【三限目】ASMRとの出会い

 俺、雨宮光太郎が初めてASMRという存在を知ったのは、高校三年生の11月の時だった。

 大学受験というプレッシャーに押し潰された俺は焦りから勉強に手が付かず、夜も不安でほとんど寝る事が出来なかった。

 無駄に浪費されていく時間。それと比例して募っていくプレッシャーと不安。

 せめて、ちゃんとした睡眠は取れるようにしようとスマホを開き、色々と調べた時に見つけたのが、ASMRというものだった。


「……へー、ASMRっていっぱいあるんだなぁ」


 未知の領域に足を踏み込んだ気分で、その時は勉強の事も忘れて、好奇心の趣くまま、どんなものがあるのかサイトを見ていく。


「ん? 何? 耳舐めなんてものもあるの? ……あ、コレDouTubeで観れるじゃん」


 DouTubeと言うのは、無料で様々な映像が観れる動画サイトだ。自分で編集した動画を投稿したりする事も出来る。

 

 ──今の内に、一言だけ断っておく。

 俺が調べたASMRの種類の中には、環境音や雑談、咀嚼音や耳かき音もあった。それでもあえて、『耳舐め』を選んだのは……ちょっとエッチな響きのあるやつって気になるじゃないですか? だって男の子だもの。


 早速俺は検索サイトの注意書きに従って、スマホに繋いだイヤフォンを耳に入れる。

 DouTubeのアプリを開き、『耳舐め』と検索ワードに打ち込んで、出てきた動画の再生ボタンを押した俺は──運命と出会った。


『──罰ゲームに……キミの耳、食べちゃうね?』


「ふぁーーーーっ!?」


 聞こえてくるのは、大人っぽい女性の囁き声と脳まで届く、ぴちゃぴちゃという耳を舐める音。

 あまりの衝撃に心臓が高鳴り、脳が真っ白になった。


『はむ、はむ……どう? 気持ちいい?』


「あ、あ、あ、あ……」


 未知の体験に、どうしていいか分からない。幸い、この時は家族全員が自宅にいなかった。


『キミ、ここが弱いんだね? ふふっ、キミの弱点、もっと舐めてあげる』


「────っ!!」


 ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃっ! と高速で舐められる音に、声にならない悲鳴を上げる。

 そんな流れが、15分間ほど続いて。


『──ん。罰ゲームは終わり。これからは、私の言う事をちゃーんと、聞くんだよ? 分かった?』


「は、はひ……」


 そうして、動画は終わる。

 俺の初めてのASMR体験は、衝撃的な形で幕を閉じた。

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