともに食らってしまった。
「ぐわっ」
彼は苦悶の声を上げてよろめく。
「これで終わりだよ!」
シャルはすかさず追撃しようとしたが、アレスが素早く体勢を立て直すと、彼女の鳩尾目掛けて右ストレートを繰り出した。
「うっ」
シャルはお腹を押さえ、片膝をつく。その顔には苦痛の色がありありと浮かんでいた。
アレスはそんな彼女に追い打ちをかける。
「悪いが勝たせてもらうぞ!」
アレスは素早いステップで距離を詰めると、左右のストレートを連続で放つ。
シャルは何とかガードしたが、ダメージは大きく、ついに床に倒れ伏してしまった。
「はあ……はあ……」
シャルは息も絶え絶えの状態でどうにか立ち上がろうとした。
「シャル、立てないのか?」
アレスは心配そうな声色で問いかける。
「大丈夫。立てる」
シャルはゆっくりと立ち上がり、構えを取った。
アレスはその姿を見て、勝利を確信する。
「次で決める」
「私だって負けられないの」
二人は同時に駆け出した。
「はあああっ!」
「やあああ!!」
そして渾身の右ストレートが相手の顔面に命中し、互いの身体が大きく仰け反る。
「うおおおっ!」アレスは雄叫びを上げながら、更にラッシュを続ける。
「負けるかぁ」シャルも同じように叫んだ。
二人のパンチの応酬が続く。
やがて、徐々に拳が相手に届き始め、少しずつダメージを与えることができるようになってきた。
だが、それでも相手を倒すまでには至らない。
(こいつ、意外に強い!)
(強いけど、絶対勝ってみせる!!)
二人は再び激しく攻め合い、次第にお互いの攻撃が当たるようになった。「ぐふっ」
アレスのボディブローがシャルのお腹に入る。彼女は少し苦しそうな表情を浮かべたが、すぐに持ち直して反撃に出る。
「はあ!」
強烈な左アッパーがアレスの顎に命中。彼の頭がガクンと揺れる。
「せい!」
続けて、飛び上がってのハイキック。これはアレスの側頭部にヒット。
「つぇいっ!」
着地と同時に、今度は右の正拳突き。
「まだまだぁ!」
アレスは左手で受け止めた。
その後も激しい攻防が続いた。
二人の額からは汗が流れ落ちている。
「「はぁ、はぁ、はぁ」」
もう体力の限界だった。
「アレス、まだやるの? そろそろ限界でしょ」
シャルの言う通り、アレスの方もかなり疲労していた。
「そっちこそ、そろそろ諦めたらどうだ」
二人は睨み合う。
「そっちから来ないなら、次は私の番ね」
シャルはそう言い放つと、一気に間合いを詰めた。
「やあ!」
鋭いジャブを放つ。
アレスは両腕を使ってガードした。
シャルはさらに連撃を仕掛ける。
「せい!」
「くぅ!」
アレスの顔に何発もパンチが入る。
アレスは防戦一方だった。
(このままじゃまずいな)
彼は一旦距離を取ることにした。
シャルは逃がさないとばかりに、追いかける。
「待てえっ!」
彼女は叫ぶと、後ろ回し蹴りを放った。
「うおっ!?」アレスは慌ててしゃがんで避ける。
シャルはそのまま空中に飛び上がると、かかと落としを繰り出してきた。
「くぅ」
これも何とか避ける。
シャルは再び跳び上がり、踵を振り下ろした。
「しつこいな!」
アレスは腕を交差させてガード。衝撃に備えて歯を食いしばるが、思ったほどのダメージはなかった。
シャルはアレスの腕を掴むとそのまま床に叩きつけようとする。
「ぐっ」彼は必死に抵抗する。だが、シャルの力の方が強くて抜け出せない。
「アレス、これで終わりよ!」シャルはそう言って渾身の力で投げ飛ばそうとしたその時―――
「うわあああっ!」
突然アレスが大声で叫び出し、シャルを力いっぱい押し飛ばした。
「きゃあ!!」
シャルは悲鳴を上げて吹っ飛ぶ。
何とか受け身を取ろうとするが、失敗して背中を打ち付けてしまった。「痛った~」
痛みに耐えながらも起き上がろうとする。
だが、アレスはそれを許さなかった。
「俺の勝ちだ!」
勝利宣言をすると同時に殴りかかってくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます