【八限目】大学ボッチの俺が、唯一の幼馴染に避けられているんだが、どうしたらいい?
風邪も治り、3日振りの大学。
大学の食堂では、多くの大学生が席を囲い、楽しそうに談笑しながらご飯を食べている。
「──ふ。どいつこいつも、幸せそうなアホ面してやがるぜ」
そう言って、俺──雨宮光太郎は、チャーハンを一口、口にする。
周りが大人数で食事をする中、俺はボッチでご飯を食べていた。外で食べる事も考えたが、外のベンチで一人ご飯を食べる姿を人に見られるのも嫌だし、講義室で食べるのもボッチ感が増して嫌だ。食堂なら、人は多いが俺みたいなボッチ飯を食べる人も2、3人はいるだろうと思ったのだが。
いるには、いる。ただ、嫌がらせとか思うほどに、俺の周りは団体客ばかりだった。
「ちくしょう……いつもなら大体、月美がいてくれるのに」
昼食を摂るとき、大体、幼馴染の月美がいる事が多い。もちろん、彼女は俺のようにボッチではなく、料理関係のサークルに所属し、友人も何人かいる。それでも食事を摂るときは一緒にいてくれる。
しかし、その月美は今はいない。
何故なら今度は月美が風邪を引いたからだ。
もちろん、今度は俺がお見舞いに行こうかと連絡した。しかし、断られてしまった。
(まぁ、俺も前に看病に来てくれた時の事を思い出すと、ちょっと気まずかったしなー)
思い出されるのは、柔らかい太ももの感覚と割れ物に触れるかのような指の感触。
(いや、あの時は月美の様子も変だったしな……あいつも風邪引いてたんかな)
きっとそうだろうと、決め込む。
そうでないと勘違いしてしまいそうになるし、何より次に会う時にどんな顔して会っていいのか分からなくなる。
月美は幼馴染で、光太郎にとっての良き理解者だ。その関係はこれからも続けていきたい。
──ブー、ブー。
その時、スマホの着信音が鳴る。画面に表示された名前を確認して、「ん?」と首を傾げる。
電話に出る。
『やー、やー。おひさー、お兄ちゃん』
軽い調子で、そう呼ばれる。
「はいはい、おひさー。お前から電話なんて珍しいな、咲」
『あー……そうかも? まぁ、そんな事はいいから。お兄ちゃん、明日の土曜日は暇? というか、暇だよね? 暇じゃないなら暇にしてよね。あたし、お兄ちゃんのところに行くから』
畳み掛けられるように、一方的にそう告げられる。
「いや、待て待て。お前来るって……なんでそんないきなり」
『いいじゃん、別に。あたし、暇なんだもん』
「お前が暇なのかよ! いや、というか急に来られても困るんだが」
『別にあたしは困らないから良くない? なに? なんか予定あるの?』
なんだ、その自分本意な言葉は。
咲は他人に対しては普通なのに、俺相手になると凄く我儘というか、遠慮がないのだ。
「いや、別にないけど……」
『じゃあ、いいじゃん。あたし、お昼ぐらいにはそっちに行くから。ご飯作っておいてね。あとは整理整頓、部屋の中もちゃんと換気しておく事。お兄ちゃんの匂いで充満してる部屋とかマジ無理だから』
「お、おう……」
『ん! じゃあよろしくねー』
そこで電話が切れる。
嵐のように来て自分の要求だけを告げて、咲は一方的に電話を切ってしまった。
「あいつ、マジで来るのか? 面倒くさい……」
ため息を零し、チャーハンを一口口にする。
……とりあえず明日の昼飯は何を作ろうかと、スマホで料理を検索し始めた。
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