四日目・第7、8試合

第七試合

司馬遷「まずは人数決定だ。ムラービトは1人、春秋戦国は3人希望で、3-7でムラービトが勝った」


実況「春秋・戦国時代からは李牧です!」


司馬遷「中国では大きく三つのバトルフィールドがある。北の異民族、華北の中原、江南の河川地帯だが、李牧は北の異民族対策と、中原での秦対策をしているという点で非常に優秀だとされている。逸話自体は少ないが、キングダムの強さも全く嘘ではないと言えよう」


ハルドゥーン「何か久しぶりに解説っぽいことを言っているね」


司馬遷「うるさい」


実況「対するムラービト朝からはユースフ・イブン・ターシュフィーンです!」


司馬遷「強いのか?」


ハルドゥーン「先程の言葉を借りるなら、ユースフ・イブン・ターシュフィーンは四つのバトルフィールドで戦ってきた。すなわち、サハラ砂漠、北アフリカの乾燥地帯、スペインの平原、そしてスペインの城だ。この四つ全てで勝ってきたのだから、強い。ウィキペディアの日本語版がないのが悔やまれる一人だ」


実況「対戦地はスペイン・バレンシアとなりました! エル・シッドを打倒して獲得した城ということでユースフ・イブン・ターシュフィーンにとっては縁のある城です」


李牧「やれやれ、防戦得意の私がここまで来ることになるとは」


実況「早速李牧が秦軍の兵隊を連れてきました」


李牧「きちんと動きますね~。私もこんな強い兵を率いたかったです」


実況「言うことをきちんと聞くので感動して泣いています」


李牧「さて、敵軍は…とおおっ!?」


ハルドゥーン「何? ユースフ・イブン・ターシュフィーン、全軍を城の外に置いているだと!?」


ユースフ・イブン・ターシュフィーン「防戦は苦手なんでな」


実況「ムラービトって『立て籠もる人』って意味らしいのですが、名前に反して防戦は苦手と宣言したユースフ・イブン・ターシュフィーン、まさかの籠城戦なのに全軍出撃です」


ヘロドトス「しかし、これだと秦の兵士が一人でもバレンシア城に入り込めば占領して勝ちってことにならないか?」


実況「はい。ムラービト朝、まさしく、敷く必要のない背水の陣を敷いています」


李牧「好機とはいえ、ムラービト朝の軍は機動力がありそうなので、簡単に裏には回り込めないでしょう。一度野戦に引きずり出して、その間に隙をついて少数の兵を切りこませるのが吉…」


ヘロドトス「攻撃に出た」


司馬遷「機動力のあるムラービト朝相手に正面攻撃は危険ではないか?」


李牧「言われんでも分かっておるわ!」


実況「後方に騎馬軍団がついています。相手が左右に展開すれば立ち向かうつもりでしょうが、ムラービト朝は騎射能力も高そうです」


李牧「多少不利になってもいいのだ」


司馬遷「確かに目的は城の占領だ。ドサクサに紛れて秦の兵士を潜り込ませればいいのだからな」


実況「今回、秦・楚も参加しているので、秦兵は大変です」


ユースフ・イブン・ターシュフィーン「包めえ!」


実況「おーっと、ムラービト朝軍、すごい勢いで包囲陣を敷こうとしています。後方にいる騎兵隊、何とか防ぐことができるのか…っと、何と! 左翼の騎兵隊は包囲されている自軍を無視してバレンシアへと向かっていった!」


ハルドゥーン「と、同時に左翼の歩兵隊が防御に専念して被害を押さえている」


実況「春秋戦国の左翼が潰れるのが先か? 騎兵隊がバレンシアを占領するのが先か? 時間との勝負になってきたが、どうやら、騎兵隊がバレンシアにたどりつきました。門を破壊して…入城…」


?「斬る!」


秦騎兵隊「うわあ!」


李牧「何い!?」


実況「何でしょうか? 騎兵隊が何者かに切り捨てられ…あーっと! エル・シッドです! バレンシア城主のエル・シッドが侵入者を切り捨てていた! これはいけません! 部外者の参加は反則です! ムラービト朝、反則負けです!」


ヘロドトス (初日のローマ対宋でも乱入者いなかったっけ…)


ハルドゥーン「エル・シッドって、レコンキスタの象徴だけど、実はそこまでムスリムと不仲だったわけでもないらしいからな。しかし、部外者に守らせて全軍展開はずるい」


ユースフ・イブン・ターシュフィーン「そんな話聞いてないぞ!?」

○春秋・戦国 (12) VS ムラービト朝 (10)×

春秋・戦国、二回戦進出



第八試合

実況「陳朝ヴェトナムは一人、ビザンツ帝国は三人ということでまずは人員の争いですが、3-12で陳朝が勝ちました。陳朝からは最初の国史を編纂したレ・ヴァン・フーが出てきました!」


司馬遷「陳朝の時代には、いわゆるヴェトナム語も進化してきているし、ナショナリズムの発展に寄与してきているイメージがあるな。元との独立をかけた戦いが大きかったのだろうか?」


ヘロドトス「ただ、明にも攻め込まれているからな」


実況「ビザンツ帝国からはちょっと意外にもプロコピオスが出てきました!」


ハルドゥーン「いや、『戦史』はビザンツ初期の戦いを記録したものとしては非常に秀逸だ。ベリサリウスという古代世界では最強クラスの将軍に付き従っていたこともあって、世界的な知名度はレ・ヴァン・フーとは比較にならない」


実況「尚、本人は会場中に『秘史』のチラシを配っていますが…。で、観衆が結構買っています」


ヘロドトス「世界で初のゴシップ専門雑誌を作ったという点でも興味深いといっていいのかな」


プロコピオス「下世話ネタで世界は動く! 皆さん、どれだけ賢そうなことを言っていても下ネタが載っている週刊誌とか一度は買ったでしょう? 私の『戦史』は売れていますが、『秘史』はその16倍売れたのですよ!」


※16倍売れた事実はありません


司馬遷「ぐぬぅ…、ゴシップネタが売れるのは私も痛いほど分かっているが、こうあけすけに言われると悔しい」


ハルドゥーン「史記には呂不韋と始皇帝の母親の話とか、ゴシップネタもないではないしね」


プロコピオス「それだけを独立して売り出すべきだった」


司馬遷「いや、売るものじゃなくて国として作るものだし」


プロコピオス「そのついでに作っておけばよかったのだ! そうすれば、ウハウハ大金持ちになっていたはずなのに」


司馬遷「バレたら極刑にされるわい!」


ヘロドトス「確かに…。というか、そんなものばかり記録するのもなぁ」


ハルドゥーン「現代の出版社も、堅苦しいものを出す一方で週刊○×とか出していることを考えると、一人出版社みたいな存在だねぇ」


実況「判定は全員ビザンツです! やはりヴェトナム国史というのはちょっとパンチが弱かったか?」


レ・ヴァン・フー「そんなこと言っても、中々世界的事績ってないよ」


○ビザンツ帝国 (17) VS 陳朝 (10)×

ビザンツ帝国、二回戦進出




四日目第七試合・対戦設定と攻守を逆にして作ってしまい、無効試合にしたバージョン(泣

実況「対戦地は…春秋・戦国時代で代表的な籠城戦ということで、晋陽となりました! 早速、砂塵をあげてユースフ・イブン・ターシュフィーンが到着しました」


ユースフ・イブン・ターシュフィーン「これが晋陽か…」


李牧「あれがムラービト朝の軍隊ですか。当たり前ですが、全く我が中国とは違う軍隊ですね。ふむふむ」


司馬遷「李牧は相手を研究しているな」


実況「一方のユースフ・イブン・ターシュフィーン。慌てず騒がず、周辺の城に軍を派遣して晋陽を孤立させます。まあ、この対戦形式だとあまり関係ないのですけれど」


ヘロドトス「おっと、もうほぼ全域を支配してしまった。直接の影響はないとはいえ、李牧が晋陽から動けなくなってしまったのは痛いのでは?」


実況「実際の晋陽は水攻めで沈没寸前になり、そこで何とか裏切りを取り付けて守りきれたわけですが」


李牧 (裏切りを呼びかけようにも、言葉が分からんしなあ)


実況「裏切りを呼びかける相手もいない状態です。これは苦しい。更にユースフ・イブン・ターシュフィーン、占領地域をどんどん拡大して他の地域との連絡を絶ってしまいました。そのままのんびり包囲戦をするつもりのようです」


李牧「…ぐぬぬ、動けない」


司馬遷「晋陽城以外は完全にユースフ・イブン・ターシュフィーンの支配下になった」


実況「ローマ対宋の戦いに比べて大分雑な侵攻ですけれど、既に12日経過しています。このままで陥落しますかねぇ」


ハルドゥーン「李牧は頑張っているし、晋陽城の中はノーダメージだからねえ」


ヘロドトス「ただ、ムラービト朝側はこのまま何年でも安心して包囲できる。実際バレンシア包囲も凄かったし。年数がかかっても陥落させられることは可能かもしれん」


司馬遷「このままだと判定でどうなるかという部分はあるが、李牧は主導権を取られっぱなしなのが辛いな」


実況「そうですね。打つ手がない印象を与えるのは判定に左右するかもしれませんが…」


李牧「あなた達、外野は気楽なことを言いますけどね。全く見ず知らずの相手で兵法の動きとも異なる連中なのですから、簡単に策など振るえませんよ」


実況「それはそうなんですけれど、ボクシング的に言うと、ひたすらガード構えてパンチを一発も出していない状況です。柔道なら教育的指導が入るかもしれません」


ハルドゥーン「ターシュフィーンの攻城ぶりは堂に入っている。さすがにエル・シッドの本拠地バレンシアの音を上げさせただけのことはある」


25日経過。

ヘロドトス「25日経過して、状況は変わらない。李牧は動けないが、イブン・ターシュフィーンも包囲戦以降は何もできていない」


ハルドゥーン「いや、多少影響は出ているぞ」


ユースフ・イブン・ターシュフィーン「信教は自由だぞ~。ムラービトはいいぞ~。名前だってムラービトで村人と近くて庶民的だろ?」


晋陽の民A「そうだなぁ。このまま城の外に出られないのは苦しいなぁ」


晋陽の民B「確かにむらびとって響きは親近感を感じるよね」


李牧「待ちなさい! 英語だとアルモラービトですから、読みが全然違います!」


実況「城の中が不穏ですね」


司馬遷「うむ。中の住民にとっては、次第に苦しくなってきているところだ。ムラービト朝の誘いかけも魅力的なものになっているだろう」


そして。


実況「30日が経過しましたので判定です! 司馬遷さんは春秋戦国、残りの3人はムラービト朝で、3-1でムラービト朝の勝利です!」


司馬遷「李牧は相手をきっちり研究するタイプだが、それで出だしで受け身に回り過ぎて失敗したな。それにしてもこの試合もお互いサイコロが振るわなかったなぁ」

×春秋・戦国 (5) VS ムラービト朝 (6)○

ムラービト朝、二回戦進出

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