文芸部

Nuru

第1話

「同性と手を繋ぐだけでドキドキなんてする?」

 私は親友から聞いた言葉が脳裏に焼き付いていた。

 文芸部に所属している私は、放課後に小説を書いている。書き始めたのは最近で、小説を読むことに飽きてきたから、自分で書いてみようかな、と安直に思ったのがきっかけだ。

 最初は自分のスマホで書いていた。フリック入力は普段使い慣れているおかげで得意だったし、これなら学校の隙間時間に書ける思っていた。しかし、画面が小さいので全体で文章を眺めることに向いていないと思って、母にねだってラップトップのパソコンを買ってもらった。パソコン自体、授業でしか触ったことが無かったので、操作に苦戦した。キーボードも最初はホームポジションの存在も分からないくらい遅い入力だったが、スマホと変わらない速さで文字が打てるようになった。

 話は戻って、ある日の放課後のこと。私はいつも通り文芸部の部室で小説を書いていた。私が書いている小説の内容は百合小説で、簡単に言うと、女の子が女の子を好きになるという話。

 そして、自分が書いている百合小説を親友に見せた時に、言われた言葉。

「百合が好きな人って、別にそんな要素は無いのに、ちょっと手が触れただけで、決めつけてる気がする」

 親友の言葉が胸に刺さる。

 私が百合小説を書く理由は、たぶん、希少性なんだと思う。

 偏見がある人には、取っ付きにくい内容だと思う。私の周りでも女の子同士で付き合っている人なんて聞いたことないし、(もしかしたら、隠れて付き合っていて私が知らないだけかも)百合が好きな友達も周りにいない。

 男女の恋愛は、現実の世界でありふれているが、同姓同士の恋愛は、私にとって特別感があった。

 同姓同士で好きになる事って、本当に存在するのだろうか?

 私は百合作品が好きだし、百合小説を書き始めているが、そのフィルターを通して女の子を見ているのではないかと疑問に思った。友達同士で手を繋ぐことだってあるし、抱き合ったりもする。よく二人で遊ぶし、どちらかの家に行って、泊まったりすることだってある。それを百合目線で見るか、仲のいい友達同士で見るかなんて、人それぞれだから。

 自分の百合に対する意識が、親友の一言で少し変わった。

 ドキドキしたり、キュンキュンしたり、肌と肌が触れ合うことだけが恋愛ではないし、百合だって、もっと自由であると思う。

「わたしたちの関係ってなに?」

 倦怠期のカップルみたいな質問を、私は親友に投げかける。

「は?ただの同じ部活の友達でしょ」

「だよね」

 私は笑って、小説の続きを書き始めた。

 わざとらしいムーブなんていらないくらいに、縛られていない関係だって、素敵だなと思った。

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文芸部 Nuru @kak_nurunuru

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